二章・5‐1
何とか書けました……。
早く書き溜めをつくらないと!
入試期間は書けないのに……。
5
「えっ……」
倒れていく俺、そして敵。
俺の斬りつけた足から崩れるように倒れ、動かなくなった。
死んだわけではない。だが、足が使えなくなり、走ることができなくなったのだ。
そして、そのあとの体力の減り方が凄まじいようで、もうほとんど残っていない。
倒れてわずか5秒なくして、敵は霧散した。
敵の体力がもともと少ないのはある。全体重のかかった一撃が、たとえ体勢が崩れていたとしても大きいものになったというのもある。
ただ、それ以上にそのあとの減りがそれまでとは別物に感じられたのだ。
なぜ。
そう思ったのも束の間、斬りつけた足が赤い蛍光色で光っているのを見た瞬間、その疑問は解決された。
つまり、この敵――[コノル・ビータス]にとって、足は弱点なのだ。
確かに、現実世界のヌーを見てもそう思えるかもしれない。
ヌーの体重は大体140~240㎏で、それを130㎝前後の肩高の半分ぐらいの長さの細い足が支えている。その足に筋肉が詰まっていることは明らかで、そこを切り付けられたらかなりのダメージがあるだろう。それに、4本の内1本でもそのような状態になったら、立っていることが難しくなる。
もし現実世界で今と同じことをしたら、さすがに死んでしまうことはないだろうが、その場に崩れ落ちるのではないかと思う。刃の入り方が良かったのか、かなり深く斬りつけられていた。
まあ、そんなことを現実でしたら動物愛護法やら鳥獣保護法やらに引っかかるだろうが。
とにかく、今はゲーム――《OF》の中なのだ。それも大規模戦闘中。現実のことを考えている余裕はない。
すでに第二群がロッテルの有効射程に入っている。
いつ戦闘が始まってもおかしくはないのだ。
俺のスタミナは、少し回復して全体の2/3ほど残っている。
俺の持ち場からかなり離れているが、敵の距離からして走る必要はなさそうだ。ゆっくり歩いてはいられないが。
ただ俺は走ることにした。たどり着いた後休めば問題ないところまで回復するという計算だ。
だが、それを選択したのにはもう一つ理由がある。
とっくに有効射程に入ったはずなのに、ロッテルが一切発砲をしていないのだ。
何かあったのだろうか。
しかし、ここから声をかけても伝わらないと思うし、何よりロッテルは今伏せて狙撃の体勢をとっている。たとえ声が届いたとして、集中していて聞いてもらえないか集中していたのに邪魔されたと怒られるかのどちらかだろう。
だから俺は様子を見るために走り出したのだ。
第二群の敵の数は一群と同じく50。だが、その走るスピードは速くなっている。
もしこの敵を今みたいに逃したとすると、一体追うだけでスタミナが尽きる可能性がある。ただ、一体だけなら辛うじて可能、と言うところだろう。
だが、ロッテルが撃たずにそのままの数で敵が来たら、俺だけで全滅など到底できない。
全力でやればできるかもしれないが、次の群との戦闘ができなくなるだろう。
だから、このままではいけないのだ。
ロッテルのいる岩まであと少し。
その時、ロッテルが発砲した。
マガジンは替えていないらしく、発射された弾は曳光弾ではなかった。
しかし、その弾道は明らかに低く、届きそうにもない。
ロッテルは一体何を考えているのだろうか……。
そう思って見ていると、運よく弾が敵の先頭の足に命中したようだ。
だが、驚くべきことはそこではなかった。
命中した一体の体が揺らいだと思ったら、立て続けに後ろの敵も倒れていくのだ。
まるでドミノ倒しのように。前にいる仲間にぶつかっていく。
体力も見る見るうちに減少していき、たったの一発で速くも群れの1/10、つまり5体も倒してしまったのだ。
その5体がポリゴンとなって霧散していき、敵の群れがキラキラ輝いて見える。
そんな群れに向かって、もう一発銃弾が撃ち込まれた。
弾の向かう先は同じく敵の先頭の足元。
またも崩れていき、今度は4体倒せたようだ。
それにしてもなぜだろう。
さっきの群れではうまく当たった時にやっとこ2体同時に倒していたのに、今は楽々その倍を超す量の敵を一発で葬っている。
これは早く聞き詰めなければいけない。
いつもならもう十分声の届く距離だが、集中している今のロッテルにはここからの声は届かないだろう。
だからもう少し近づくのだ。
今ばかりは脅かすつもりなんてこれっぽっちもない。
「ロッテル!」
でも、俺の好奇心はそれを押さえられなかったようで。声が届くはずかないと分かっていても名前を呼んでしまった。
「なんだ! メリっ」
だが、ロッテルの反応は俺の予想とは反していた。
