二章・5‐2
2000pv突破!
メリとロッテルのコンビチュートリアルの場面(二章‐4・5・6)
を投稿し終えたら、ほかのメンバーのチュートリアルの幕間を投稿しようと思います。
さて、今回もまたまた長くなっております……。
この二章・5だけでword20ページ(いつもの二倍)……
戦闘シーンを長く書く癖は、まだまだ健在です。
ぽーん。
『テスト終了。判定は S:全滅 です』
「終わった……のか?」
また例のメッセージウインドウのポップ音が鳴り、ウインドウが表示された。
それを見たロッテルは、息を吐くようにそう言った。
「たぶん。次の群れが来る様子もないし、それにこれ(メッセージウインドウ)が嘘つくとは思えないし」
俺はと言うと、その音が聞こえた時点で、体から力は抜けていた。
いや、それはロッテルも同じようで、二人そろって何らかのバグで体の操作ができなくなったかのようにその場に体が崩れ落ちた。
「ま、確かにな。エラーはあってもこいつ(メッセージウインドウ)に嘘つかれちゃ何も出来ねえもんな」
「そもそも運営に苦情やら賠償請求やらが送られそうだしね」
「それもそうだな」
戦いの後の静けさ。
それは何かの前触れではない……はずだった。
なぜなら、この後待っているのは練習だ。それはすでに個人用のチュートリアルで二人はやっていて、それのコンビ用になるだけだと、俺らはそう思っていた。
確かに、判定がSで難しい練習になるかもしれないとは思った。
でも、まさかこんなのが練習になるなんて――――。
ぽーん。
『練習を開始します。判定が S:全滅 のため、通常の練習は必要ないと判断されました。よって、今回の練習はコンビ内模擬戦とします。ルールは、以下のものとします』
突然現れたこのウインドウ。このウインドウには、大きく二つの情報が書かれている。
一つ目が、俺らが敵をしっかり全滅させたということ。
これだけをすぐに見つけたロッテルが、「っしゃー! 全滅成功っ!!」と叫んでいる。
そして二つ目。練習内容がコンビ内模擬戦、すなわち俺とロッテルの模擬戦だということ。
ロッテルはまだ興奮気味で気付いていないようだが、俺はその下の模擬戦のルールを読み進める。
まず今回の模擬戦だが、先に相手の六ヶ所を攻撃した方が勝ちと言うのが大まかなルール。六ヶ所と言うのは、両腕両足と胴、そして頭だ。模擬戦中は体力を損耗することはなく、ダメージ判定があった部位に攻撃があったと判断され、それを先に六ヶ所で行えば勝ちと言うことだ。ただ気を付けなければいけないのは、攻撃判定は『相手から攻撃を受けた』と言うことではなく『ダメージ判定があった』と言うことだ。たとえば自分で自分を傷つければその部位に攻撃判定が付くし、そんなことをしなくとも何かにつまずいて転ぶだけでも、下手したら全身に攻撃判定が付いてそれだけで負けてしまうのだ。
次に使用していいものだが、これは持っているものすべていいらしい。
これはもしや爆弾――【手榴弾】使い放題!? と思ってウインドウを見ると、なんと【手榴弾】は無くなっていた。なぜだっ……と思っていたが、よくよく考えればあの【手榴弾】はコンビになってアイテムが共有化されたから使えたのであって、敵対してしまったいまその共有化はなくなっている。幸いと言っていいのかわからないが、たまたま予備として具現化しておいた【手榴弾】が両ポケットにひとつずつと腰にひとつ、計三つ所持していたのはなくなっていなかった。連射可能な狙撃銃相手に刃物しかない状態で爆弾が数個増えてもあまり変わらない気もするが、攻撃手段が増えるのはうれしい。ただ、少なくともこのことをロッテルは知らないはずだから、爆弾を三つしか持っていないことは何としても隠し通さなければいけない。
「なっ!」
今になって、ようやくロッテルはこの模擬戦のことに気付いたらしい。
ロッテルを見ると、目が回っているのではと思う勢いでメッセージを読んでいる。
「それで、どう思う? この状況」
「話変えないでよ!? はぁ……。仕方ないでしょ」
「だな」
『模擬戦を開始します』
これでようやくさっきの場面につながるわけで。
そのあとは知っての通り、今そうであるようにそのまま戦闘に突入したわけだ。
「よしっ!」
ひとまずノーダメ――どこにも攻撃を食らわずに岩の陰に潜り込むことができた。
ここはロッテルからの死角である。だがそれと同時に俺からするとロッテルが死角に入ったことになり、このままでは進まない。進むのは時間と恐怖心だけだ。
「ん?」
何かが頭上を通り過ぎた。
それを影で認識したのだから、弾丸より遅く大きいものだ。
「あっ……」
それは、俺のかなり前方に落ちてきた。
人工的で角ばった、でも丸みを持った楕円形。
【手榴弾】だった。
ボンッ!
