二章・2-1
短めです。
2
気が付くと草原に立っていた。
遠くに森が見える。
ここは少し盛り上がった丘のようだ。
周りをきょろきょろしていると、目の前に画面が浮かんだ。
ぽーん
『これから身体調整を始めます』
画面にはそう書かれていた。
どういうことかわからないが、今はそれを質問できる人はいない。
しばらく待っていると、ぽーんと音が鳴って表示が変わった。
『つま先を触ってください』
いきなりなんだろう。わからないが、とりあえず触ってみる。
ぽーん。
また音が鳴った。顔を上げると表示が変わっていた。
『右手で左肩を触ってください』
ぽーん。
『左手で右肩を触ってください』
ぽーん。
その時、何か曲が流れだした。
『両手を高く上にあげてください』
ぽーん。
『弾みをつけて両手を広げてください』
ぽーん。
『そのまま腕を回してください』
その曲はあの有名なラ○オ体操の曲だった。指示もそれになっている。
仕方なく俺は指示に従うことにした。
☬
「何がしたかったんだー!」
俺はそのままラ○オ体操を一番、二番、そして幻の三番までやりきり、そこでようやく曲が終わり、表示には『お疲れ様でした』と出ている。
空しいにもほどがある。表示を見ていて気付かなかったが、よく考えると今ここには俺しかいなく、ただっぴろい草原の中で一人ラ○オ体操をしていたことになる。
うん。さすがにこれは酷い。恥ずかしいを越してる。
でも、その意味はあったようで、体から違和感が消えた。しっかり調整はされたらしい。動きやすくなった。
そのあとは、指示通り飛んだり走ったり、あとの方にはスキルなんかのお試しができた。
本来はスキルの使い方を学ぶところなのだが、これはいい宣伝になりそうだ。このスキルを取る人は多いだろう。ただ、スキルなしでの護身術をこれで覚えたから取らない人の方が多いかもしれないが、そこは触れないでおこう。
このチュートリアルはそこで終わった。銃の要素は何一つと無く、また試験もなかった。
まあ、VRワールドに体を慣らすための物だからいいだろう。
ただ、毎回ラ○オ体操をするのは勘弁してほしい。少なくとも、他の人としたい。
『個人チュートリアルを開始します。森の手前まで移動してください』
消えたと思った画面が現れこう表示されたので、俺は歩いて指示のあったところへ向かった。走ってもよかったのだが、結構な距離がある。この世界で疲れはどうなのかはわからないが、わからないことをむやみに確かめるのはよくないだろう。
そう思って歩いて一、二分。俺はもとの場所に転移された。
不思議に思ったけど、何かのバグだろうと思って再び歩きだす。
そして、さっきと同じくらい歩いたところでまた転移された。
もしかしたらあの場所にバグがあるのかもしれない。
そう思って迂回して歩いていったら、同じくらいの時間歩くとまた転移された。
おかしいと思って表示を見る。すると、下に米印でこう書かれていた。
『※注意 これは試験です。一定時間内に到着しない場合はもとの場所へ強制転移されます。なお、五回失敗するとこのチュートリアルを始めからやり直します』
「なに!」
俺はそう叫びながら気に向かって全力で走る。
すでにもう四回目。これを含んであと二回しかない。
はじめに読んでいたからだろう、時間が来て転移された。
「あれをもう一回なんてやってられるかーっ!」
俺は転移する前から全力で走っていたため単位されてすぐ最高速度になった。
走る。
走る。
走る。
四回目でわかったのは、一定の時間が大体100秒だということ。
それにしても、100秒のわりに距離が長い。見た感じ700Mはある。
表示されているマップから読み取ると750Mあるようだ。
つまりは、100M13、4秒のペースで走り抜けないといけないということ。
俺は100Mのタイムは早い方だったが、それは学生の頃の話で、もっというとゲームの中じゃまったくわからない。
