二章・5‐1
何とか間に合いましたが、
依然としてストックが足りていないので、
短めです。
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「そりゃねえだろっ!」
俺は相棒の――ロッテルの叫び(ツッコミ?)で目が覚めた。
ゲームとはいえ、たとえ数値上でのダメージがなくても痛みがあるこの《OF》。
今まで意識を失っていたのは、きっとそれほどの痛みを感じ取ったのだろう。
だがその痛みは、今はもう全く感じない。
ただ時間がたっただけなんじゃ……と思うけど、きっとそうじゃないんだと思う。
これがゲームらしさってとこなのかな? と思わされた。
「どうしたの?」
「どうもこうもないぜっ。お前のせいで……。これ見ろよっ!」
俺が聞くと、ロッテルは吐き捨てるようにウインドウを見せて、否、指さした。
『模擬戦の結果: 同じ爆発の攻撃判定で、どちらも6ヶ所すべてに攻撃判定が出たため 引き分け です』
「えっ……」
「なっ? そうなるだろ? なんだよ、引き分けって!」
「まあ、それはそれでよかったんじゃない?」
「『まあ』っておい、他人事のように……。お前のせいじゃんか!」
「なんでよ! 俺はあくまで攻撃しただけじゃん‼」
「攻撃っつったって、特攻はダメだろ。自爆攻撃しちゃ元も子もねえぜ」
「自爆じゃないよ! ほら、ロッテルは右腕で俺は頭だったから、左の手元で爆発したらうまくロッテルだけ攻撃判定でないかなーって思っただけだよ‼」
「仮にそうだとして、それは今みたいんときしか使え無くねえか? 普通にそれやったら自分の腹に大ダメージ食らうぞ?」
「それは、まあ、そう……だけど…………」
ゴゴゴゴゴゴゴォォ――――ッッッ!
「なに!?」 「なんだ!?」
その地響きは、突然聞こえてきた。
そしてその音は空気のみならず、地面をも振動させて俺たちまで伝わってきた。
周りにあった、土が固まってできた岩のような塊が次々に崩れていく。
「なんだあれは!?」
ロッテルが、驚いたように指を指している。
その先にあるのは少し急な坂で、アリジゴクの巣のようにへこんでいる。
そして、そのへこみの中央が地割れを起こし、何やら光る黒い物体が姿を現している。
ぽーん。
『最終試験:コンビで協力して、巨大モンスターを倒せ』
二人が驚きと焦りと恐怖とで混乱している中、冷静で落ち着いた様子の機械音がウインドウ表示を知らせた。
☬
「なんだよこいつ。びくともしねえじゃねえか!」
「ほんと、何度やっても全く傷付かない!」
俺たちは、ほとんど動かない目の前の黒い物体――否、モンスターにひたすら攻撃を加えていた。しかし、その効果はまったくないようで、傷が付く様子すらない。
「これじゃ、ゲージが全く……? そういやメリ、こいつの体力ゲージってどこにあるんだ?」
「そりゃ今までと同じく名前のウインドウの下に……あれ? 名前が……ない?」
「そういやこいつ、まったく動いてねえもんな……。バグか?」
「それはないと思うけど……」
ないと思う。ただ、それを証明するものがない。でも反対にバグだと証明することのできる証拠だってないのだ。だから、何とも言えない状況にある。
『最終試験:コンビで協力して、巨大モンスターを倒せ』
何かあるかもしれないとウインドウを読み返してみたものの、やはりそれ以外は書いてはなかった。
「なあ、メリ。もしこれがバグだったら、もしかして今までの全部やり直しになるのか?」
「それはないと思うよ。少なくとも、個人のはセーブされてる……はず」
「でもさあ、いつセーブしたんだ? そんなのどこにも書いてなかっただろ?」
「これはあくまで予測だけど、個人のチュートリアルのところからここに移動してきたときに保存されたんだと思うよ」
「なるほどな。まあ、それならそれでいいんだが」
俺たち二人は既に、攻撃するのをやめている。
見たところ、このモンスターが攻撃してくる様子もないし、特に制限時間があるわけでもなさそうだから、するだけ無駄と判断したのだ。
とはいえ、何も行動しないわけにはいかない。
「これがバグだとしたら、俺たちゃどうすりゃいいんだ? ログアウトできないし、報告だって……」
「まって、報告はあるかもしれない!」
そう言って、俺はウインドウを呼び寄せる。出てきたウインドウから、報告に関係しそうなものを探し始める。が、その前にあることに気が付いた。その表示が目に入って、なぜこのような状態になっているのかが分かってしまった。
「これ、ほんと変なバグり方だよな。まだ地中に埋まってる部分あるじゃ――――」
「ロッテル! 避けて‼」
