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operation flags  作者: k.はる
二章 -開始(Start)-
27/52

二章・2-2

「痛っ!」

上から何か落ちてきた。落ちてきたそれを拾う。それは木の枝だった。

それをもって表示を見ると、『0/1本』と表示されていた。

どうやらこれを切るようだ。

 それを理解した俺は、【ジャックナイフ】を抜いてその枝を切りつける。

 カンッ

 いい音を立てて、枝が二つに切れる。

 それにしても弱すぎはしないだろうか。さすがに【ジャックナイフ】が強すぎることはないだろう。試しに両手で持って、折ろうとする。

 パキッ

 予想通り、すんなりと折れた。

「こんなの訓練になるのかな……?」

 そう思って表示を見る。

『0/4本』

「あれ?」

 確かに俺は切ったはずだ。それなのに、表示は0本のまま。それどころか『/1』から『/4』に増えている。

「おかし……痛っ」

 また枝が頭に当たった。

 表示は『0/5本』となっている。

 サッ

 俺の3M先の草の中に木の枝が落ちていくのが見えた。

 表示は『0/6本』に増えている。枝は次々と上空から落ちてきているようだ。

「そういえば、なんで上から枝が?」

 そう言いながら上を向くと、俺の頭の上空に枝が落ちてくるのが分かる。

「うわっ」

 慌てていたせいか、俺は避けるという行動を起こさず防ぐために右手を上げていた。

 カンッ

 いい音が鳴った。反射的に閉じていた眼を開けると、そこには右手に握った【ジャックナイフ】が見えた。そういえば、つかみっぱなしだったのを思い出す。

 それより木だ。下を探すと盾に真っ二つに割れた木の枝が落ちていた。

「表示はっ!?」

『1/7本』

「よしっ」

 これでわかった。

 表示には、『落ちてくる枝を切れ』と書かれている。

 つまりは、『落ちた枝を切れ』ではなく、『落ちている最中の枝を切れ』と言うことなのだろう。

 何とも紛らわしい。

 サッ

 そう思っている間も枝は落ちてくる。

「やるか」

 俺は決意を口にし、上を向く。

 ちょうどよく、一本の枝が落ちてくるのが見えた。

「よしっ」

 俺は枝の落下地点まで走り、急停止。そしてナイフを構えてちょうど枝がその前に通るとき、思いっきり切りかかる。

 ブンッ。

 そのナイフは空を切った。

 音からしてかなりの速さで切り付けたはずだが、それでも枝は刃が届く前に通り過ぎてしまった。

「…………」

 少し落ち込むが、そうはしていられない。

 それは視界の片隅に次の枝が落ちてくるのが見えたからだ。

 俺は駆け出す。

 今度はさっきのように止まって切り付けるのは難しそうだから、すでにナイフを構えている。そのまま枝に突進し、切りつけるつもりだ。

「やっ」

 勢いよく腕を振る。

 が、やはりナイフが枝に当たることはなかった。

「そもそも、こんなに落ちてくるのが速いのに、切ることなんてできるのかな……?」

 さっきのはたまたまだ。たまたま真上に落ちてきて、そこにこれ――《ジャックナイフ》があったから切ることができた。でも、切りつけて何とかなるようなものじゃない。長さは肘から肩の長さより少し長いくらいなのだから、けして難しくはない筈だ。

 でも、実際はいまだに一本も(まぐれは除く)切れていない。

 俺は表示を見ることにした。

「おっ、何か出てきた」

 俺はそれがいい情報だと期待した。

 でも、その期待は裏切られた。

『1/10本 ※注意 このテストは、切ることができた枝の本数が全体の半分を超えるまで続きます』

「なっ……」

 今10本やって0本(まぐれは除く)なのに、それが半分を超えるまで続くだと⁉

 それはあまりに衝撃的な情報だった。

 それにしても、『テスト』なのに何でそんな条件があるのだろうか。

「ま、今は気にしてもしょうがないか」

 俺は気を取り直して今のテストに集中することにした。

(目の前に通るのが見えてから振るんじゃ遅い。もっと感覚で切り付けないと)

 俺は上を向く。

 俺の右に落ちてくる枝が見えた。

 ちょうど今の場所なら動かなくても届くところに落ちてきそうだ。

「ふーっ」

 邪念を振り払い、落ちてくる枝に感覚を研ぎ澄ませる。

 後約20M。空気抵抗があるからか、それほど落ちてくるスピードはないようだ。

 それにしても、さっきより遅い気が……。

 そんなことはどうでもいい。集中、集中っ!

