二章・5-5
短めです。
未編集です。
すいません。
予約掲載の日を間違えていました。
「で、また振りだしかよ――!」
走って戻ったところは、お馴染み(?)のあの丘の上だった。
「仕方ねえだろ。なんだかんだ言ってここが一番安全なんだからよ」
「だからって、またここに来なくても……」
「丘になってる分あいつも上がりにくいんだ。確かに俺たちのスタミナも他んとこより食うが、どうせこうやって休んでりゃ回復するもんだ。そんぐらい気にしなくてもいいだろ」
「いや、そうかもしれないけど、でも同じ場所じゃなくてもいいじゃん!」
「ゲームだったら同じとこ繰り返すのはよくあると思うんだが……。それに、さっきだってあいつはここに上がってこなかっただろ? もしかすると、ここは安全地帯なんじゃねえのか?」
「さあね。そもそもこのゲームに安全地帯なんかがあるかどうかも分からないけど」
「さすがにそんなこったねえだろ。もしそうだったら地獄だぞ」
「確かに」
『安全地帯がない』と言うこと。それすなわち安心できる場所がないということ。
戦いが主のゲームにおいて、休憩する場所やプレイヤー同士で話し合う場所、武器や防具などを手入れする場所やアイテムの補充をする場所などは必要なものだろう。
もしそれがなければ、いつ襲われるかもわからず常に緊張感をもってピリピリとしていなければいけない。最近のゲームだと、たとえ一見安全そうな街の中であっても『PK(プレイヤーキル、またはプレイヤーキラー)』が可能なものや、モンスターなどの敵が襲ってくるものもある。
この初心者支援機能がかなりの数ある《OF》に限ってそんなことはなく、街で襲われるなんてことは特別なイベントなどを抜けばあり得ない。だが一方で、街の外ではどうなのか、と言う疑問に対しては、今の俺たちには知る由もなかった。
「それで、どうするのさ。これから」
「そういやお前弱点分かるんだよな?」
「ちょっと待ってよ、なんでそれ知ってるのさ!」
「その反応見るに、これは本当のこと見てえだな」
「あっ……」
「おまえはそういうとこもうちょっとは気い付けた方がいいぜ。相手が俺の場合は……まあいいが、信用ならん奴らはいっぱいいる。特にゲーム内はな」
「どういうこと?」
「ゲームってだけでリアルで関係持ってないとさ、裏切りが起こりやすいんだよ。後味も悪くなくなるしな」
たとえゲームの中で裏切りや盗みなど、現実世界では嫌われたり捕まったりするようなことをしても、咎められることはなく、嫌われてもそこの関係をなくすだけでその思いは消えてしまう。これはよくSNSの問題で挙げられるが、直接会わない関係はその関係を壊すことが容易であり、そこからいじめや喧嘩などにつながっていく。
ゲームの中でもこれは言えることで、最近増えてきたVRゲームでも現実の顔を使うものは数少ない。《OF》はこの少ないうちの一つに入るが、だからと言ってそう言う問題が解消されるわけではない。
まず、ゲームの中だから覆面とまでは言わないが、顔を隠す装備または服装をしていても別段怪しまれないということだ。それはつまり、素の顔が現実世界と同じものだとしても隠すことが、偽ることが可能と言うことだ。
また、素の顔がばれてしまったとしても関係をなくせば済む問題であり、再び出会うことはそうない。たとえ探されたとしても、最悪そのゲームをやめてしまえばいいのだ。まあそこまではしないにしても、それから隠すことは可能であり、逃げ切ることもできるだろう。
それが現実世界まで関係してきたら、の話になると、これまた問題がない。まずゲームの中でできる行為は全て正当化される。たとえそれが正当的でないとしても、禁止されていないことは事実なのだから咎められない。また、顔を手掛かりに探されたとしても、仮に探偵を使ったとしても、そう言う行為をする人間の居場所をつかむのは難しい。第一閉じこもっているような人間だった場合情報が漏れるはずもなく、そうでなくともゲームの中の出来事を現実に持ってくるのは逆と同じようにルール違反だ。まあ、そもそもそんなことをする人間にルールなど通用するはずもないのだが、それを咎めるような人間がことを現実に持ってきたらその本人が咎められる訳で――――――。
要は問題がないのだ。
もちろんこれはそう言った行為をする側の立場で言った場合であり、される側にとってはたまったものではない。もしそれが課金して手に入れたものだったら、それを盗むということは現実世界でお金を盗むことと同じになる。しかし、法などで咎められない以上訴えることはできない。こうしてつぎ込んだゲームで問題が発生して自虐をする人間も出てきているのが今のゲームの問題だったりする。
さて、話を戻すが……。
このことを踏まえて、さすがに盗みまではしないような人間でも、それで得るものがあれば裏切り行為をしてしまう。信用していた仲間が実は裏に情報を流していたスパイだった、みたいなこともざらにある。ゲームの中では、直接関係のない人間以外は信用してはいけないということだ。
まあ、こいつ(霧野)みたいに直接――――どころかかなり関係のある奴でも、信用できない奴はいるが。
「って、話そらすなって」
(あっ……)
ばれた?
