二章・5-3
いつもに増して短いです。
続く戦闘シーンの合間のクッション(?)みたいな。
そんな場面です。
(前回同様、未編集です)
「メリっ! やっぱこいつ――――」
「避けろっ!」
こちらに向かって駆けてくるロッテル。
そして、それを追うように迫る、一つの鋏。
「なっ⁉」
ロッテルが振り向き、ハサミに驚愕する。
だが、そんな余裕はない。
鋏が少しずつ持ち上がっていき、そして…………振り下ろされた。
「ロッテルーっ‼」
俺はロッテルに迫る鋏に向け全力で【手榴弾】を投げつけた。
ピンはしっかり抜いてある。さすがにそんなドジはしない。
だけども、リミットは3秒もない。
この【手榴弾】が爆発するまでには、最低3秒が必要だ。
つまり、助かる可能性はほぼゼロ。
「くそっ!」
ポケットから出した二つ目の【手榴弾】を握りしめ、歯をかみしめる。
(これまでか……)
自分が死ぬわけではないが、ロッテルは死んでしまうだろう。
どう見ても、あれを耐えきれるはずがない。
そして、コンビで倒さないといけないこの試験で一人がやられてしまえば、もうやり直ししか道は残っていないのだ。
チュートリアルで死んだ場合、そのチュートリアルをまた初めから行わなければいけない。このゲームではそう言う作りなのだ。
これだけは、どう足掻いても覆らない。
俺は力を抜かずに、目だけつぶってうつむく。
たとえゲームだとしても、ロッテル――――霧野の死ぬ瞬間など見たくもない。
生き返ると分かっている分悲しさはほとんどないが、辛さはある。
当たり前だ。これでも一応幼馴染なのだ。
自分が生まれる前から親同士が知り合いで、出産の時期がたまたま重なった。
さすがに病院で隣になるとかそんなドラマみたいなことは無かったが(まあ、俺の父親と霧野の母親が元同級生で、さらに恋人同士だったとかいうそれよりも奇跡な事実があったのだが)、その時は同じマンションに住んでいた。
マンションと言っても二階建ての、八軒しかない小さなマンションだ。
僕は一人っ子で、霧野には二人の兄がいる。
だから、俺の親にはなかった子育ての経験が、霧野が生まれてくるとき、その母親はすでに持っていたのだ。
もとから知り合いの、マンションが同じで、そしてほぼ同時期に生まれた子供を持つ子育て経験のある人間が居たら、それはとても頼れる存在になるだろう。
霧野の母親も、その例外にはならなかった。
そしてその霧野の母親もまた、夫が単身赴任をしていた。
事実上はそうでなくとも、その様子だけ見ればシングルマザーも同然だった。
さらに、年頃の子供が三人もいるのである。
だから、一人でどうこうするのは大変だった。
結果的に、俺の母親と霧野の母親はお互い支え合って子育てをした。
それが今につながっている。
その方がいいだろうと親たちの考えで、俺たちはずっと一緒にいた。
朝も昼も、そして夜も。
同じ建物の中に住んでいるのだ。寝泊りだって普通にしていた。
俺たちの関係はただの幼馴染じゃない。兄弟と言っていいほどの、深い中なのである。
そんな霧野が、今俺の目の前で、殺されそうになっている。
本来ならこう、じっと立ち止まって、何もしないなんてことは無いだろう。
だが、今の俺にはそれを変えられる力がない。作戦がない。道具がない。
できるのはただ、こうやって目をそらすだけ――――――
ドッドドッドドッ――――
「えっ?」
突然、銃声が鳴り響いた。
驚いて、目を見開く。
その瞬間、
「あっ‼」
俺の投げた【手榴弾】に銃弾が命中し、爆発した。
「んな簡単にあきらめるわけねえだろっ!」
その爆発で、鋏が押し戻される。
だがそれもほんの少しだけで、すぐに降下を始めた。
「っ⁉」
そんなほんの少しの時間だが、ロッテルにしてみれば十分だった。
振り下ろされる速度を減速、停止、それどころかマイナス――――上げることすらできたのだ。
いい意味で計算違い。それは絶対に避けられるという確証をもたらすものだった。
ただ、そんなことを知らない俺は、突如として動き出したロッテルを見て唖然とするだけであり、もはや一周して声にも顔にも出ないレベルの驚きになっている。
ドォンッッ!
鋏が地面にたたきつけられた。地割れこそしないが、地響きが近くの岩を壊していく。
「どうした? メリ」
ロッテルは無事に避けきっていた。
だが、すでに驚きからの放心状態に陥っていた俺は鋏の生みだした地響きはおろか、避けきったロッテルさえも頭に情報が伝わってこなかった。
そんな俺を不思議に思って、ロッテルは声をかけてきたのだ。
「…………」
「おーい、メリ?」
ロッテルが俺の顔を下から覗くように見てくる。
だが俺は、まだ放心状態で……。
「っ⁉ ロッテル⁉」
「あー、その調子ならだいじょぶそうだな」
「大丈夫ってどう言う――――」
「とりあえず一時避難だ。このまま続けるっつうのはさすがに無理ありそうだしな」
そう言い残すと、ロッテルは走って行った。
「なんでそんな……」
言いかけて、体が固まった。
背筋が凍る。
なぜか自分のまわりが急に暗くなったのだ。
「――――っ」
上を向くと、やはり、あの黒く輝く大きな鋏があった。が、その鋏は突然生まれた爆発によって姿を眩ました。
「なにぐずぐずしてんだ! 措いてくぞ!」
「ちょ、ちょっと~!」
仕方なく、俺は走り出した。
次回 二章・5-4
※予告は本編に含ませていただきました。
二章・5 はまだまだ続きます。
(三日後、2015,12/16予定)
お楽しみに。




