二章・1-1
新章です。
今回から次回予告(次回の冒頭を少し変えたもの)をあとがきにつけようと思います。
1
――――できなかった。
そう。俺はログインできなかった。
いや、二回言うほどのことでもないか。当たり前なのだから。
何が当たり前かって? それは俺がアカウントを持っていないことだ。
PCゲーム時代の《OF》を俺はやっていない。だからアカウントを持ってはいなかった。
トカレフが言っていた通り、所属部隊に《スペツナツズ》と記入されていた。
ただ、俺はそれが不思議に思った。トカレフの話(正確にいうともらった資料)によると、入隊、除隊するにはリーダーが操作する必要があるということだった。部隊をつくるときはさすがに専用の施設に行かないとダメなようだが、入隊などの設定はリーダーと当事者が直接触れ合えるくらい近くにいればどこでも行えるらしい。ただ、それはゲーム内ならの話だ。まだできていないアカウントを登録させることはできるのだろうか。
俺はそう思ったが、ふとあることを思い出した。有線での登録だ。部隊自体は事前にCapREXのアカウントでアメリカのサーバーでしておいたのだろう。実際、部隊にはサーバー間の障壁はない。そして、その部隊のリーダーであるCapREXの機械から、現実世界にて有線でつないで設定をする。そうすると、サービスが始まった後でも部隊関係の設定はできるらしい。まあ、あまりに面倒で俺的には必要な知識とは思わず、忘れていた。
その設定は確定されていて、変更は不可能だ。
他には、当たり前のようにアカウント名、つまりはプレイヤーネームの記入欄と、なぜか誕生日の記入欄があった。何か特典でもあるのだろうか? そんなことはあとで聞けばいい。プレイヤーネームには前に宣言――と言うか紹介したコードネーム〈メリオダス〉と入れる。誕生日も偽らず、事実を入れる。
そのあと確定のボタンを押すと、外観設定の画面になった。ただ、VRゲームのため身長や体重など動くのに不具合の出そうなものは変更できない。変えられるのは顔のパーツくらいだろう。とはいえ、変えるつもりはない。変に変えたところで馬鹿にされるだけだ、霧野に。
俺はそのまま確定ボタンを押す。
すると、「確定すると二度と変更できなくなりますがいいですか?」と言うメッセージが出てくる。
俺は迷わず「Yes」を押す。質問が日本語でなぜ返答は英語なんだ? と思ったが、それは気にしないこととする。
そのあとに出てきたのは、長い数字の羅列と「は、登録されました」と言うメッセージだった。バグか? と思ったが、あることを思い出す。これは機械番号だろうと。一種のIDだ。機械一つ一つに違う番号が割り振られているらしい。ちなみに、それを確認できるのは今の一回だけだ。別にそれがサーバーのデータファイルにつながるだけで、このIDを直接打ち込む言うことはないから覚える必要はない。
OKのボタンを押すと、景色が変わった。今までは視界を動かすことができず、そして視界いっぱいに設定の画面が表示されていた。それが、どこかの部屋の景色になる。
「どこだ? ここ」
はじめは分からなかった。初期のプレイヤーホームなんじゃ? と思ったが、そういうものはないことを知っている。その部屋には扉があった。俺はそのドアノブをつかもうとした。が、つかむことはできなかった。確かに見えている。でも、見る方向を変えると分かった。ドアノブは立体的ではない。壁に書かれた絵のようなもので、これでは開けることはおろかつかむことさえできないと悟った。そして体を回して扉を背にしたとき、ここがどこかも悟った。
「俺の部屋じゃないか!」
機械はないが、それ以外は基地の自分の部屋に似て、否、まったく同じだった。
「そういえば、カメラが何とか言ってたな……」
俺は最初に聞いた機械の説明を思い出した。確か、ログインした後の待機画面――いや待機所は、機械に付いているカメラなどの観測機でデータ化された機械のある部屋らしい。何とも本物と見分けがつかない。あくまで四角い箱に映像が投影されているようなものなので、ほとんど凹凸の無い空間だ。棚も奥に手が入らない状態だ。なぜかベッドや机は使えるようだが、そういうセンサーか判断装置がついているのだろう。
「それで、俺はどうすればいいんだ?」
トカレフは部隊部屋に移動しろと言っていたが、扉が使えない以上動くことはできない。いや、そもそもこの部屋しか登録されてないから、仮に外に出られたとしても外には何もないわけか。
「うむむ……」
とうなっているとき、扉の横に見慣れないスイッチ、いやパネルのようなものがあった。どうやら画面のようで、スイッチは平面的だ。
