一章・4-1
※'15.11/5 読みやすいように編集しました。
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「それにしても、この基地広いよな~」
霧野の意見もうなずける。部屋を出てもう5分経っているが、中央どころかそこに続く大通りすら見当たらない。
「部屋や集会室に行くときに使った道と反対の道だけど、さっき大通りあったよね?あの通りじゃないのかな……?」
「どいてくださーい」
先ほど機械を運んでいた二人が小走りでやってきた。どうやらまだ運び終わってないらしい。
「あの、すみませ~ん。事務ルームってどこですか?」
「えっと、それは「部事務」のこと? それとも「基事務」?」
「ぶじむ、きじむ?」
「もしかして、新人さん?」
「そうです。あの、「ぶじむ」と「きじむ」って何のことですか?」
「えっとね‥‥‥説明があったと思うけど、今ここは『関東派遣部隊基地』の中の《スペツナツズ》の敷地。他にも、第二、三派遣部隊の敷地とかあるんだけど、その細々した一つの部隊の敷地の中央にあるのが、その部隊の事務を担当する「部事務」、《部隊事務ルーム》のこと。そして、その「部事務」をまとめたり、『関東派遣部隊基地』の管理をしたりしているのが「基事務」、《基地事務ルーム》のこと」
「なるほど‥‥‥」
「それで、どっちに用があるの?」
「わかりません‥‥」
「困るな……。じゃあ、何の用でそこに行くの?」
「えっと……部屋の家具を頼もうと‥‥」
「それならどっちでもいいから、近い部事務に行くといいよ」
「わかりました! えっと‥‥この道をこのまま進めばいいのですよね?」
「そっちは逆方向だよ?」
「えっ? でもこのナビはこっちって‥‥」
「見せて」
そういうと、すっと【電子マップ】を取られてしまった。
「あ~。これ基事務に向かってるよ……。行先を『第一派遣部隊事務ルーム』っと。はい。これでいいよ」
「ありがとうございます」
「ちょっと見せろ」
「おい、霧野! 自分は何もしなかったくせに‼」
「別にいいだろ」
霧野は俺から【電子マップ】を奪うと、それを見ながら自分のを直し始めた。
「じゃ、俺らはいくぞ」
「はい。失礼しました。頑張ってください」
「おう」
作業着の二人は急ぐように、来た時よりも早く走っていった。
「サンキュっ」
「もう、霧野ったら‥‥‥」
そういいながらも自分でマップを確認したら、今来た道をそのまま戻るルートになっていた。どうやらかなり遠回り……というか、時間を無駄にしてしまったようだ。
「行くか‥‥」
「うん‥‥」
既に二人ともつかれていた。そのため「部事務」につくまで二人が話すことはなかった。
☬
「やっと見えた~」
俺に話すきっかけを与えたのは【事務ルーム】という看板だった。この前に口を開いたのはもう十分も前のことだ。早歩きでもすればよかったものの、まさかこんなにも離れているなんて思わなかったから、疲れるのを避けようと普通に歩いてきたのだった。
「よく見ればこんなところに距離が書いてあったんだな‥‥」
霧野が指したところを見ると『残り30ⅿ』と記されていた。
「にしても、こんなに広くて不便じゃないのかな~」
「広いなら広いなりに意味がある!」
俺からしてみれば何気ない一言だったが、なぜか霧野のスイッチを入れてしまったようだ。そういえば霧野は前から家が狭いと愚痴を言っていた気がする。
「俺がここに住めばここも俺の家のようなもの!」
「それはちょっと違うんじゃないかな‥‥」
人間、熱が入ればおかしなことを言うものだ。俺だってそういうこともあることだろう。
「さてと。ついたことだし、さっそく頼もうぜ」
「そうしたいのはやまやまなんだけど……どうやって話せばいいかな?」
「どういうことだ?」
「さっきは向こうから話してきたからよかったけど、こっちから話しかけるのは‥‥」
「さっき?あ、さっきの運搬係か。確かに向こうから話しかけてきたな、一応」
(「どいてくださーい」は、話しかけるっていうか?)
