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operation flags  作者: k.はる
二章 -開始(Start)-
46/52

幕間 チュートリアル編4 タカシ&ルーピン 懐かしき思い出1 ――二人の出会い――

明けましておめでとうございます。

(内容とは関係ありません)


書くペースがだんだん上がってきた……。

タイピングをもっと早くしたい……。

 幕間 チュートリアル編 ㈣

   タカシ&ルーピン 懐かしき思い出 一

          ――二人の出会い――

 その瞬間、僕の体は光の粒子で包まれて、その空間から消えました。



「よっ、ルーピン」

「あっ、高志くん!」

「〈タカシ〉、な。一応ゲーム内だから。音は同じでも、それだと現実考えちゃうって言うか……」

「うん。ごめん…………」

「あっ……別に攻めてるんじゃなくて、その――」

 ぽーん。

『チュートリアル『コンビ』を開始します』

 なんでしょうか。突然機械音が流れたと思ったら、ウインドウ画面が浮き出てきました。

 どうやらチュートリアルが始まったみたいです。

 この《OF》ではこのようにウインドウが出てくるのでしょうか。

 宙に浮かぶ画面……、なんかかっこいいです。

『テスト:銃を撃て』

 少し会話が詰まっていたので、タイミングはよかったとは思いますが。

「なあルーピン、こりゃ一体どういう意味だ?」

「そのままの意味だと思いますけど」

「そうは言ったってよ、それじゃ何のテストにもならないだろ?」

「それも、そうですよね……」

 その内容があまりにも不確定なものでした。

 テストと書いてある以上、何かを試すものであることは確かなのですが。

 まさか、銃を撃つことができるかのテストなのでしょうか。

 それならば簡単です。

 今は実際に体を動かしているので昔みたいにボタン操作で攻撃はできませんが、現実世界でしっかり勉強してきました。モデルガンだって持っています。撃ち方、いえ、銃の使い方が分からないはずがありません。

 それに、僕みたいな人でなくてもできるよう、はじめは操作方法が出てくるみたいです。

 銃を両手で持つと、ポップウインドウが手に持った銃――〔AK-74〕からいっぱい伸びています。

 正直、知っている僕にとっては逆に邪魔なものです。

「じゃあ一体なんだって……」

 高志、いえ、タカシくんが何かを言いました。

 ですが、後ろの方は突然聞こえてきたプロペラ音にかき消されてしまいました。

「なんだ⁉」

 聞こえなくなったタカシくんの声が聞こえてきました。きっと、叫んだのでしょう。

 びっくりするくらい大きな音が何の予兆もなしに聞こえてきたので、僕も混乱していました。

 でも、今の声のおかげでちょっとだけ安心しました。

「あれは……」

 声のした方を見ると、何やら空を見上げながら腰が引けているタカシくんの姿がありました。その目線を追うと、僕は見ました。大きなプロペラを回し、両脇に俵を置いて正座しているような形の、黒い浮遊物体を。

「なんであいつがこんなところに出てくるんだよ⁉」

 いつもなら、敵が見えたらすぐ攻撃を始めるタカシくんにしては珍しい驚きようですが、出てきたものがあれなら、納得もいきます。

 僕は、いえ、僕達は、そのものの正体を知っています。

 でもそれは、昔のゲームだとかなり後の方に出てきたもの。

 それなりに強くなってから、レベルの高いダンジョンやクエスト、イベントに出てきたものでした。

 それの名は、通称コブラ。

 正式名称は[AH-1S コブラ]という、()戦車(・・)ヘリコプターです。



 ぽーん。

『対象に、より多くの弾を当ててください』

 コブラがホバリングを始めて少しすると、さっきのウインドウと重なるように、別のウインドウが出てきました。

「『対象』って……まさか、あれを倒せって言うのか⁉」

 この《OF》の敵は、何も現実世界に居そうな動物的なものに限りません。リアリティを追及しているだけあって、どこかのファンタジーに出てくるようなモンスターは、ダンジョンやイベントでもない限り現れません。