手榴弾と分かると同時に、それは爆発した。
「ロッテルの奴、狙いが合って――」
そう言いかけて、影に気付く。
「危なっ!」
【手榴弾】が落ちてきたのは、十分爆発してダメージのある範囲内。
俺はすばやく岩にへばりつく。
「ふぅ」
何とか回避できたようで、ウインドウの俺の体はすべて表示されている。
コン、と何かが頭にぶつかった。もちろん、これはダメージ判定には入らない。
「なっ!?」
だがそれを拾って、血の気が失せた。
それは、【手榴弾】だった。
「今から投げても遅い……」
まさか、これだけで負けが確定してしまうのだろうか。
「くそっ」
俺は目を瞑って、歯を食いしばった。
どうせ今から投げたところで結果は変わらない。ならば堂々と受けてやろうと言うつもりだ。
たとえダメージを食らわない――体力が減らないにしても、痛みはあるのだ。もちろん、現実世界で実際に受ける痛みに比べたらこの程度……と思うかもしれないが、そもそも現実世界でこんな痛みに出会うことなど無いので、今から受ける痛みは未知の痛みなのだ。それ相応の覚悟をしないといけない。
「くっ…………あれ?」
爆発しない。
驚いて手放した、自分の足元に落ちている【手榴弾】が、もう三秒どころか秒以上たっているにもかかわらず、爆発する気配が一切ない。
「あれ? これ安全ピンが刺さったままじゃん……。なんで――」
「それは、このためだっ!」
そんな叫びとも思える声と同時に、銃声が鳴り響いた。
振り向き際に右腕に銃弾が当たる。
「ロッテルっ!? もうっ!」
この距離では圧倒的不利だ。何せ相手は連射可能な銃の使い手。丁度マガジンが空になって攻撃が止んだが、その入れ替えが済んだ時が俺の死に時だろう。
だから、そうさせないために手に持っていた【手榴弾】のピンをこっそり抜き、を投げつけた。
爆発を見る前に全力でその場を離れる。
ドンッ、と爆発音が聞こえた。ウインドウを見ると、そこには右腕が黒く、表示されなくなった俺の体と、両足が同じように表示されなくなった相手――ロッテルの体があった。
「やった!」
たまたまにすぎない攻撃判定だが、あの不利な状況でこちらが優勢に試合を進められているのだ。喜んでおいて損はない。
「このまま――グフッ」
そう喜んで油断していたせいか、背中に銃弾が突き刺さった。あまりにも不意だったため、そのまま押されるように前に倒れて行く。
「そうはいくかっ!」
だが、そのまま倒れてしまってはいい的になるだけ。たとえダメージ判定は無くてもいたいものは痛いのだ。今の攻撃だって背中から針を刺されたような感覚があった。それが連射されて、判定を得るためにむやみやたらに全身に当てられるなんてたまったもんじゃない。
「くっ」
痛む背中を根気でどこかに追い払い、倒れて行く体を回すように、中学の体育で習った柔道の前まわり受け身のような腕の形で何とか着地。そのまま前に進む勢いは止めず、足を地面に着いたとたんに伸ばして立ち上がり、その場を走り去る。
その時ちらりと見えたロッテルは、両足をかばうように伏せの構えの体勢でこちらに銃口を向けてきていた。
