一章・10-2
長めです。
※'15.11/5 読みやすいように編集しました。
「到着!」
「……してねえぞ」
「なんで?」
「今日はここに来たわけじゃねえからな」
「そっか」
そう言って二人は《美空》に入り、階段を使って地下へ。教えてもらったコードで基地へ入る。
「誰もいねえみたいだな」
「そう、だね……」
そしてついたのが《集会室》。だが、中には誰もいなかった。
「あれじゃない?」
「なにがだ」
その時、僕はホワイトボードに書かれた文字を見つけた。このホワイトボードは作戦会議の時に使う、ものらしい。
「『各自部屋待機』って」
「なぜぜんぶ漢字……」
「短いからじゃない?」
その下には『連絡を待て』と書いてある。
「それじゃ、行こっか」
「どこへだ?」
「えっ? 決まってるじゃない。自分の部屋だよ」
「行くのか?」
「だって書いてあるじゃん!」
「だがな、別に連絡待てばいいんだろ? ここに居たっていいんじゃないか?」
「内線あるしそれはダメだと思うけど」
内線とは、部屋にある固定式の音声通信機である。
「これあんのにか?」
霧野は【飛燕】を出す。
「これだと面倒だしね。一人一人連絡しないといけないから」
「確かにそりゃ面倒だ」
「じゃ、行こっか」
「…………」
部屋に行こうとする俺とは対照的に、霧野はその場を動こうとしない。
「どうかしたの?」
「いや、大したことじゃないんだが……」
話を聞くに、どうやら霧野は部屋に行きたくないらしい。理由は何もすることがなく暇になるからだという。
「寝ればいいじゃん」
「俺はいつでも寝れるおまえとは違う。リズムがついてて夜にしか寝れないんだ」
「ふーん」
「他人事のように言うなよ」
「だって他人(霧野)だもん」
「なんかニュアンスが違うように聞こえたが……」
「気のせいじゃない? ほら、行くよ」
「や、だから俺は……」
「おっ、メリに霧野じゃないか。二人とも早いな」
「トカレフさん。丁度いいところに来ました。ちょっと手伝ってください」
「何をだ」
俺が霧野ともめてるとき、《集会室》の戸が開いて、トカレフが入ってきた。
「霧野の説得です。指示通り部屋に行こうとしてるのに霧野が動いてくれないんです」
「ああ、あれか。なあ霧野?」
「なんだトカレフ」
「おまえ、夜大丈夫か?」
「リズム乱したくないが、少しくらいなら」
「おまえの少しは分からないが……とにかく、今日は徹夜になるぞ」
「本気で言ってるのか⁉」
「ああ。できるだけ早くログインしたいからな」
「でも、サービスが始まるのは8時からなんじゃ……」
「明日に日付が変われば、ゲームはできないがログインはできる。ついでに言うとチュートリアルなどの動きの説明や練習はできるんだ」
「そうなんですか。初めて知りました!」
「…………」
驚く俺をよそに、霧野は言い返す言葉を失って苦虫を噛んだような顔をしている。
「ってことだ。できるだけ早く始めるならその手の物をサービスの始める前に終わらしたいからな。全員零時にログインするぞ」
「はぁ……」
ついにはため息をつく始末だ。
「それで今、他の奴らは自分の部屋で寝てる。集合かかるのも二時間はあとだ。お前らも今のうち寝とけ」
「はーい」
そう言って、俺は《集会室》を出る。何とかあの居ずらい空気から脱出できた。
「おまえも早くいけよ」
「俺昼間寝れねえんだけどな……」
「大丈夫だ。ここは地下だから陽の光は入ってこないし、防音は完ぺきだから音も聞こえない。休憩には最適だ。なんなら酸素カプセル使うか?」
「いや、良い」
「ならおれは行くぞ。寝たいしな」
そう言ってトカレフも《集会室》を後にした。
「しゃあねえか」
そう言って、霧野も自分の部屋に向かう。
部屋に着いてベッドに倒れ込むと保温の数分で眠りについたのだが、あれ頬度までに意地を張ったのに馬鹿にされると、表上寝ていないことにしたのは起きてすぐ後の話だ。
今は寝る時間。ただし今は昼の三時である。
《スペツナツズ》の隊員はCapREXを残して全員寝ている。CapREXはもとから使っていたアバターをもってきて使うため、チュートリアルがない。だからログインするのは8時少し前。だから普通の時間に寝ることができる。だから今起きていた。
優雅に三時のおやつを楽しんでいる。
サボっているのではない。事件は起こらないし、話し相手も寝ている。時間を持て余していたのだ。自分の性格には合わないと自覚していたが、暇にするよりはいいと精一杯楽しんでいた。
☬
『…………に集まれ。繰り返す。今から部隊者は各《集会室》で開始前最後の集会を行う。各自は準備をし、十分後までに各《集会室》に集まれ。以上』