「は? 何言ってんだよ。バグってんだから、こいつは安全だ――――っ⁉」
突如として、ロッテルの足元の土が盛り上がった。
モンスターの地中に埋まっていた部分を興味ありげに見ていたロッテルは驚き、仰け反いたが、その距離は足りなかった。
勢いよく飛び出した――――否、抜き出されたモンスターの尻尾が、ロッテルもろともそこにあった土を上空へ吹き飛ばした。
「うわっ!」
「ロッテル⁉」
「なんてな。これくらいだいじょぶだっつうの」
そう言いながらも、未だに空中にいるロッテル。どう考えても、無事でなんかいられない。
「よっと」
だが、そんな俺の常識はロッテルの前に通用しなかった。
頭から着く……! と、現実世界、いやたとえゲームの中だとしても無事でいられないような状態から、両手で地面について、それを肘からやわらかく曲げて力を吸収。再び腕を伸ばす力でまた中に体を浮かせると、そこで180度体を回転させて見事に着地して見せた。
「ほら、言ったろ? これくらい当たり前だって」
「いや、それ当たり前だったら体操選手どうなるのさ!」
「それはほら、ひねったり何度も回転したりすんじゃねえか。さすがにありゃ俺にはできない」
「できたら怖いよ……」
忘れていたが、こいつは体操を習っていた。でもそれは小学校の頃の話。中学になったら飽きて、忙しくもなったからきっぱりやめてしまったはずだ。それなのに、まだこんなことができるのか……と思うと、こいつがすごいようにも思えてきてしまう。
「それより今は逃げるぞ! このまま戦うのは危険だ!」
「それさっき俺が言おうとしたのに!」
そんなことを言いながら、俺らは動き出したモンスターから離れていく。
まだ覚醒(?)してすぐだからか、攻撃したりついてきたりはしなかった。
「そんで、こいつはいったいどういう状況なんだ? 動かないんじゃなかったのか、こいつ」
「それはね、あいつは敵がコンビじゃないと動かなかったんだよ」
「あいつのいう敵って俺らのことだろ? 俺らはコンビじゃないか!」
「うん。始めはそうだった。でもあの時は違ったんだよ」
あの時、と言うのはついさっきまでのことである。
だが、ロッテルはどういう意味か分からないようで、首をかしげている。
「練習が模擬戦だったでしょ? あの時にコンビが一時的に解消されてたみたいでね」
「そういやそうだな。初心者補正で、今はまだお互い味方を間違えて攻撃してもダメ―ジねえもんな」
「それを見つけた俺は、さっきウインドウ操作してコンビ解消を取り消したんだよ」
「待った! それじゃあコンビっつうのは片方が操作すれば相手の意思なしで登録できんのか⁉」
「うんん、違うよ。さっきは『一時的に』解消してたから、それを消しただけ。まあ言うならコンビ補正とかをなくす設定にしてあって、それを戻した……みたいな感じ」
「なるほどな。だがそれだけだとあいつが動かなかった理由にはなんねえんじゃねえのか?」
「そのことなんだけど……」
俺は頭脳でロッテルに勝ったことで、知的な(不気味な?)笑みを浮かべた。
「この――――」
だが、それを説明しようとしたとき、何かが落ちてきたことに気付いた。
「石?」
「土じゃねえのか? それ」
俺が拾って言った言葉に、ロッテルが反応した。
「でも、なんで……」
そう思って、上を見た。
「⁉」
「どうした? メリ」
「逃げるよ!」
「なぜ?」
「いいから逃げる!」
そう言って、俺はロッテルの右手をつかむと走り出した。
「なんでだよ! ここはあいつ(モンスター)からかなり離れてるし、安全だろ⁈」
「それは、あれを見ても言えること?」
振り向きながら、俺は言った。
「あれ? ……なっ」
ロッテルの見た光景。きっとかなり衝撃的だっただろう。
なぜならさっき俺たちがいたところに、大雨のように土やら石やらが降っていたのだから。
「ありゃ一体どういう……」
「さっきロッテル飛ばされたでしょ? きっとあの時のだよ」
「そんでもって、それが時間差で降ってきたと。危ないとこだったな」
「いや、今も結構危ない状況なんだけど……」
今俺たちのいる上空には、まるで俺たちを狙うように落ちてくる土や石が空を四割埋めるほどある。知っての通り、どんなに軽い物でも高いところから落とせば危険なものになる。そもそも、石とかは密度で考えれば決して軽くはない。つまり、今落ちてきているのはものすごく危険なもの。
「とにかく、今は逃げるよ!」
「ああっ!」
俺たちは、丘の上目指して走って行った。
次回 二章・5‐2
※予告は本編に含ませていただきました。
(三日後、2015,12/10予定)
お楽しみに。