ドドド――と、倒れたらそこにいただろうと思われるところにロッテルの持つ〔SR-25〕から放たれた弾丸が地面にめり込んでいく。
それに顔から血の気がなくなっていくのを感じながら、俺は走り続けた。
そして、急停止してすぐ岩の陰に隠れる。
「とりあえず、ここまでくれば……」
一応、相手の視界からは隠れられたはずだ。それにロッテルは今両足にダメージを負っている。俺と違って爆発に巻き込まれたわけだからどういう痛みなのかはわからないが、何かしら痛みがあることは間違いないだろう。
「っ!」
痛みのことを考えたからだろうか、先ほどから銃弾がめり込んだままの背中が痛んだ。ゲームとはいえ、直に痛みが伝わってくる。どういう仕組みなのかは知らないし、そもそも現実で撃たれたことなんてあるはずがないからこれがリアルなのかはわからないが、痛みが伝わってくるのは確かなことなのだ。今はチュートリアル中だからなくても仕方ないが、それが終わったらどこかの店か何かに回復系のアイテムがあることを願うしかない。別に速攻で傷や体力が治るものでなくてもいいから、せめてこの痛みをなくしたいものだ。効果は少ないかもしれないが、頓服ぐらいは欲しい。
だが今は何もない。
俺は気休め程度にめり込んだままだった銃弾を背中から抜いた。それを取ったら血が流れて逆に痛いのでは? とも思ったが、体を動かすたびにこの銃弾とこすれたりぶつかったりで痛んでいるようじゃ集中出来ない。幸い、抜き取ったところから血は流れてこなかった。摩擦か何かで血管が焼塞がれてでもいたのだろう。ゲームにそんなものがあるのかはわからないが。
「よしっ」
俺はそう言って、心を入れ替える。
そして、右腰についた鞘から今日から自分の相棒になった〔ジャックナイフ〕を抜き出した。
さすがの俺でも、このまま再びロッテルに突っ込んでいくなんてことはしない。俺の狙う作戦は『短い接近戦』だ。岩の影をうまく使い相手に近寄って、素早く身を出して相手に攻撃したらまたすぐ岩に隠れるというもの。
今俺がうまく左腕が使えないように、きっとロッテルも足がうまく使えないはず。それなら、たとえ連射可能でも動きが遅くてこっちが速く動いている限り照準に入らずとも攻撃ができるかもしれない。
それに、今はロッテルも突っ込んでくるとは思えない。それは、俺が【手榴弾】を持っていると思っているからだ。確かに持っていないと言ったら嘘になるが、そんなロッテルのようにむやみに相手に投げ込むほどの余裕はない。なぜなら今俺には3つしか【手榴弾】はないのだから。
走って逃げた先が、運よく岩の多い場所だった。上から見ることはできないが、迷路のように道が狭く、入り組んでいる。
「ん? 上……?」
俺は自分の考えに何か引かがった。
何かはわからない。ただ、『上』と言う単語に引かがった。
なんだろう? と思って振り返りながら上を見た。
すると、
「なに?」
岩の上で、何かが反射して光ったのが見えた。でも、今俺は太陽を背に向けて立っている。それが太陽の光ではないことは明らかだ。
「っ!?」
ゾクッ、と何か不気味な悪寒が走った。
これは何か悪いことが起きる。そんな予感がした。
そう思った俺は、その場にしゃがみこんだ。
次の瞬間。
ドゴォンッ!