 その代り、いるのです。強力と呼ばれる個体が。

 このコブラもそのうちの一つ。

 まだヘリコプターだっただけよかったと言えるでしょう。

 これがもし戦車や戦闘機、あまつさえ艦船だったら、その時点で戦う気がなくなっていたことでしょう。

 戦車に比べて守りが弱く、戦闘機に比べてスピードが遅く、艦船に比べて攻撃力が低い。

 それでも十二分に強いですが、一度戦ったことのある敵ですので、まだ『戦える』と言う気になるのです。

「にしてもよ、コブラはないだろ! どんなチュートリアルだよ」

「それは、僕達のレベルが高いと、認めてくれたからだと思います」

「そういや、レベルもまだ変わってないみたいだしな」

 今回、サーバーが開くときのはじめの最高レベルは10です。もちろん、昔からしている僕達と比べてもかなり低いです。

 しかし、新人さんと昔からしている僕達のような人との差をなくすためには仕方ないことです。それに、一時的に下がるだけであって、経験値はもとのレベルに追加されますし、そのレベルまでなら上限が上がるタイミングでレベルが上がると言うので、はじめにこの世界になじむためにはちょうどいいと思っています。

 だからと言って、さすがにレベル10ではこのコブラは倒せません。

 レベルが変わっていなかったことは、幸運だったと言えるでしょう。

「なんだこれ?」

「どうかしましたか?」

「いや、この部分なんだがな……」

 タカシくんは、ウインドウの右下を指します。

 そこには、『5:00』と書かれていました。

「制限時間……ではないでしょうか」

「だとしたら、カウントダウンするはずだろ? さっきからまったく変わってないぞ、この数」

「それは、何か始まるきっかけとかがあるのではないでしょうか。例えば……コブラに攻撃するとか」

「それじゃあこれは何だ?」

 そう言って、指した指を左にずらします。

 『0/0』と、二つ並んで書かれていました。

「カウントではないですか? 何発中何発当たったのか、みたいに」

「おまえすごいな。よくそんなこと分かるよな」

「いえ。ただ、前もって集められる情報はしっかりまとめておいただけです」

 褒められては、照れてしまうではないですか。

 ツンデレキャラになるつもりなどまったくありませんが、つい冷たく返してしまいました。

「よくそんなものおぼえられるよな」

 そうは言いますが、僕がこういうことをするようになったのは、他の誰でもない、タカシくんが原因……、いえ、タカシくんのおかげなのですよ?

 もしかして忘れてしまったのでしょうか。

 二回の出会いの、きっかけともいえることを――――。


    ☬


 一体何年前のことでしょうか。

 そのころはまだ、少しレベルの高い中学校に通う学生でした。

 まあ、なぜか制服の無い学校でしたが。

 入学して間もない頃。僕は今に増して静かで、口数が少なく、一人この学校にやってきたので話せる人もいませんでした。

 『学校は友達を作る場所』とよく聞きますが、僕にとっては勉強も同じくらい大切です。

 もちろん、友達がいらないなんてことは言いませんが、だからって無理に作る必要はないのです。

「あの、切田さん」

「なんでしょうか?」

 その様子が、敬わせたのでしょうか。

 その人は、僕のことを『君』でも『ちゃん』でもなく『さん』をつけて呼びました。

 だからと言って、僕は何も思いません。

 この学校の、いえ、このクラスだけかもしれませんが、すべてくじ引きで席を決めたので、僕の隣は同性の人だったのです。

「隣の席の徳見(とくみ)って言います。これから、お願いします」

 その人は、行儀よく挨拶をしてきました。

 僕が知らないだけかもしれませんが、中学校でここまで礼儀のいい人はなかなかいないと思います。

 ですが、徳見さんには、僕と同じようなものを感じました。



 ある日のこと。

 僕は何となく、徳見さんに話しかけました。

「徳見さん、趣味は何ですか?」

 なぜか人目の多いところで僕と話すのを避ける徳見さん。あまり話をする機会がありません。なので、そう言ったことを聞くのは初めてでした。

「えっと……」

 そのまま、口ごもってしまいました。



 次の日の授業中、徳見さんからこっそり紙を渡されました。

『あの、昨日の話だけど……』

 そう書き出された紙、いえ、手紙を読みました。

 どうやら徳見さんは、自分の趣味が特殊だからと、教えて変に思われたくなかったようなのです。

 ですが、せっかく仲良くしてくれている僕になら、話してもいいと思ってようで。

『それでも、知りたい?』

 最後には、そう書かれていました。

 そこまで知りたいということはありませんが、何かを徳見さんは抱えている気がしました。それを少しでも支えられるのならと、僕は『はい』とだけ書いて、その紙を返しました。