さらに言えば、地面は舗装されていない草の生えているところであり、さらに平坦な土地でもない。
ただ、あれの二回目はしたくない。その一心で走った。
心の中で数えてあと10秒。でもあと100Mくらいある。
「うぉー!」
叫びながら走る。でもどう考えても間に合わない。
「届けーっ!」
心のカウントが残り1秒を切って、俺は飛んだ。走っても間に合わない。だからスライディングに賭けた。
そして、その結果は……。
ぽーん。
何かが表示された音が鳴った。
俺は恐る恐る顔を上げる。
『試験は成功です。個人チュートリアルに入ります』
「やったーっ‼」
誰もいない草原と森の間で俺は叫んだ。
どうやら賭けは成功したようだった。
そしてもう一つ、自分のカウントが少し早かったということ。もし本当に一秒だったら、まだ地面に着く前に時間切れになり間に合ってなかったであろう。
それより今気が付いたのだが、体に疲れを感じない。息は切れているが、疲労感が全くなかった。
なぜかと考えようと思ったが、ぽーんと表示が変わった音がしたので考えるのをやめた。
『チュートリアル『個人』を開始します』
そう画面に表示されていた。
しばらく見ていると表示が変わり、
『主に使用する武器を選んでください』
と出てきた。
俺は前もって決めていた通り【ジャックナイフ】を選ぶ。
すると、選択画面が消えてしまった。
そのまま【ライオットシールド】を選ぼうとしたのだが、それはできないようだった。そもそも、画面に【ライオットシールド】と言う文字は存在していなかった。
選択画面が消えると、右腰に何か重さがかかった。
「ん?」
見ると、短剣――【ジャックナイフ】が差さっていた。
「『差さって』?」
確かトカレフには『折りたためる』と言われたはずだ。それなのに、なぜか鞘に入った【ジャックナイフ】が腰のベルトから下がっている。
「選ぶもの間違えた……?」
そう思って鞘から抜くと、あることが分かった。
「なるほど……」
鞘から抜いた【ジャックナイフ】を見ると、持ち手の部分に刃がしまえる隙間があり、葉の回転部分はロックがかかっている状態だった。どうやら間違えたわけではなさそうだ。
後でトカレフに聞いたところ、一番初めに装備するとき、主として装備すると刃が出た状態で、副として装備すると刃がしまってある状態で装備できるらしい再装備するときは、外したときにつけていたところに装備できるらしい。
ぽーん。ぽーん。ぽーん。
『しばらく森の中に入って歩いてください』
無視していたせいか、かなりの頻度で音が鳴っている。
「はいはい」
誰か――いや、機械に返事をして歩いてく。
そして20Mくらい歩くと、少し開けたところに来た。
ぽーん。
『最初のテスト:落ちてくる枝を切れ』
「どういうこと?」
テストとは何か。試練、いや試験ではないのか。そもそも始めからそんなの……。
そう思っていると突然――――。
1500pv突破しました~!
現在テスト期間中につき執筆は行っておりませんが、一章の編集を少しずつ行っています。ほとんど変わっていませんが、一部追加説明を入れたところがあるので、興味のある方はご覧ください。
(まだ書きだめは十分あるので、更新は休みません)
次回予告
二章 2-2
「痛っ!」
上から何か落ちてきた。落ちてきたそれを拾う。それは木の枝だった。
それをもって表示を見ると、『0/1本』と表示されていた。
どうやらこれを切るようだ。
それを理解した俺は、【ジャックナイフ】を抜いてその枝を切りつける。
カンッ
いい音を立てて、枝が二つに切れる。
それにしても弱すぎはしないだろうか。さすがに【ジャックナイフ】が強すぎることはないだろう。試しに両手で持って、折ろうとする。
パキッ
予想通り、すんなりと折れた。
「こんなの訓練になるのかな……?」
(3日後、11/10更新)
お楽しみに。