触ると表示が変わって、色々なボタンが表示された。俺はその中にあった『移動』のボタンを押す。
「おおっ!」
すると、目の前にスクリーンのような画面が表示された。透けて画面の向こうが見える。
どうやらこれが操作画面のようだ。操作画面には二つのボタンがあったが、一つは薄くなっていて押すことができないようだ。ちなみに、そのボタンは『中央行政施設』となっていた。《中央行政施設》は、毎回ログイン、またログアウトするときに使用するらしい。この施設の役目はそれだけでなく、部隊や軍の設立、運営が主催する大会のエントリー、またお金を預けるなど色々なことができるそうだ。
今は押すことはできないのでもう一つのボタンを見る。
「それにしても、枠のわりにはボタンが少ないような……」
俺が不思議に思うのは、少なくとも9はボタンが入りそうな枠に二つしかボタンがないことだ。
あとから知ったことだが、ゲームのフィールド内でいくつか転移できるところがあるらしく、それを登録するといちいち主街区からそこまで移動しなくても直接転移できるようになるらしい。
話しがずれたから今に戻そう。
今俺が見ているボタンには『部隊部屋』となっている。そういえば、ログインする前にトカレフがここに集まるように言っていた気がする。
「よしっ」
俺はそのボタンを押した。
すると、重なってメッセージが出てきた。
『《部隊部屋》に移動しますか?』
その下に『Yes』と『No』のボタンがあった。
「やっぱりそこは英語なんだな」
それは別にいいだろう。
トカレフにはすぐに移動しろとは言われていないが、別にこの部屋にいても意味がないので移動することにした。
俺が『Yes』のボタンを押すと、視界がホワイトアウトしていく。あまりの眩しさに目をつぶってしまった。瞼越しでも明るいのが分かるほど光は強かった。
(これ身体に害ないのかな?)
そうは思ったが、実装されているのだから問題はないのだろう。
明かりが収まったようなので俺は目を開く。
そこは――――
「集会室⁉」
現実世界の基地にある《集会室》と、まったくもって同じ扉が目の前に現れた。ただ、さっきの部屋と違って凹凸がある。ドアノブを掴むことができそうだ。
「っと……」
どうしようか迷ったが、とりあえず扉をノックする。
『…………』
反応がない。誰もいない……とも思ったが、念のため扉をもう一度ノックする。
『…………』
またも反応がなかった。まだ誰もいないのかと思い、扉を開けようとドアノブに触れた。
その時、勢いよく扉が開いた。
「っつ……」
案の定、俺は扉の角に頭をぶつけてしまった。
「あ、スマン」
そう言ったタカシとそれに続くルーピンが姿を現した。
「ノックは聞こえるんだが、ここまでが遠くてな。まだ慣れてないし、動きずらいんだ」
俺は、なるほどと思った。今は立っているだけだから何も支障はなかったが、確かにさっき扉の前まで移動したときに違和感があった。確かに身長とかは変わっていないのだが、何か長い期間動いていなかったんじゃないかと思えるくらい体が動かしにくく不思議な気分だった。
「だ、大丈夫?」
いまだに扉の当たったところをさすっている俺を、ルーピンは心配しているようだ。
「あ、はい。問題ないです」
「そうか。ならいいか。よし、じゃあまずは中に入れ」
俺はルーピンに対して答えたつもりだったのだが、タケシが自分に言ったのだと思っているようだった。何か言いかけたみたいだが、気にすることはないだろう。
こうして俺は、痛い思いをしながら《OF》内の入隊をはたした。
次回予告
二章 1-2
「メリ、遅かったじゃないか。登録しておいた筈だったが違ったか?」
「あ、いえ。してありました」
そもそもしてなかったら今ここに来られないと思う。
「ロッテルはすぐに来たぞ?」
トカレフが『霧野』ではなく〈ロッテル〉と呼んだ。そういえば、はじめはロッテルと呼んでいたはずなのに、いつの間に霧野になったのだろうか。この様子を見るにゲーム内ではロッテルって呼んでいるみたいだった。
その当のロッテルだが、俺に向かってVサインを送ってくる。
(そんなに誇らしいか?)
いつもなら悔しがるところだろうが、今はそんな気持ちは湧いてこなかった。
「それはいいとして、ジンの姿が見えないんだが知ってるか?」
「そもそもどうやって知るんですか?」
「やっぱり知らないか……。あいつ機械音痴なのかもな」
そういうと、トカレフな何やら操作を始めた。
なんか変な終わり方ですいません。
次回お楽しみに。




