一章・2-1
※'15.11/4 読みやすいよう編集しました。
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週末、俺たち二人は無事にバイトを辞め、駅に来ていた。しばらく待っているとあの日あった時とほとんど同じ格好をした同じ人物─トカレフと名乗る─がやや大きい車を運転してやってきた。どうやら集合は駅だが、『電車で移動』というわけではないらしい。それもそうだろう。もしあの恰好を自分がしていたら、コスプレとはいえあんな怖い恰好で電車には乗りたくないだろう。後部座席には迎えに来た男と似たような恰好をした体格のいいやつが乗っているように見えた。
「よし、持ち物も大丈夫そうだな。目的地はかなり遠い、準備はいいな」
「「はい!」」
「そうだ、紹介しなきゃな。OFの日本サーバーが開くにあたり我が軍から第一派遣隊として作ったスペツナツズに派遣された隊長かつ唯一の経験者、Ca‥‥」
「CapREXだ。スペツナツズの指導役として派遣された。我が部隊の基地に向かう道中いろいろと説明させてもらう」
「ま、そういうことだからしっかり聞いとけよ」
「は、はいっ」
「よろしくお願いします」
「まあ乗れ。到着したら最初の作戦会議をしようと思っている。もうほかのみんなには連絡してあるから遅れるわけには行けない。話は移動しながらな」
そういって、トカレフは俺と霧野をCapREXと呼んだ男の乗っている後部座席に案内した。トカレフさんは運転席に乗った。どうやらこの車を運転するのはこの人のようだ。車が動き始めると、CapREX隊長が説明を始めた。
「まずオペレーション・フラッグスのことから話す。オペレーション・フラッグス、通称OFは、今の形式は2年前に始まったのだが、ゲーム自体は10年ほど前からある。この時点ですでに10を超えるサーバーあったのだが、その時はどのサーバーも仮想世界、VRワールドの技術は入って、いや、開発されていなかった。この技術が開発されたのは4年前、その時OFは実験的に1サーバーだけこの技術を取り入れた。だが、予想以上にユーザーが増え、ただでさえ容量が必要だった仮想世界はデータが足りず、管理サーバーが落ち、全サーバーが機能しなくなってしまった。そこからOFは今の形へ進化していった。一年の準備期間を要し、今から2年前にアメリカの一部のサーバーがVRワールドの技術を導入して復帰した。それから、数か月様子見の期間があったが、無事その期間を乗り越え、サーバーも増やしていった。今ではアメリカだけで7サーバー、全世界ですでに30サーバーを超えている。そして今回、あと十日ほどで、OF日本支部のオープン、同時4サーバーが開く。これは、日本のPCゲームのユーザー数が比較的多かったため、あらかじめ多めに用意したからだ。ちなみにお前らには関係ないかもしれないが、PCゲーム時代のユーザーアカウントを持っている者は、そこから参加することができる。ただゲーム運営の都合上、日本サーバーで入るものの日本サーバーの土地にいる時は、その時の規制の状態より強さが上の場合はそのときのMAXまでレベルや武器が下がってしまう。これはデータが失われるわけではなく、例えばアメリカサーバーではPCゲーム時代に日本サーバーがアップデートした――――――」
こんな、ただ一方的に説明を聞く状態が基地につくまでの二時間近く続いたのだった。
☬
到着したと聞いて、車を降りてから最初に見えたのは……
「居酒屋?」
「そうだ」
どこからどう見ても居酒屋だった。そもそも「居酒屋 美空」という看板や旗が立っている。ただ、居酒屋のはずなのにまだお昼頃という時間帯でもにぎわっていた。
「到着って、基地ではなく昼食の場所ってことですか?」
「いや、ここが基地だ。と言っても基地自体はこの地下にあるのだが」
「でも何故居酒屋なんですか?」
「居酒屋は利益が多い。また常連客ができれば収入も安定する。少なくともこの土地代と食費、そしてここの従業員の給料分以上の儲けがないといけないからな」
「では、この居酒屋はスペツナツズがつくったのですか?」
「そうだ。居酒屋の名前もスペツナツズから来ている」
「「えっ?」」
「いまは「美空」で「みそら」と読むが、もとは「実宇宙」で「みそら」だ。ほら、「スペースナッツ」みたいな感じで。本当は「そらみ」でもいいのだが、「みそら」の方がいいやすいということで今の「美空」の名前になっている」
「なるほど‥‥」
「はっはっは‥‥(失笑)」
まさかダジャレとは、思いもよらなかった。
俺らが「美空」に入ると、席はすべて埋まっていた。店員が「お客様、ただいま…」と言おうとしたときにCapREXに気づいたらしく、「奥へどうぞ」と言われたので俺らは言われるまま奥に進んでいき、とある扉の前まで連れてこられた。
「では、私はここで……」
店員が帰っていく。すると、トカレフが前に出てきて目の前の引き戸を開けた。すると、二畳ほどの狭い部屋が現れ、その真ん中に地下へと続く階段があった。
「では、基地へと入る。入り込んでいて迷路のようだから俺らについてきて、はぐれないように」
「「はい!」」
急に緊張してきた。まさか、ここまで本格的だったとは。「基地」と言っても『ゲームを一緒にやる人たちが集まるところ』くらいにしか思っていなかった自分の考えを改めなければいけない、と思わされるほどの規模だった。自分は今から ――ゲームの中ではあるが―― 派遣隊に入隊する。それは軍に入るということになる。
(自分はこれから軍人になるのか……ゲームの中だけど)
そんなことを考えていた。未知なる領域に入るから怖いという思いより、それがどんなものが楽しみでしょうがないという興味心の方が今は上回っている。
階段の途中にはいくつか扉があった。それを見つけるたび「ここかな?」と思ったが、現実はその期待を裏切り、ついには階段を降り切ってしまった。階段はしっかり舗装されていたものの、階段を降りると土が丸出しになっていた。まるで洞窟の中にいるような、そんな感じである。その洞窟は、途中で行き止まりになっていた。「道間違えた?」と思っていると、トカレフが何やら操作しているのがわかった。トカレフが手を止め、少し下がって目の前の土の壁を見ていると、突然その土の壁が開いた。その中はどこかの機械室に来てしまったかのような感じのつくりで、さっきまでの洞窟と違ってがっちり舗装がしてあった。そこからまた進んでいき、右に曲がったり左に曲がったりしながらいつの間にか広い通路に出ていた。そして、大きな十字路を曲がって突き当りに少し大きい扉があった。ただ、そこには何も書いてはなかった。
「ここが集会室だ」
そういうとトカレフは扉を開けて中へと入って行った。俺たちは遅れまいとトカレフに続いて集会室と呼ばれている部屋の中に入っていった。そこには、明らかに「テロリスト」って感じの服装の人物が5人いた。