幕間 チュートリアル編7 ロッテル、チュートリアルを罵倒する。
幕間 チュートリアル編ラスト!
幕間 チュートリアル編 ㈦
ロッテル、チュートリアルを罵倒する
そこは草原の真ん中だった。
俺、霧野ロッテル――アカウント名〈ロッテル〉は、《OF》のチュートリアルをするため、ここに転送されてきた。チュートリアルというくらいだから、いきなり銃の練習をするのかと思ったが、どうやらそうでもないらしい。
というか、それ以前に自分の銃もない。しかもほかの隊員たちはおろか、メリの姿すら見当たらない。
このただ広い草原に、俺一人が立っていた。
そのことに驚きつつ周りを見回していると、目の前の空間にウインドウが浮き出てきた。
ぽーん。
『これから身体調整を始めます』
何やら注意音のような音が鳴って、表示が切り替わり、身体調整(?)が始まった。
体のあちこちを触らされた。
『♪~』
「は?」
突然、どこか懐かしい曲が流れ始めた。
「妙なところで地域性出してくるな」
ぼやいてみたが、もちろん返事はない。
ウインドウがころころ変わる。本当のところを言えばやりたくはなかったが、やらないと進まなそうなので、ため息を一つついて俺は某体操を始めた。第一、第二までは小学校の時の記憶を頼りに何とかやったが、第三が出てきたときにはさすがに驚いた。ただ、音声の指示を頼りに動けたので、何とかクリアできた。
「こんな難しいことさせるなよ!」
などとは言ってはみたものの、俺の気持ちをシステムが分かってくれるはずもなく、またウインドウが浮き上がってきた。
走ったり飛んだりと体力測定のような指示を、書かれた通りにする。やってみると、部隊部屋にいたときよりも動きやすさが増していて動くのが楽だった。あの体操のおかげだろうか。感謝するつもりは微塵もないが。
しばらくして、最初のチュートリアルが終わった。
「ん? 最初の?」
俺は書いてあったのをそのまま読んだだけだが、確かに『最初のチュートリアル』と書かれている。
「まだ続くの……いや、そう言うことか」
『最初のチュートリアル』と言うのは、このVRの《OF》をするためのものであると、トカレフが言っていたのを思い出した。これは何かを教わるというよりかは、ゲーム中のシステム不良を減らすためのものだ。
無くす、まで行かないのは仕方の無いことだろう。
ぽーん。
『チュートリアル『個人』を開始します。木の下まで移動してください』
ウインドウが出てくると同時に、離れたところにある木――森の一番手前の木の元に薄い円が現れた。あそこに行けと言うのだろう。
「ったく、じれってえな」
歩くのさえ面倒くさく感じて、走って移動を始めた。
どうやらこの世界にはスタミナと言うステータス数値があるようだが、この様子だとまだまだ余裕だろう。
ぽーん。
『試験は成功です。個人チュートリアルに入ります』
その円の中に入り木に触った瞬間、またあの注意音が鳴った。
そして、何やら訳の分からないウインドウが出てきた。
「試験? なんだそれ。もしかして、今からそれがあんのか?」
試験なんて一言も聞いていない。見落とすわけないし、でももう個人チュートリアルになるって書いてあるし……。
ぽーん。
『チュートリアル『個人』を開始します』
「いや、それはもうわかったっての」
再びウインドウが出てきた。ただこれで、試験の存在は分からぬままとなってしまった。
ぽーん。
『主に使用する武器を選んでください』
「ようやくか」
なんかもう疲れていた。なかなか楽しいのが始まらない。
「早く銃撃ちてえ!」
そんな気持ちで、 俺は前もって決めていた〔SR-25〕と言うスナイパーライフルを選ぶ。確認画面の『Yes』を選択すると、画面が消えていきなり背中に荷重が加わった。少々驚いたが、背中に手を伸ばすと、明らかに生物のものではない、固いものが手にぶつかった。それをつかんで前に持ってくると、何度も画像を見て見とれてしまったあの夢の銃が目に入ってきた。
「よっしゃ! ガンゲーっぽくなってきたぜ!」
にやりと笑いながらつぶやく。
これを夢に思うようになったのは装備することが決まってからだが、それ以降は自分の部屋にでも飾っておきたいほど愛着がわいていた。
それをこうして、ゲームの中ではあるが実際に触っているのだ。興奮しないわけがなかろう。
トカレフによれば、この銃は狙撃銃でもあるのにもかかわらずセミオート、つまり自動的に次の弾が装備されるようになっているというのだ。すなわち連射が可能と言うことで、近距離でも有効なのだそうだ。
しかも、50年ほど昔の銃なので、性能の割に価格が安い。まあそれは現実の話だが、リアルを追究するこの《OF》でもきっと安いのだろう。
まあ、安いからと言って何かいいことがあるのかはわからないが。
それに加え集弾率、つまり正確さがこの性能なのにかなり高い。アメリカでサイレンサー抜きで市販されているもので、100mで1インチ(2.54㎝)の集弾が保障されている。550mで150㎜の集弾が可能な銃として開発されたのがこの〔SR-25〕だから、狙撃での命中率は期待していいだろう。
後はプレイヤースキル、つまり個人の力量次第と言うことだ。
手に持った銃はずしりと重く、逆にそれがフィットしてくる。安定させて撃つのはとても難しそうだが、この感覚はたまらない。
ぽーん。
『しばらく並木道を歩いてください』
