二章・5-8
クリスマスです。
(内容とは一切関係ありません)
3000pv突破!
二章・6もようやくラストです。
少し短めです。
「ああやって、格好つけては見たものの……」
作戦自体、ほとんど白紙に近かった。
節が弱点だってことは分かったし、それを内側から攻撃すればいいことも思いついた。
問題は、それをどう自分がこなせる作戦にするかどうかだ。
さっき同様、爆発を起こすことはできる。でもの場合、一回敵に飛んでもらう必要がある。しかし現状、この敵は羽根をやられてここに下りて、否、落ちてきたのだ。その作戦の望みは薄い。
そうなると、残っているのは右腰に下げられた〔ジャックナイフ〕での攻撃になる。
だが、このナイフを持ってまだ三時間ほどしか経っていないのだ。当然、使いこなせるはずもない。霧野と違い、現実であまり運動が得意でなかった向井は、〈メリオダス〉となって間もない今も、〈ロッテル〉とは違いこの世界でも運動が得意ではなかった。
「【手榴弾】投げてもいいけど、節が大ダメージ入れられるところだって決まったわけじゃないし……」
[コノル・ビータス]の弱点を攻撃したとき、敵が大してダメージを受けていなかったという事実がある。あくまでメリオダスの予想だが、『弱点』と言うのは何も『大ダメージを与えられる場所』だけではないということだ。
[コノル・ビータス]の例を出すと、弱点として示された脚を攻撃しても他の場所と同じくらいの効果しかなかった。
しかし、それはダメージだけを見たらの話である。
全体で見たら、脚はスピード重視の[コノル・ビータス]の動きを封じられる最大の弱点であったと言える。さらに言えば、その動きの止まった[コノル・ビータス]に次々に同じ群れの[コノル・ビータス]がぶつかっていき、結果として一回の攻撃で複数体倒すことのできるダメージを与えられたと言えるだろう。
『弱点』と言うのは、必ずしも『ダメージを与えられる場所』ではなく、その文字通り『弱い点』であるということだ。
この予想は実際に正しく、と言うよりかは少し情報が足りていないだけで部分的には満点なのだが、今のメリオダスが知るはずもなかった。
「俺の予想が合ってれば、あそこで足が切れる!」
そんなメリオダスだからこそ、こんなセリフになるのだろう。
(予想ってよりは完全に勘だけど、でも、そう感じるんだ!)
実はこの勘、学生時代の昆虫の実験で、節から足がポロリと取れてしまった経験がそれを感じさせていたりするのだが、もちろんそんなことはとっくに忘れていた。
(ほんとはもっと考えてたいところだけど、今はそうも言ってられないんだ!)
理由は簡単。もうすでに、敵の脚元まで来てしまったから。
「もっとゆっくり来るべきだった……」
敵はロッテルをマークしているはずだし、今から一度離れれても何の問題もないのだが、それはメリオダスの、否、向井の心が許さなかったようだ。
メリオダスは、足の速度を落とさずにそのまま敵の腹部へと潜りこむ。
「ふぅ……」
安心して、溜息を洩らした。
ここにいれば一応、攻撃は受けないはずだ。
そもそもこの敵、今まで一度も攻撃してきていない気もするのだが、でも飛ばしてくる土やら岩やらに当たるとダメージを受ける。その分ここに居ればそれに当たる心配もなくなるのだ。
(うん)
音にはしない決意を、首を振る動作で表す。
腰から〔ジャックナイフ〕を引き抜き、両手で構える。
そして――――、
「やーっ」
勢いをつけて、腹部へ(・)と走っていった。
黒く輝く甲殻にぶつかるという近さで足を踏み切り、それを思いっき飛び蹴りする。
何もけりで攻撃しようだなんてつもりはない。
甲殻に足が触れたら、クッションのように柔らかく膝を曲げる。
そしてなおも上を目指し、踏み切る。
俗に言う壁ジャンプのような動作を、壁を大きな節足動物の腹部の甲殻に置きかえてする。
(届けっ!)