 それを読む様子を見ていると、徳見さんは、肩を緩めました。

 やはり、何か言われることが怖かったのでしょうか。

 そのあと僕の目線に気付き、こちらを見てきました。

 その時の笑顔は、今までで一番自然で、輝いて見えました。

『じゃあ、放課後話すね』

 そう書かれた紙を渡されました。

 家の近かった僕達二人は、でも、一緒には帰っていませんでした。

 その紙は、つまり今日は一緒に帰ってもいいと言っていました。

 なんとなく、うれしい気持ちになりました。



「じゃあ、話すね」

 その日は部活がなく、そして僕達は日直だったので、その仕事を終え、みんながもういなくなった帰り道でのことです。

「実はね、こういうのが好きなんだ」

 そう言って、徳見さんはリュックからある雑誌を取り出しました。

「そうなんですか」

「引かない……んだね」

 驚いてはいます。

 だって、その雑誌は軍事物の雑誌でしたから。

「なぜ、引かなければいけないのでしょうか?」

「……いや、別に引かなくていいんだけどさ。ちょっと、予定が崩れちゃったなーって」

 確かに、徳見さんの外見からしたらそのようなものが趣味だなんて思ってもみませんでした。

 ですが、僕は少し世間知らずなところがあるようでして、常識ではないことに、違和感を覚えないようなのです。

 あまり自分では、自覚していませんが。

 ただ徳見さんは、僕のこの発言をそのようには受け取らなかったようでして……。

「もしかして、ひかるもこういうの好きだったりするの?」

「えっ……いえ、そう言うわけでは…………」

「なんだー。そうだったのか―。なら、もっと早くに話すべきだったな――」

 なぜだか、僕もそう言ったものが好きと言うことになってしまいました。



 その週末、僕は徳光さんの家に誘われました。

 徳光さんの家族は、自分の子供が初めて同級生を連れてきたと、なぜか泣いていました。

 まあ、このような趣味では、仕方ないのかもしれませんが。

 あの後少し調べまして、少し常識を付けました。

 少なくともこの年齢で、こう言った趣味の人はあまり多くないと。

「それで、これなんだけど……」

 その時初めて、僕は知りました。

 この後の自分の人生を変える《OF》、《Operation Flags》に。

「いやさー、これすっごいはまってるんだよねー。なんていうか、すっごいリアルでさー、もう、画質もいいし。なんといってもこの迫力。たまんないよね!」

 そしてまた、この時初めて『引く』と言うことを知りました。

「ほら、見てて!」

 そう言って、徳見さんはゲームを始めてしまいました。

「あのっ……!」

 始めてしまってからはもう遅く、いくら声をかけても、気付いてもらえませんでした。

 いえ、ヘッドホンをつけているので、聞こえていないだけかもしれませんが。

 僕も仕方なく、勧められたもう一つのヘッドホンをつけました。

 そして――――



「ほらひかる、そっち!」

「はいっ!」

 いつの間にか、肩を並べて《OF》を楽しむようになっていました。

 あの日、見ているうちにだんだんとはまってしまい、ついには自分からやりたいと言っていました。

 それからと言うもの、お互い自分の部屋で、時にこうして集まって、《OF》を楽しみました。

 《OF》は当時、MMO(大規模オンライン)ゲームでしたので、協力してゲームができます。たとえ同じ場所に居なくても、一緒にできるのです。

 VRMMO(ヴァーチャルリアリティー大規模オンライン)となった今でも、それは変わりません。

『ほら若いの! さっさとこっち来い!』

「了解!」

 そして、一緒に居なくてもできるというのが、さらに僕を楽しませました。

 何せ、画面の中で、自分とは別の、まったく違う性格のキャラクターを演じることができるのです。

 文字ではなく、実際の音声での会話。

 それがとても、とても自分を熱中させました。

「小僧! 男なら迷わず突っ込め!」

「はいーっ!」

 引っ込み思案な自分に力をくれる。

 それがこの、《OF》でした。



 そんなある日。

 僕が徳見さんの操るキャラクター、〈バーシー〉と一緒にゲームをしていたときのことでした。

 その時は、だんだんレベルも上がっていて、強さも中堅を超え、やり込み勢と言われている人たちの足元にたどり着いたというころです。

 腕試しだと徳見さんに誘われ、自分たちより少しレベルの高いイベントに挑戦することにしました。

 そのイベントは、人数制限なしの、その時集まった人たちだけで行う討伐系のものでした。

 普段なら、はじめの数回は偵察や様子見で、大体敵の情報が集まってから倒しに行くのが一般的と言われますが、今回はいつもに比べてプレイヤー数が多いことや、その平均レベルが高いことから、初回で倒せるのではと期待の声が上がっていました。

