二章・3-2
前回に収まらなかった部分なので短めです。
ぽぽーん。
『残り3分を切りました』
『特殊スキルを入手しました』
たまたま重なったようだが、気にするのは前者だ。
このままの作戦を続けても、時間に間に合うかもしれない。でも、それは不確定で間に合ったとしてもギリギリだろう。もちろん、間に合えばそれ以上欲は言わないが、それでも危険な賭けはできるものならしたくない。
俺は正面から[ドルベア]を見る。
今は腰を床につけて、両手を下ろしている。あれは連続投石の準備態勢だ。
もし気付くのが少し遅かったら、俺はあの岩たちの餌食になっていたことだろう。
俺が[ドルベア]と目を合わせた瞬間、あいつの連続投石攻撃は始まった。
さっきと違って今は逃げ場がない。
ただ避けるためにひたすら走り回ることしかできないのだ。
幸い、スタミナが切れて投石は20秒も続かない。ただ、あまり逃げるのに夢中になっているとそのあとの突進攻撃をよけきれなくなってしまう。
だが、それさえ乗り越えられればこっちのものだ。
そのあとのスタミナ切れから回復するまでの時間はかなりあることが分かっている。
その間に何としてもあいつの体力ゲージを今の半分以下にしなければ。
『ウグルルルゥ』
ひたすら避ける俺の行動がお気に召さず、[ドルベア]は大層ご立腹のようだ。
……と敬語を使ってみたが、もちろん意味はある。
怒りのせいか、さっきから飛んでくる岩の大きさと速さが増している。
あれに当たったらひとたまりもないだろう。
ただ、それはスタミナ消費が多いようで、まだ15秒も経ってないが[ドルベア]は突撃準備態勢に変わっている。
少しふらついているが、何とか照準を合わせようとしてくる。
俺はスタミナを意識しながら移動する。
わかったことは、何もこのとき走らなくてもいいということ。
あいつの照準が合う前に移動すればいいということが分かった。
ふらついていて照準を合わせるのが遅くなっているので、歩いても何とかなっている。
だからと言って、早くしないとあいつのスタミナが回復してしまう。
俺は位置を固定する。そこはさっきの連続投石攻撃の時、一番初めに俺がいたところだ。
あいつの投げた鋭利な岩が転がっていて、それが削ったのであろうが岩壁も少しながらとがっている。一番近い、ダメージを与えられそうな所がここだった。
[ドルベア]が照準を合わせたようだ。
俺をにらみながら助走をつけて飛んでくる。
ドンッ
スタミナがなくてあまり速さが出なかったのであろう。
ぶつかった時の衝撃音が今までに比べて小さかった。
そのせいか、あまりダメージを受けていないようだ。
だが、状態が状態で、見るからに困憊しているのが分かる。
ただ俺も少なからずその状態で、すでにスタミナが1/3を切っている。
勢いよく攻撃していきたいところだが、それでスタミナを切らせてダメージを受けたら本末転倒になる。それなりに加減しないといけないかもしれない。
とその時、俺はあることに気が付いた。
[ドルベア]の喉元に赤の蛍光色のような光が灯っている。
ただ、あれは見るからにシステムの光、すなわち実際にあそこが光っているのではなく、それに合わせて光っているような感じだった。
何かと思って視界の下を見ると、
『特殊スキル: 弱点特定 が有効になっています』
と書いてあった。
きっとこれなのだろう。
つまりは、あいつは喉元が弱点なのだろう。
いや、ほとんどの動物がそうだと思うが。
後で調べたところ、思った通り弱点が分かるスキルだった。その効果はと言うと、攻撃するとその場所が弱点かどうかということが分かり、そのあとはそこに印が付くようだ。
ただ、注意として同種、同型の敵でも弱点が同じとは限らないと書いてあった。よく覚えておこうと思う。
話を戻すが、このときの俺はそのことを知らない。だが、この二つを見た俺の直感が、あの場所が弱点だと伝えていた。
今ならカウンターもされないだろうし、もし違ってもその時はまた作戦を変えればいい話だ。今あの場所を攻撃することのデメリットはない。
俺は早速走りだす。
そして素早く[ドルベア]の垂れた腕の中に体をすべり込ませると、思いっきり喉を切り裂いた。
何かを切ったという感覚はなかったが、確かに切れているのが見える。
それだけ柔らかく、切れやすいところだったのだろう。
だが不思議だ。あれだけ固いものを切ったり岩に当たったりしていたのに、この〔ジャックナイフ〕には刃こぼれどころか傷一つ見当たらない。そんなに耐久値が高いのだろうか。あとでトカレフに聞いてみよう。
おっと、今はそれどころではないようだ。
俺が切った喉から姿を出している[ドルベア]の血管がはち切れんばかりに膨れ上がっている。このままだともろに血を浴びてしまうだろう。
それに気づいた俺は[ドルベア]の腕の隙間を通って外に出る。
パァンッ
抜け出してから走って少し、血管が破裂した音が聞こえた。
実際はここまで大きくはなかったはずだが、それだけに集中していた俺にはこれくらい大きな音に思えた。
体力ゲージを見ると、すでに1/10を割っていた。
そして、流血によるものか痛みによるものか、またはそのどっちもかは分からないが、少なくても何かしらの継続ダメージがあるようで、ゲージはさらに減っていっている。
ぽーん。
『残り2分を切りました』
時間はまだあるし、待っていればそのうち体力は尽きると思う。
だが、最後を見ているだけで終わるなんて少し残念な気がする。
せめて最後の一撃は決めたいものだ。
タイミングを見計らって俺は走り出す。
もうスタミナ温存は気にしなくていい。どうせこれで終わるのだから。
徐々にスピードを上げ、ここだというときに飛び上がる。
そして下向きに構えたナイフを両手で構え、全体重をかけて[ドルベア]に突き刺――
ぽーん。
『試験終了。試験は 合格 です』
――す前に、ポリゴンとなって[ドルベア]は消えた。
俺は[ドルベア]のいた空を切って、そのまま落下。そしてスピードを緩めることができず地面に激突。それで体力の半分を切ったことは誰にも言いたくない俺の黒歴史となった。
メリにかっこいいシーンは訪れるのでしょうか……?
次回予告
二章 4-1
ぽーん。
『コンビチュートリアルに移動します』
その表示が出て約五秒後、俺の体は光に包まれ、転送された。
「ここは?」
目を開くと、目の前に草原が現れた。
だが、広さからして始めの草原ではないだろう。
もう一つ違うところとして、所々に巨大な岩がある。
うん。何かが起きそうな予感しかしない。
「あれ?」
そう予感したとき、変化が起きた。約一キロ先に光の結晶体が生まれた。
その光はだんだん大きくなっていき、人間サイズになったところで粉のように霧散した。
敵かっ!?
(途中で切ってます)
(3日後 11/19更新)
お楽しみに。