そこまで確認したとき、アナウンスが入った。俺は〔SR-25〕を肩にかけなおすと、元来た方とは反対のほうに歩き始めた。そこでまず驚かされたのは、まわりの風景だった。ガンゲーのチュートリアルなのだから、殺伐とした、廃墟やら岩だらけの峡谷やらだと思ったのだが、目の前に広がっているのは、紅葉した木が連なるきれいな景色だった。ちょっとしたドラマの撮影にも使われそうなほどである。少し歩いただけで、並木の幅が広くなっているところに出た。
ぽーん。
『テストを開始します』
『テスト:落下する木の葉を撃て』
「は?」
本日二回目の呆れ声。それを出させるほどの内容だった。
テスト、ということは、これはやってもやらなくてもチュートリアルがやり直しになったりしないのだろうか。チュートリアルを失敗したらやり直しを食らう、とトカレフから聞いたが、これはそれに入らないということだと思う。だとしたら気楽にできると俺は考えたのだが、直後に出てきたウィンドウにその期待は裏切られた。
『※テストは、落下してくる木の葉の内半分を撃つまで続きます』
それすなわち一つ目を撃てれば一回でテストが終わるということだろう。だが、考えてもみよう。もし最初の方で全然――否、ずっと撃つことができなかったら。どんどん増えていくクリアラインに、一向に増えない被弾数。もはややり直しどうこうの問題ではなく、テスト自体が終わらない可能性がある。もちろん制限時間はあるかもしれないが、だからと言ってそれを待つのは性に触れる。
「ゲームなのにそんなのありかよ!」
普通は、いや、この《OF》以外は、ゲームなのだからたとえテストで目標値に達しなくても、ある一定条件に到達すればチュートリアルが続けられる。むしろ、そうでないと困るのだ。
しかし、この《OF》では、どこのいじわるな奴の所為か知らないが、それができない。いや、実際はそれくらいできなければ普通にゲームすることが難しいということなのかもしれないが、だとしてもこれは酷い。今後もこのような理不尽な設定が出てこないとも限らない。いや、きっと出るだろうなと考えていると、
「なんだこれ?」
俺は声をあげた。というのも、さっきまではてっきりテストまでのカウントダウンが表示されているのだろうと思っていたウインドウの数字が、なぜか上昇しているのである。
表示は現在、『0/5』となっている。見ているうちに、表示は『0/6』になり、『0/7』になった。
「ん?」
なぜ分母だけが増えるのだろうか。そもそもこの数字は何を表しているのか。
考えるが、ウィンドウにはその数字と注意しか書かれていないし、まわりを見ても、普通の並木道である。すると、頭上の枝から一枚葉っぱが落ちてきた。その葉っぱが地面につくと同時に、ウィンドウの表示が『0/8』から『0/9』へと変化した。
そこで俺は気づいたのだ。
「もうテスト始まってるのかよ!」
そう、もうテストは始まっていたのだ。
おそらく、この分母は落ちた葉っぱの数。
だとすると、この分子は葉っぱに当てた回数なのだろう。
「始まってるなんて、どこにも書いてないじゃねえか!」
そこまで言って、はじめに『テストを開始します』と書かれたウインドウが表示されたことにはっと気づき、溜息をつく。
そして、今度の落ち葉を確実に撃ち抜こうと、狙撃準備をする。
ますは〔SR-25〕を肩から外し、確認する。幸い、弾は入っているようだ。しかも、最も多い20発のマガジンだ。現在の表示は『0/12』。さすがにマガジンの全弾は無理でも、20発のうち6割を当てればテストが終了する。
「なんだ、案外簡単かもな」
そう思いを口にしつつ、上を見上げる。すると、10mくらい離れた右手の枝からの葉っぱが外れ、落ちてきた。だが、空気の抵抗を受けているようで、落ちる速度はかなり遅い。十分に狙って撃てる。
そう考え、俺は落ち葉に狙いを定めようとして、
「なっ」
あることに気が付いた。
撃てない――。
正確にいえば、撃った後の反動が大きすぎる。〔SR-25〕はセミオートではあるが、狙撃銃である。反動だって、ちょいとそこらの拳銃とはわけが違う。反動を小さくするには、バイポットを立てるしかない。ただ、そうすると落ち葉への狙撃がかなり難しくなる。スナイパーは、攻撃対象が自分よりも下に来るような場所で構えるのが基本であり、上への狙撃は、不可能ではないが普通ならばしない。
ならばと土台になりそうなものを探すが、ここはきれいに整備された並木道。岩はおろか切り株すら見当たらない。
しかもこの場合、近いものでは数mのところの木の枝から木の葉が落ちてくるのだ。下手をすると、撃った時の衝撃で葉の落ちる軌道がずれる可能性がある。
「んなもん無理に決まってんだろうがぁー!」
アニメとかなら、周りにいる鳥が一斉に飛び立っていきそうな叫び声を上げる。
それをからかうように、叫び声の振動で外れた赤く染まった葉が、それが花びらでなくともきれいなくらい、一斉に落ちていった。
幕間は、次の二章・7、8の後に、《RPO》チュートリアル編にあります。
今のところすべて自分で書く予定ですが。
次回予告 二章・7-1
※まだ書いていないので内容が載せられない……
受験を控えているので、それが終わるまで更新は一時中断させていただきます。
ここで終わるわけではありませんが、数か月更新できないと思います。
なお、次回更新は3月予定。
気が変わってそれより早いかもしれませんし、もっと遅いかもしれません。
あいまいですいません……。
受験頑張ります。
お楽しみに。