「それで、実際んとこどうなんだ? やっぱスキルか?」
「うん。特殊スキル? って言うのみたい」
「まあ、そうだとは思ったが。さすがあのお前でも初めて見るような、そもそも現実にいないような生き物の生態がわかるわけねえもんな」
「それより、なんで霧――――ロッテルがそのこと知ってるの?」
現実のことを考えていたせいか、久しぶりに呼び間違えた。
「えっと……それは…………」
気を付けた方がいい人間は、どうやらここにもいるようだ。
「ロッテルはどんなスキルなの?」
「それ言うか?」
「じゃあ俺も言わないけど」
「ちっ……わかったよ。言やあいいんだろ。言やあ」
軽くしたうちをして、厳しい――――否、悔しそうな顔を下に向けて隠している。
どうやらこの勝負、俺の勝ちみたいだ。
……いや、いつから勝負になっていたのかは知らないけど。
「⁅遠視⁆だぜ。俺の特殊スキルは」
「鉛糸?」
「鉛糸じゃねえ、⁅遠視⁆だ!」
鉛糸と言うのは、重力の方向を見るための道具のことだ。
「簡単に言やあ、まあ……遠くが見やすくなるって言えばいいのか? 狙撃にはもってこいのスキルだ」
「ふーん」
「自分から聞いといてなんだよその興味の無さは⁉ それで、お前のスキルはっ?」
なんか今のロッテルは威勢がいい。ストレスの所為?
「⁅弱点特定⁆だよ。まあ、文字通り」
「弱点を見つけることができるっつうことか」
「そう言うこと」
「じゃあさっさと使ってくれよ。てか、さっきそれ使えばよかったじゃねか」
「いや、常に使えるようになってるし!」
「じゃあ何で言わねえんだよ」
「それは……」
その時だった。
「ん?」
「どうした? メリ」
「いや、この音……」
「音? 何のことだ?」
俺の耳には確かに聞こえた。否、現在も聞こえている。
「ほらこの……わかった。携帯だ!」
「携帯?」
「振動音っていうか……ほら、マナーの時のバイブレーションの音! ロッテル携帯鳴ってるよ!」
「んなわけねえだろ。バイブしてんなら揺れで分かんし、そもそもこん中に持ってこれねえし!」
専用の場所においてコードをつなげておけばゲーム内で電話をすることはできるが、それはシステムウインドウの表示が受信を知らせるものであり、携帯自体がアイテムになってゲーム内で使えるわけではない。
ちなみに、ゲーム内無線機能以外での遠距離通信をなくすためにゲーム内では受信しかできない。
「そっか……」
「でも、分かったぜ。俺にも聞こえる。その音。確かにバイブみてえだな」
「でしょ?」
「ただまあ、その音の発生源はそんな優しい物じゃないっつうか、受け取りたくないものっつうか……」
「ロッテル?」
だんだん声を小さくしながら、ロッテルは顔をしかめていく。
「あれだ」
そして、震えながら右手で俺の後方を指さした。
「あれ? ……っ⁉」
ロッテルが指差した先、恐る恐る振り向くと、そこには――――。
次回 二章・5-6
※人によっては不快に思うかもしれない部分があります。
それは前半、行替えまでを飛ばしてもらえれば問題ありません。
(三日後、2015,12/19予定)
お楽しみに。