 10Mを切る。あとは感覚だけが頼り。

 タイミングを計り、腕を振る分の時間を計算して……

 今だっ。

 

カンッ

 

「当たっ……ああっ」

 音はかすめたときに出たもののようで、完全に切れてはいなかった。

 でも、念のため表示を確認する。

『2/12本』

 いつの間に一本落ちたのだろうか。

 いや、そんなことはどうでもいい。

 今のが判定でOKになっていることが分かればそれで十分だ。

「よしっ」

 喜びを込めてそう言うが、そこまで喜んではいられない。だってまだテストは終わっていないのだから。

 サッ

 ほら、こうやって喜んでいるから一本見過ごしてしまった。

 こう落ちてくるペースが遅いからいいものの、もっと早かったら今の間にかなりの量が落ちていただろう。

 俺はこの後、こんなこと考えなければよかったとすごく後悔することとなった。


    ☬


「ああっ」

 なんて落ちてくるのが速いのだろうか。

 一度上を見ると五本近く枝が落ちてくるのが見える。

 実はあの後、だんだん落ちてくる間隔が狭くなっていき、今はこのありさまである。

 しばらくこの状態から変わっていないところを見ると、これがMAXの状態なのだろう。

『20/72本』

 そう表示されているのが見えたのが少し前。一本諦めて見たときこうなっていた。

 今はそんな余裕もない。

 だが感覚としたら、あれから20本以上追っている気がする。

 切った本数は……あんまり覚えてないけど、指で数えられるくらい。

 前に比べてかなり届くようになったし、動けるようにもなったけど、それでもまだこれくらいしか切れない。

 それにしてもなぜだろう。普通、こんなに早く上達するものだろうか。

 あまりにも早すぎる気がする。

 それに、前よりも当たる、いや、当たる直前の空をかするんだけど、それでも届いていないだけでタイミングが合わないこともなくなってきた。

 短時間でここまでうまくなるものなのだろうか……。

 コンッ。

「痛っ」

 いけないいけない。集中力が乱れてしまった。

 枝が頭に当たったおかげで何とか意識を目の前の状況に引き戻すことができた。

『24/99本』

 気持ちを切り替えるために表示を見たら、そう書かれていた。

 次の1本を切ればちょうど1/4の割合になる。

 ……ってまだまだだな、おい。

 そんなことより集中。

 うまくするためにも意識を高める。

 その時、あることをひらめいた。

 思いついたら即実行。

俺は行動を開始した。

 まず思いっきり枝の落下地点まで駆ける。今となっては大体どこに落ちてくるのかが分かるようになってきた。

 次に左足を地面に付き、右ひざを立てる。左手も地面につけ、ナイフを持った右手は左肩の前に。

 そして上を見上げ……。

 今っ。

 カンッ!

 枝が縦に真っ二つに切れた。

 うん。予想通り。こうやって下から切り付ければ距離もタイミングも気にしなくてもいい。

 今は確実にするためにしゃがんだけど、これは立ってもできそうだ。

 いちいちしゃがんでいたら次の枝に間に合わない。

 コンッ

 ほら、こう考えているうちに次のが落ちてきた。

「ふっ」

 短く息を吐いて、気を引き締める。

 そして次に落ちてくる枝めがけて突進していき……。

「うわっ」

 ドンッ!

 盛大にこけた。

 つまずいて、ではなく滑って転んだ。

 落ちている枝に足を乗せてしまい、その枝が転がって、俺も転がっ……転んだ。

 よく見てみると、この森のひらけたところのほとんどが枝で埋め尽くされている。

 表示を見ると『25/118本』。

 そりゃこうなるわけだ。

 俺は汚れを払いながら立ち上がる。

「注意しないと、だな」

 コンッ

 記念すべき(?)120本目が落ちてきた。

 音が『サッ』から『コンッ』に変わったのは、どうやら枝で地面が埋まったからのようだ。

「って、そんなこと気にしてる場合かっ」

 俺は上を見てすぐさま次に落ちてくる枝を見つけて動き出す。

 そして真下でナイフを構えて上に切り上げる。

 カンッ

 見事に割れた。

 喜びにとらわれず、次へ。

 カンッ

 次へ。

 カンッ

 次へ……。



 ぽーん。

 久しぶりにこの音を聞いた気がする。

 枝も落ちてこなくなった。

どうやらテストとやらは終わったようだ。

 ちなみに、ラストは『182/363本』で終わった。

 今は地面に三層ぐらい枝が積もっている。……いや、さすがにそれほどでもない。

『テスト終了。判定はDです』

 とにかく、出てきた画面にはそう表示されていた。

 後で調べたところ、このテストは落ちてきた枝の本数が50本以下ならA、それから100本の間ならB、300本までならC、500本までならD、1000本までならE、それ以上ならFと付くらしい。ちなみに、10本未満、すなわち一けた台で終えるとSが付くらしい。