弱点である節。
その一番低いところにあるものでさえこの高さなのだ。
成体のサソリの一つの脚にある節は大体5つであり、それはこの[スコック・ピローン]でも言えるようだ。もう少し高く飛べれば脚の付け根から切り落とすことができるが、現状ではまず無理だろう。
手を力の入れることのできる範囲でぎりぎりまで伸ばし、意味はないと思っていても、ついつい念で体を前にもっていこうとしてしまう。
だが、そこまでは必要なかったようだ。
どうやら、手を曲げて全力で振りかぶろう押しても問題ない位置まで飛ぶことができたようだ。
これはもらったと、全力で斬りつけるための姿勢をとる。
「やーっ」
そして、予備動作からの通り全力で節に斬りにかかる。
カンッ、と少し乾いた音が鳴って、ナイフが脚の中へと入って行った。
ただ、節は他の場所に比べて細くなっているとはいえ、もとが大木並みの太さがある脚の細くなっているところと言っても、その差はたかが知れている。せいぜい人間の胴くらいまで細くなっているところが限界のようだ。
その半分を超すところまでナイフを入れることに成功したが、しかしそれにとどまった。
体力ゲージを見る余裕はない。 なぜなら、落ちていくのを何とかして軽減しなければいけないからだ。
もし敵の脚にナイフが刺されば、それを切り裂きながら落ちることで速度を落とせるだろうが、この敵はそうではない。チュートリアルである以上武器の耐久地は無限になっているが、もしそうでなかったら武器の耐久値を減らすだけの無意味な攻撃になる。
だからロッテルがやったように、受け身を取ろうとする。
落ちる力を横向きの回転する力で受け流す。両足で着地など到底できないから仕方ないことだ。
現実世界でやったら危険な行為であるが、ここはゲームの、VRワールドのなかである。この最終試験にダメージの条件はないから、もし腕を折って骨折したとしても少し体力が減るだけである。そしてそれが左腕ならば、移動にも攻撃にもさほど害がないのだ。
左腕から入る、柔道のような受け身。まっすぐに伸ばした掌の小指から地面につき、そのまま腕、肩、背中を回るようにつけていく。
結果として、それは成功した。目に見える体力ゲージの減少はなかった。
そしてもう一つ、成果が……。
「なんだ⁉」
突然、今斬った敵の脚が震え始めた。
そして、
「うぉっ」
その切り口を中心に折れ曲がり、そしてついに、脚が取れて倒れた。
「これで移動阻害ができる!」
グッと右手を握って後ろへ引く――ガッツポーズをした。
「敵の脚は四対、つまり八本。あと七つ!」
攻撃方法をつかんだ俺は、次の目標へと走って行った。
☬
「っ!」
ロッテルの目の前で、信じられないことが起こった。
敵の体が沈んで、否、落ちていく。
「何が…………。メリっ、どういうことだ!」
状況は全く理解できないが、落ちていく敵の体が発生させた土煙の中から相棒、メリオダスの姿が目に入ってきた。
その顔は、どこか満足そうににこついていた。
「まあ、見ての通りだよ」
「見ての通りっつったって……何も見えねえんだよ!」
「仕方ないなー。現状のわからないロッテル君にー、と、く、べ、つ、に、この僕が教えてあげよっかなー」
「普段からお前の一人称が『僕』ならその言葉は満点だな」
その声を聴くと、ロッテルはかなり落ち着いているように思えるが、決してその限りではない。メリオダスの様子に拍子抜けしているが、内心かなり動揺しているのだ。
自信満々に攻撃しに行ったあいつがまじで何かをやらかした、と普通ほかの人が思うであろうことと少し外れて動揺している。
「敵の全部の脚の節を攻撃して、全部折ってきたんだよ」
その声を聴いて、少し状況を理解した。
つまり、弱点を攻撃して敵を弱らせたと。
敵の体力ゲージが半分以下になっていた。
「でもなあメリ。それはつまり、これ以上お前さんが何も出来ねえっつうことだよな?」
煙が晴れて、敵の姿が明らかになった。
胴を完全に地面につけて身動きのできなくなっている、鋏と尻尾しかないサソリ。
「えっ……でも――――」
まだ何かできる。
そういう前に、ロッテルは行動を起こした。
「待つのは今で終わり。今度は俺の出番だっ!」
「ちょっ……まっ……」
ロッテルは急に走り出した。
向かう先は敵の頭。
たどり着いたかと思うと、ロッテルは突然、愛銃であるはずの〔SRー25〕の銃身を敵の口のなかへと突っ込んだ。
「これで終わりだーっ!」
ロッテルが、引き金に指を添えた。
「うそ……」
メリオダスが、そんな言葉をこぼした。
それをかき消すように、連続した銃声が響き渡る。
少しして、[スコック・ピローン]は、ポリゴンとなって霧散した。
ぽーん。
『試験終了 試験は 合格 です』
「あっ……」
ぽーん。
『部隊チュートリアルに移動します』
二人の体に光の粒子が集まって、そして、体もろともその場所から消えた。
こうして、メリオダスとロッテルのチュートリアルは幕を閉じたのであった。
やはりメリに格好良いシーンはやって来ない・・・・・・。
さて、話は変わりますが、二章・6に入る前に、幕間を投稿しようと思います。
その一部は、ほかの人に書いてもらってそれを加筆修正したものなので、
書きぶりが違うかもしれませんが、気にしないでください。
というわけで
次回予告
幕間 チュートリアル編01. シュリンプ、チュートリアルを罵倒する。
「ちょっと、何よそれ⁉ そんなの無理に決まってんじゃない‼」
折野春菜こと〈シュリンプ〉は一人、地平線の先まで広がる草原の中で、怒りの感情をこめて叫んだ。
(三日後、2015,12/28予定)
幕間ですがいつもより長いかもしれません。
お楽しみに。