霧野はそんなことを考えていた。
「ようは、俺らはここで働いてる(?) 人たちに、どう接すればいいかってこと」
「それは‥‥人によって違うんじゃないか?」
「だから、今どうすればいいか悩んでるんだよ」
「そんなの、決まってんだろ。ここはあくまで事務ルームだ。基地とか部隊とか気にせず普通の事務の人と思って話しゃいいんだと思うぜ」
「そう……だね、よしっ」
俺は覚悟を決めるのだった。
「すいませーん」
「……はーい」
聞こえてきたのは女性の声だった。
「何か御用ですか?」
「えっと‥‥」
「(家具だろ!)」
「(そうだ……)あの、家具を‥‥、部屋に置く家具を頼みに来たんですが‥‥」
「家具、ですね。少々お待ちください」
そういって、対応してくれた女性の事務員さんは奥の部屋へと入っていった。
「おい、何女に緊張してんだよ!」
「だって。シュリンプさんは、まあ大丈夫っていうか話しやすかったけど、あんな感じの人と話すの中学ぶりだからさ‥‥」
「そういや高校は男子校だったからな。大学は行ってねぇし、そうなるな。」
「でしょ?」
「でも普通に生活してて話す機会あんだろ。それこそバイトで接客するときどうしてたんだ?」
「俺……調理担当だったんだけど‥‥」
「そういや、そうだったな‥‥」
俺と霧野は幼稚園の時から一緒にいる。まあ、幼稚園の時はあまり話すこともなかったらしいが、小3とか小4とかになってから話すようになり、それから同じ中学は行ってよりなかも深まり、そして同じ高校に入学した。そのあとは二人ともあまり考えておらず、大学は行かなくてもいいだろう……とのことでバイト生活を始めた。会社に入れなかったのではない、入らなかったのだ。フリーターになるつもりはなかったが、人とのコミュニケーションの取り方と社会のルールを学ぼうととりあえず成人になるまではバイトをすることにしたのだ。ただ俺は、一人暮らしだったからよく自分でご飯を作ってて、それでなぜか料理がうまくなっていたせいでバイト先で接客をすることはなかった。一方霧野はというと、バイトの中で一番といわれるほど接客技術を持っていた。だからこの基地に入って初対面の人が多くても緊張せず、すぐに打ち解けることができたのだろう。
「お待たせしました。えっと、こちらが【カタログ】になります」
そんなことを考えているうちに事務員さんが戻ってきた。
「【カタログ】ですか?」
「ご存じないですか、では説明します。この基地では、この【カタログ】を使って家具の受付をしています。この中にあるものであれば、どれを選んでもかまいません。ただ、家具は種類ごとに分かれていて、その中で一つまでしか無料でお届けすることはできません。それ以降は、実際お金を払ってもらうか優秀な活躍をしたときに軍からもらえるポイントを使わないといけないのでご了承ください。頼まれたものに関しては、在庫にあればすぐにお届けすることができますし、もし在庫になくても一週間以内に補充するので、予定が合うときに連絡してくだされば係りの者が部屋まで運びます。説明は以上です。何か質問はありますか?」
「あの、少し話が変わるんですが、基地に家具の持ち込みはできますか?」
「持ち込み‥‥といいますと、あなたの家から持ってくる、ということですか?」
「そんな感じです」
「可能です。ただ個人で持ってくることはできませんので手続きをして基地宛に荷物として送ってください。そうすれば、係りが搬入口から荷物を運び部屋の前、または倉庫に保管しておいて次来た時に部屋に運ぶことができます」
「手続きって、何すればいいんですか?」
「この紙に部隊名、名前、部屋番号、何を送るかを記入してください。あとは普通に送ってもらえれば運びます」
「あて先はどこへ?」
「スペツナツズなので、上の《美空》に送ってもらえればいいです。表記を見て判断できるので」
「了解です」
「それで、そちらの方は決まりましたか?」
「えっと‥‥ベットのB-04番と、あと机のD-07番をお願いします」
「ではこの申請書に書いてください。そのお二つでしたら在庫にありますので、すぐにお届けすることができますがどうしますか?」
「すぐお願いします」
「わかりました」
俺はすぐ、渡された申請書の記入事項を埋め事務員さんに返した。
「確かに。では、今から十分ほどしたら係りの者が部屋へ持っていきます。それまでに部屋に戻っているようにしてください」
「書き終わりました」
霧野もちょうど書き終わったようだ。
「頂戴します。それでは、届き次第連絡いたしますので荷物を送ってください」
「ありがとうございます」
「要件は以上ですか?」
「はい」
「ありがとうございました。それでは私はこれで失礼します」
そういって、事務員さんは最初に出てきた部屋に戻っていった。
「にしても、霧野が「敬語」……ぷっ」
「わ、笑うなよ。そんなんしょうがねえだろ」
「そうだけど、さ……ぷっ」
「おい! ってかお前、さっきからおかしくねえか?」
「へ?」
「ちょっといいか?」
そういって、霧野は俺の顔を触ってきた。
「ぅわっ、霧野。なんだよお前、突然そんな……」
「やっぱり。お前熱あんじゃねえか」
そういわれると、なんだか顔が火照っている気がする。
「大丈夫か?」
「もちろん。この通り大、じょう、ぶ……」
「おい、メリ。メ……!」
俺にこの後の記憶は残っていなかった。
1000pv突破したら3日置きに投稿しようと思います。
(pv数と関係ない……つもりです)
二章のプロットが書き終り、1も書き終りました。
余裕はあるはずです。