 まあ、この結果でこの後の練習や試験の難易度が変わるということなので、必ずしもいい判定が出ればいいということではないらしい。

また、この判定はそのあとには影響しないため、それこそ無理にいい判断をとる必要はない。ただ、いい判断を得たいがために何度もこれをやり直したプレイヤーがいたそうだ。

ぽーん。

『練習を開始します』

そうして、俺は練習を始めた。



練習はこれと言って面白いところもなく(いや、全部それなのが一番うれしいんだけど)テストのようなこともなかったからどんなのがあったかだけ言うと……。

まず技の練習。これはよくゲームにあるのじゃなくて、現実的に実現可能なもの。もちろんそれにアシスト機能が付くみたいだから、現実でやってもうまくいくかはわからないけど、現実じゃできないくらいおかしな動きをするものではない。

その時わかったのが、《短剣》のスキル熟練度が上がっていること。これのおかげで、テスト後半で攻撃の命中率が上がったりナイフをフルスピードが上がったりしたようだ。

他にもステータスが上がっていたようだが(そういう通知が入っていた)、レベル自体は上がっていなかった。どうやら、ステータスの数値とレベルは関係ないようだ。

じゃあいったいレベルって何なんだ! ……って思うけど、それはまたあとで調べておこう。

次にモンスターとの戦い。レベルが低いからか、初心者用だからかは知らないけど、かわいい小動物のようなモンスターばっかりで倒すのに気が引けたけど、「これはゲーム。あれは生きてない」そう言い聞かせて何とか乗り越えた。

それを乗り越えたあとは簡単だった。だってひたすらモンスターを倒すだけだから。

しばらく倒しているうちに、レベルが上がったみたいで、

ぽーん。

『レベルが2になりました』

と表示された。

その時にステータス画面にすると、HP、すなわち体力の数値が上がっていた。

つまり、レベルが上がるってそういうことだと思う。

死ににくくなって、あとは……。

あ、スキル熟練度が伸びている。あと、特別スキルなんてものもできていた。

まず、スキル熟練度だけど、これはいいと思う。レベルアップボーナスか何かで上がったんだと思う。

でも、特別スキルは聞いたことがなかった。

「あとでトカレフさんに聞いてみよっ」

今は余裕があったからそう言うことが言えたんだと思う。

この後、そんな余裕がなくなることなど、この時の俺はまだ知らない。


   ☬


「ラスト!」

ズバッ

「よしっ!」

こうして俺は、最後の練習を終えた。

今は洞窟の中。練習を進めるうちにだんだん森の奥に入っていき、洞窟が見えたと思ったら、次の――最後の練習が洞窟の中だった。

もちろん洞窟の中は暗い。そのはずなのに、なぜか暗視が効いて普通に見ることができた。

俺はこれでまたトカレフに聞くことが増えたと思った。

洞窟の中での練習は、暗視が聞くからと言って一筋縄にはいかなかった。

まず、狭いからあまり大きな動きをすることができない。

そして、岩の陰から飛び出してくるモンスターに不意を突かれることがある。

あとは予想しなかった連戦、だろうか。

あるところのモンスターが大量発生していて、それが今さっき終わったところなんだけど、休みなしでの連戦はいつスタミナ切れを起こすか心配だった。

ちなみに、『スタミナ』も、ステータスにある数値の一つだ。これは、筋力とか速さとかと一緒で、実際体を動かすことで数値が上がる。

まあ、レベルアップみたいなときにいきなり上がったら不具合が起きるからね。

……と言っても、そう鍛えられた体と現実の体の差で不具合が起こると思うけど。

それでもいきなりおかしくならないようにするのがこの仕組みであって、レベルアップでこの数値たちが上がらない理由なんだと思う。

話を戻そう。

俺はそんな辛い戦いを終え、次の指示を待っていた。

いまだに息が切れていて、呼吸が荒く、肩で呼吸をしている状態だ。

ぽーん。

『最終試験を始めます。この先を進んでください』

「えっ? 先?」

一見行き止まり、つまりは最深部に見えたこの場所だが、よく見たら岩の陰に道が見える。

と言っても、今までのたってもまだまだ余裕のある道なんかじゃなくって、それこそはっていかないと通れないような道だった。

「進めって言ってるし……」

正直乗り気じゃなかったが、この先に試験があるなら仕方がないだろう。

俺は諦めてその道へ潜った。


次回予告


二章 3-1

『ウグルルルゥ』

「なに!?」


(3日後 11/13更新)

お楽しみに。

(予告短くてすいません)

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