俺は部屋に響く放送で目が覚めた。かなりの音量だ。ただ、この時みんな寝ていると考えると起こすためには必要な音量だと思う。ちなみに、声の主は基地長なのだが、そんなことは折れにはわからない。俺はただ、『誰か知らないけど、たぶん偉いであろう人』の放送を聞いていた。
「よし、起きるか」
軽くストレッチ代わりに体を伸ばし、眠気を覚ます。時計を見ると、五時十分前だった。大体トカレフに言われた通りである。俺はとりあえず与えられた部隊着を着ようとしたが、それはあの明らかに危険なマントなどのことだ。着る気にはなれなかった。
俺は私服に着替え(もとから私服だが)、部屋を出る。
戸を開けると前に見慣れた姿の男が通り過ぎていった。ただ、その男の服装はまったくもってみたことがない。少なくとも、その男が着たことは。
「霧野、なんでそんな格好してるんだ?」
「ん? なんだメリ、着替えてないじゃないか」
「俺は着替えたぞ! ……少なくとも、寝間着からは」
「なんでこれを着てないんだ?」
霧野は自分の着た服をつまみながら言う。
「だって恥ずかしいじゃん!」
「そうか? 俺はカッコいいと思うが。特にこの破れ具合!」
「それは霧野の話でしょ! 俺は違うの‼」
「似合うと思うがな……」
「とにかく俺は着ない!」
「だが、一応これ部隊着だろ? 着ないってことは、バイトを私服でやってるようなもんだぞ?」
「うっ……」
霧野の言うバイトとは、俺たちがつい最近までやっていた食べ物屋のバイトのことだ。
「確かにそうかもしれないけど……、でもそれとこれとはわけが違う!」
「いや、同じだと思うが」
「トカレフ、ナイスタイミング!」
(バットタイミング……)
そこには、霧野と同じようにボロボロ(?)の部隊着を着たトカレフが立っていた。
「話は聞いていた。メリ、なんで着ないんだ?」
「聞いてたらわかるはずですよね⁉」
「いや、恥ずかしいという意味が解らなかった」
「恥ずかしいですよ! そりゃこの格好で街に出歩いているトカレフさんにはわからないかもしれませんが、これすっごくイタいですよ⁉」
「カッコイイの間違いじゃないのか?」
「そうそう。イタカッコいい、的な」
「霧野⁉ バカッコいいみたいに言わないで! それに、あれだって別にそこまでかっこよくないじゃん」
「そうは言ってるがお前、前やってたよな」
「うっ……」
「それもかなり楽しそうに。そして、その動画を俺に見せて来ガッ」
「それ以上言わないで! それ闇歴史だから‼」
「そうかそうか。なら霧野、後でその話じっくり聞かせてくれ」
「トカレフさん⁉」
「ま、冗談はこれくらいにしといて。メリ、着なきゃだめだぞ」
「なんでですか⁉」
「さっき言ったように、これは制服だからだ」
そう言って、さっきの霧野と同じように服をつまむ。
「もっとましなのにしないんですか⁉」
「俺のデザイン、そんなに嫌だったのか」
「はい、いやです!」
「っ、まだかこんなにはっきり言われるとは……。まあいい。そう言えばシュリンプもそんなこと言っていた。今は無理だが落ち着いたら変更も考えておく」
「やった!」
「それよりメリ、いい加減霧野を話したらどうだ」
「あっ……ごめん霧野」
「いや良い」
「よかっ――」
「これでお前をいじる口実ができたからな」
「――ない! よかないよそれ!」
「おまえ、それどこの方便だ?」
「…………気にしないでください」
「それは置いといて。着ろよ、メリ」
「わかったよ……」
そう言って俺は部屋に戻る。
そのあとは特に何もなかった。無事時間内に《集会室》に着き(そもそも進行役がトカレフだから、一緒にいる限り遅れることなんてないけど)、集会が始まった。
集会も特に目立つことはなく、ゲーム開始のことに関しての説明があったくらいだ。
そして、ようやくそれも終わり集会が終わろうとしていたころ。
「やっとこれで休めるぜ……」
霧野がそうつぶやく。聞こえてますよー。
「そんじゃ、これで集会は済んだし。お前らこれから予定ないよな?」
「もちろん」
「当たり前だ」
「ないっスよ」
「そんじゃ、前夜祭すんぞ!」
「「「「「「おー」」」」」」
「「……えっ」」
他の人が歓声を上げている中、俺たち二人は『え』よりも英語の『A』の発音に近い音で驚きの声を上げた。
唯一何も反応しないのがCapREXだ。
「俺は休むぞ」
「ああ」
そのCapREXはトカレフにそういうと、《集会室》を後にする。
「それでトカレフさん、これから前夜祭ってどういうことですか⁉」
「前に聞いただろ? 俺じゃないが、ローレンスがお前に言ったって聞いたからわかってるもんだと思ったが……」
「いや、聞いてはいましたが、まさかいまから始めるとは」
「前夜祭だしな」
「でもこんな時間ですよ?」
ことがうまく進んだとはいえ、集会は三時間あり今は夜の八時だ。