目の前の小さな岩が粉砕した。
それは岩と言うよりは土が固まったものらしく、粉々になってあたりにばらまかれた。
「危機、一髪……」
驚きで、体から力が抜けてしまった。このことを腰が抜けたと言うのだろうか。
そんなことはどうでもいいのだが、どうやらあの謎の反射はロッテルの銃だったのだろう。だからあの反射が俺に向けて発砲し来たのだろう。
でも待てよ。あいつは方法こそわからないが自力であの岩の上に登ったわけだ。この岩の密集地を見渡せる高い岩の上にいるのだ。
「これは……圧倒的不利」
この状態は危険だ。
少なくとも、ロッテルが岩の上にいる以上あいつが俺に対して一方的な攻撃を仕掛けてくる。あいつにとって、岩の上以上いい攻撃場所はない。俺が登ってくるところを上から狙われれば、俺に勝ち目はないだろう。
「どうしよう……」
そう言い洩らしたとき、また目の前に弾丸が撃ち込まれてきた。
その角度を見る限り、どうやら近づいてきているようだ。
このままここに隠れていては、いずれ見つかってしまうだろう。
「……そうだっ!」
右ポケットに入っていた【手榴弾】を取り出す。
「これで……」
この【手榴弾】は、ただの手榴弾ではなかった。もちろん、違うのは【手榴弾】本体ではなく、周りについているものだ。
これは、テストの時に罠として準備した仕掛けの残り。左ポケットにも同じものが入っている。
この仕掛けは、安全ピンを抜いて安全レバーが握られているような状態で固定して、ついている紐(今は蔦)を引くとレバーの固定がなくなりその後爆発する仕組みだ。安全のため、今はピンが入ったままだが、この状態ならすぐに仕掛けることができる。
さて、今俺のいる場所のことだが、ロッテルからの攻撃で周りの岩が崩壊している。
撃つ速さと移動する速さを考えると、ロッテルは飛び移っているのだと思われる。俺の左腕の間隔がよくなってきたように、あいつの脚も治ったのだろう。
そんな調子でここまで乗り移ってくると、ここで行き止まりの状態になる。
そこでこの仕掛けを作ったらどうなるか。
絶対……とまでは言えないが、かなりの確率で罠にかかると思われる。
だが、それではいけない。
やるなら確実な方法だ。
だから、罠は罠でもひっかけさせて発動するのではなく、罠の場所に来たのを見て発動させるものを使うのだ。
まずは設置。ピンを抜いて蔦を巻き、岩の上に見えないように固定する。
次にその蔦に左ポケットに入っていた蔦を結んで長くする。
そして、その蔦の端をもって、攻撃判定の出る範囲から出る。
「そこかっ! メリ!」
だが、うまく隠れる前にロッテルが来てしまった。
「うっ……」
範囲からちょうど出たところで、右脚が撃たれた。
バランスを崩し、前のめりに倒れていく。
「もう一発!」
また銃声が鳴り、今度は左脚も撃たれた。
そして、完全に体が地面に着いた。
とっさの判断で突き出した左手に、攻撃判定が出る。
「これでもう逃げられない! お前の負けだっ」
そう言って、ロッテルが俺の頭に狙いを定める。
この時点で俺は確信した。
この模擬戦の結末を。
「これで、終わりだっ――!?」
ロッテルはきっと、声の調子から予測するに「これで、終わりだな」と言いたかったのだろう。
だがそれは叶わなかった。なぜなら――――。
次回予告 二章・5-3
(見つけたっ!)
飛び散った破片をもろに受けた両脚は、まだしびれるような感覚はある。だが、今はそれを気にしている余裕はない。
ふらつきながらも、俺はあいつ(メリ)と少しでも近づくべく岩の上を移動していく。
この状態でもし接近戦をやったら、足のおぼつかない俺が速さで負けるだろう。
だったら中距離ないし遠距離の方がいいのでは? とも思うが、それだと岩に遮られて狙えない。
だから俺は『岩の上』と言う選択肢を選んだ。
よろけながらも必死に立ち上がり、手だけを頼りに岩によじ登った。
すると、驚いたことにこのフィールドが見渡せるのだ。
スピードをつければ、岩と岩の間もたいしたことなく飛び越せるほどしか開いていなかった。
そして、さっきあいつが逃げていった先を見ると、思った通り、丸見えだった。少なくとも、しゃがまれない限りは十分狙える場所だった。
さっきからやけに命中率が落ちた気もするが、きっとうまく狙えてなかったからだろう。
俺は伏せて、バイポットを立てて構える。
そして、スコープのレンズにあいつの頭が映った。
その頭はこちらを向いていた。
だが、そんなことはお構いなしに、俺は……撃つ。
(少し変更しています)
(三日後、12/4予定)
お楽しみに。