ロッテルはなぜか銃を構えるのをやめ、それどころか俺の方へと歩きはじめた。
「ロッテル!? 敵倒さなくていいの!?」
「ああ。お前のおかげでもっと楽な倒し方が分かったからな」
「???」
『もっと楽な倒し方』。それが、今さっきロッテルがやって見せた攻撃方法なのだろう。
「まあ見てなって」
そう言って、ロッテルはその場に銃――〔SRー25〕を置いて狙撃の体勢で構える。
一体何をするというのだろうか。
まあ、結構予想はできるが。
「いくぞ!」
狙撃前に話すとはまたずいぶんと余裕なようだが、その顔は真剣そのものだ。
ロッテルが敵の群れに向かって発砲した。
その銃口から放たれた弾は、まだ300mほど離れている敵の群れへと大きな弧を描いて進んでいった。
そして、狙ったのか失敗したのかは定かではないが群れのはじめの一番左の敵の脚の、人間で言うなら太ももあたりに着弾した。
遠くを正確に見る道具を持っていない俺からはその弾が当たったかどうかは分からなかったが、ロッテルがガッツポーズをしたところを見ると当たったのだろう。
「あっ……」
そしてまた、さっきと同じ現象、否、作戦が作用する。
弾を食らった敵がその脚から地面へと崩れ落ちる。
その敵に向かって、他の敵がぶつかっていく。ぶつかって動きを止めた敵にまたほかの敵がぶつかっていく。そんな連鎖が、今回は5回巻き起こった。
ぼやけていても分かるほど、それは壮大だった。
驚き、感嘆すると同時に、もしあの突進を自分が正面から受けたら……と、少し恐怖も覚えた。
「なっ、わかっただろ?」
「ごめん、さっぱり分からないんだけど……」
「簡単じゃねえか。脚狙って撃つ。あとは勝手に敵が減ってくのを待つだけ」
「それだよそれ。最後の! あれ一体どういう仕組みなのさ!」
「それはまあ秘密……と言いたいところだが、お前さんにも知ってもらっといた方が楽だからな。特別に教えてやるよ」
「そんなのいいから早く! 敵来ちゃうよ!?」
敵の群れとの距離は、すでに250mを切った。
「まあ落ち着けって。この作戦は、さっきお前が敵の脚斬って倒したときにひらめいたもんだ。お前に斬りつけられた敵がその足から倒れて行ったろ? だから、足を狙えばその場に動きを封じ込められると思ったんだ」
「でもそれじゃあそのあとの説明にならないじゃん!」
「そう早まるな。もし動きを封じ込めたら敵はどうなるか。もちろん封じ込まれた敵は動かなくなるわけだが、じゃあその後ろの敵は?」
「避けるんじゃない?」
「そう思うだろ? だが違うんだ。お前はここまで来た敵しか見てないから分かんねえかもしれないが、俺が狙撃してるときの敵の位置だとかなり密集してるんだ。それこそ一撃で二体狙える並みにな。だから目の前の仲間が突然止まったって、あいつらはそのまま突っ込んでくしかないんだ」
「そう言えば、なんでロッテルはあの敵の弱点が脚だってわかったの?」
「弱点? なんだそれ。俺はただおまえのさっきの攻撃を見て思いついただけだぞ?」
「ふーん。ま、いいけど」
気付くと敵の群れはあと150mほどの距離にまで近づいていた。
「それで、もうこんなに近くなったけど、この距離なら?」
「それなんだが……」
話しながら、ロッテルはスコープを覗く。
そして一発、弾を撃ち放った。
「あれ!? うまくいってる!」
「さっき近くなるほど群れがばらけていったのは俺らが離れていたからみてえでな、今見てたら群れがほとんど崩れずそのままこっちに向かってきてんだ。それに、群れの前後でかなり間隔があいてるようだが、それでもすぐによけたり止まったりできるほど間隔は開いてない。だからうまくいったん、だっ!」
またロッテルが銃声を鳴らした。
「ほら、これでもう半分近くまで減ったんだ」
「でもまだ半分……この距離で! どうするの、ロッテル!?」
「どうするも何も、お前さんの出番じゃねえか」
「えっ?」
「まさか俺が全部倒すとでも思ったか? とんでもねえ。まあこの数なら行けっかもしれねえが、これから増えてくんだぞ? 無理に決まってんだろ」
「じゃあ俺は何すれば!?」
「群れに向かってまっすぐ走る。そして群れの先頭集団の脚を走りながら斬りつけてこい」
「どうやって!?」
「ナイフ固定して走ってきゃいいんだよ! そんぐらいできんだろっ!」
そう言うと、こっちを向いて話すのをやめたロッテルは、再び敵を狙い始めた。
「わかった!」
僕はそれだけ言うと、敵の群れめがけて走って行く。
表示されている広範囲マップにうつされている一対多数のマークがちりちりとその間隔を詰めていく。
迫りくる敵の群れ。