 実際、はじめにいた敵は、すんなりと言っていいほど簡単に倒せました。

 ですが、そのイベントのレベルからして、敵がそんなに弱いはずがなかったのです。

 そのイベントの名前は{未確認生命体上陸阻止戦}と言う、今までも数回発生していたものです。

 その毎回に、サブタイトルのようなものが付いていました。

 そして、今回は{海対陸攻防戦}というサブタイトルが付けられていました。

 ほとんどの人たちが、いつもと同じだろうと油断していました。

 このイベントに初めて参加する僕達にはわかりませんでしたが、イベントの始まりはいつもととほとんど同じだったらしいです。

 そして、いつもなら第二波として対物砲持ちの敵がやってくると警戒の声が上がっていたときのことでした。

 それは姿を現しました。

 モーターボートでもホバークラフトでも、水陸両用車でもない、明らかに大きなシルエット。

 それは、三隻の駆逐(・・)()でした。

 今までこのサイズで出てきたのは、水陸両用車などを運んでくるフェリーのような輸送艦一隻がせいぜいだそうです。

 今まで、超高レベルのダンジョンやクエスト、イベントには『軍艦』が出てくると噂されていましたが、それは本当に強い人たちの挑むもの。

 まだまだそれに及ばない人たちしかいなかったこのイベントでは、そのすべての人たちがその姿をゲームの中で初めて見ました。

 VRではない当時、今ほど伝わってくる情報からの脅威はありませんが、それまでの噂が恐怖心を煽りました。

 そして、地獄が始まったのです。

 主砲は撃たないものの、陸に向かってバンバン機銃で艦砲射撃をしてくる敵。

 それに対してこちらはほとんど、対抗手段は持っていませんでした。

 対物ランチャーや無反動砲はありましたが、それもほんの少し。ゲーム内での実戦ではあまり役に立たないこう言った武器は、あまり人気がないのです。

 さすがに、装甲の薄い駆逐艦とはいえ歩兵携帯火器がどうこうできるはずがありません。

 逃げ惑う人々。

 なおも上陸してくる敵を必死に迎撃する勇敢な人々。

 援軍を求めて、仲間に連絡を入れる人々。

 その中で僕は、何もできず、ただ画面の前でたじたじと怯えていることしかできませんでした。

 そして、それをいい的にと、駆逐艦に乗った敵が狙撃銃で僕を狙うのが見えました。

 それに驚き、必死の思いで体を守り。そして――――

 僕の身代わりとなって、愛銃が破壊されました。

「ルーピン!」

 それに気づき、相棒の徳見さん――〈バーシー〉がこちらに駆け寄ろうとして――――。

 無残にも、機銃で体のそこらじゅうに風穴をあけられ、命を散らしていきました。

「バー、シー……」

 叫びにもならない、恐怖の混じったその声は、相棒に届くことはありませんでした。

(これで僕も――――)

 ちょうど、僕に気付いた小銃を持った三体の敵が、銃口をこちらに向けてきました。

(――死ぬんだ)

 ゲームでの話ではありますし、その中での死亡数は一度や二度ではありませんが、それでも、悲しくなりました。

 こんなにも、自分が弱いだなんて。

 力を手に入れた自分に自惚れていたのを、恐怖をもって実感しました。

 敵が引き金に手を添えました。

 あまりの恐怖に、画面を見る目を瞑ってしまいます。

 銃声が鳴り響きました。

(終わる……)

 でも、被弾音が鳴ることはありませんでした。

 うっすら目を開くと、そこに映っていたのは、武器をなくして倒れている敵。

 視線を右にずらすと、その敵に向けて〔AK-47〕を向けているプレイヤー。

 〈タカシ〉の姿がありました。


次回予告


幕間 チュートリアル編5 タカシ&ルーピン 懐かしき思い出 ――始まるテスト――


(三日後、2016,1/6予定)

お楽しみに。

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