そこに体当たりするような勢いで突っ込んでいく俺。
そして、俺の腹部をかすめるように俺を越していく弾丸。
「はあぁぁっ!? ちょっと、ロッテル!」
「仕方ねえだろ! お前が俺と敵を結んだ直線上走ってんだからよ!」
こんな戦闘時になかなか難しいことを言ってくるロッテルだが、敵群れへ最短距離で近づこうとしたらどうしようとこの道になるだろう。
「そんなこといいから。おまえ、よそ見してるとぶつかるぞ!」
「えっ?」
そう言われて前を見ると、敵との距離はもう至近と言ってもいいほどで、あと少しロッテルの注意が遅かったら本当にぶつかっていただろう。
声には出さないが、ロッテルには感謝だ。
「う、……っ!」
驚きを少しの呻き声だけにとどめ、冷静になる。
右手の〔ジャックナイフ〕を握る力を強め、その上から左手でかぶせるようにつかんで固定。刃が敵に届くほどになったら足を踏み込んで進行方向を変更。敵群れの先頭数対の前を遮るように群れの前の左端から右端まですれ違うように走って行く。
敵とすれ違う都度、両手で持った〔ジャックナイフ〕に抵抗がかかる。
その刃はしっかりと敵の脚に食い込み、切り裂き、馳せることを継続不可能にしていく。
俺の後方では、重いものがぶつかる音や、何かが突き刺さる音が何度もする。
音と同時に地面が揺れることもある。
たとえ現実の解剖で少しこういったことに耐性があるとして、群れの全てが血みどろ浴びた、肉の裂き出ているだろう惨状は見るに堪えないものがあるし、見たいとも思わないから振り向くことはしない。
幸いゲームであるから、体力が尽きてしばらくすると小さなポリゴンの集合体となって、跡形もなく霧散する。
それは、個人のチュートリアルの最終試験で見たように、その霧散した個体の血液やら武器やらもろともである。
「あっ……」
こんなことを思い出したせいで、あの黒歴史が俺の頭の中によみがえってきた。
「こんなこと、考えるんじゃなかった……」
「おいっ! そんなとこ突っ立ってたら流れ弾に当たんぞ!」
そう落ち込んでいるとき、後ろからロッテルの声がした。
俺は何やら身の危険を感じて素早く身を伏せる。
「っ!!」
案の定、今まで俺の体があったところに弾丸が通った。
それを見た瞬間は、心臓が止まると思った。
本当にこのゲームは心臓に悪いと、俺はたびたび思う。
マップで今の群れが全滅したのを確認したのち、俺は振り向きながら立ち上がる。
「ちょっと霧野!? なんてこ――――」
「んなこと言ってないで早く来い! 次の群れ来んぞ!」
「はぁ……」
これがあと九回も続くのか……と、溜息と息衝きが混ざった息を、俺は吐いた。
☬
「っしゃー! 全滅成功っ!!」
「ふっ、ほんとだよ。誰かさんの必要以上な欲望のおかげでね」
「それだけか? もっと褒めていいんだぞ?」
「別に? 褒めちゃいないけど? 確かに考えたのはその誰かさんだけど、実際動いて頑張ったのはその誰かさんじゃないもんね」
「なるほど。その誰かさんってのがお前のことで、お前は自分自身を貶しながら自慢げに褒めてるわけか」
「いや、どう考えても間違ってるでしょ!」
終わったからこうふざけてもいられるが、ほんのついさっきまではこんなに気は緩んでおらず、否、かなり張りつめていた。
それもそのはず。最後の群れの最後の一体で二人とも取り逃がすという大失態を起こしてしまったのだ。
それでなぜ全滅させることができたのかと言うと、その前に楽に倒せるようにと仕掛けておいた紐引っ掛け式の自動爆発の罠を仕込んでおいたのだが、それがなぜか残っていたようでたまたまその場所に敵が走って行ったから最後の一体を倒すことができたのだった。
それを見た俺とロッテルは、急に力が抜けて、その場にへなへなと座りこんでしまった。
「それで、どう思う? この状況」
「話変えないでよ!? はぁ……。仕方ないでしょ」
「だな」
そう言ったとき、謎の機械音が聞こえてきた。
「「それじゃ……」」
「おとなしく撃たれ死ね!」「さっさと斬り倒れろ!」
俺とロッテルは同時に叫んだ。
「うわっ!」
いきなりの銃声。
それが連続で聞こえてくる。
反射的によけたその背中に、銃弾が掠る。
「いきなりなんてひどい!」
「ふん、それが銃のいいとこじゃねえか」
「くそっ」
俺はその場から走り去る。
目指すのは岩の影。
「どうしてこうなった……」
さかのぼること数分前。浮き出てきたあるウインドウのせいで、俺とロッテルは戦うことになった。
次回予告 二章・5‐2
(内容に関しては、本文の最後の方に予告も含ませていただきました)
(三日後、12/1予定)
お楽しみに