「問題ないだろ? 今日は寝ないんだし、あの睡眠はこのための物だ」
「ああ! 納得です」
「いや、しねえからな!」
「なんでさ。霧野はその通りだと思わないの?」
「当たり前だ。夜は寝るもんだろ」
「それなら霧野は俺らと一緒にログインしなくていいんだな?」
「なんでそうなるんだよ!」
「だってタイミング合わせられないだろ? それに、俺はともかくこいつにも遅れ取るぞ?」
そう言って、トカレフは折れの方に腕を乗せてくる。
「それは……」
「ちょっとそれ酷くない⁉」
「確かにそうだな。こんなやつに遅れてたまるか」
「霧野⁉」
「それじゃ行くか。ほらメリ、騒いでると置いてくぞ!」
「トカレフさんのせいじゃないですか!」
そうは言いながらも置いてかれるのはつらいから静かにする。
どうやら《美空》で前夜祭(?)をするそうだ。
《スペツナツズ》の隊員全員でぞろぞろと階段を上がっていく。
《美空》に突然こんな格好の人が9人も現れたらさぞかし驚かれるだろうと思ったが、居酒屋で夜営業をしている、いや夜がメインのはずなのに、客は誰もいなかった。
「貸し切ってるからな」
トカレフに聞くと、そういう答えが返ってきた。
前夜祭の内容は話すまでもない。と言うか、記憶があいまいでよく覚えていない。居酒屋だが、さすがに今日は誰もお酒は飲んでいない。それでも酔っているのではないかと思うほどのテンションの高さだ。気が付くと十一時を超えている。
「トカレフさん、いつまでやるんですか?」
時間が不安だった俺はトカレフに聞いた。
「すぐログインしたいし、十一時半ぐらいか……って、もうこんな時間なのか」
トカレフも気にしていなかったようで、時計を見て驚いている。
「おいみんな、そろそろやめにすんぞ! ログインに遅れたら元も子もないからな!」
みんなは返事をすると、なぜか片づけを始める。お店だから店の人に任せればいいのに……と周りを見ると、店員の姿がない。そういえば、料理や飲み物も届ける人はいなかった気がする。
「店員さんはいないんですか?」
「ああ。帰ってもらった。万が一情報が流れると大変だからな」
「なるほど」
だからあんなに大声で《OF》のことを言っても、この服装でも大丈夫だったと知る。
「ほら、お前も手伝え」
「はいっ」
片づけ終わったのは十一時四十分だった。
洗って拭いてしまって。荒れた机を整理して掃除して……と、なかなか大変だった。でも、この人数でやったからかそこまで辛くなかった気がする。
「よし、時間もないから歩きながら話す」
戸締りをして照明塔の電源が落ちていることを確認したのち、俺らはトカレフの指示で階段を下りはじめた。
「12時になってログイン可能になったらすぐログインして欲しい。部隊登録はしてあるから他は自分でやってくれ。ログインしたら部隊部屋に移動してくれ。それ以降はそこで話す」
ログイン可能になったらすぐにログインするというのは分かる。部隊登録してあるから他のは自分でってのは、たぶんアカウントの設定だと思う。でも最後のが分からない。そもそもサービスが始まっていないのにログインして何ができるというのだろうか。
聞きたかったが、時間が迫っているということもありみな急いでいてそれどころではなさそうだった。
結局誰にも聞けずに自分の部屋に着いた。時計を見るともう五分前だったので、そこから誰かに聞きに行くのはやめ部屋に入る。そのままベットに倒れ込みたい気分だったが、本番はここからだ。
俺はそのまま機械に入ろうとして今の服装に気付く。トカレフの言う「カッコいい制服」だ。さすがにこのまま入りたくはない。
俺は体に負担がかかりにくそうなラフな服に着替え、機械に体をすべり込ます。
初めて入ったが、居心地はそこそこだ。閉塞感はあるが、それが逆に落ち着く。かたい見た目とは裏腹に中は柔らかくフカフカしていた。だが、よく見ると配線やらセンサーやらが透けて見えて、しっかり意味のあるものだと分かる。
今だからこそいいが、夏でこれは暑そうだ。逆に冬だと足りないかもしれない。まあ、ここは地下だから一年を通してあまり室温は変わらないだろうと願うことしかできない。
時計を見る。この時計は機械に付いたものだ。俺はこの機械に入るまいに電源を付けている。そもそも電源ボタンが外にあるため中からではつけることはできない。
残り三十秒。
俺は頭上にあったヘルメットのようなものを下ろす。下がらなくなるまで下ろすと、それは頭にフィットした。そして、手探りでログインボタンを探す。ボタンはこのヘルメットについていたはずだ。何とか感覚で見つける。そのまま押すと、視界が明るくなった。うまく押せたことを確認すると腕を伸ばす。
さあ、待ちに待った《OF》、それに今、俺はログイン――――。
章変わりなので少し開けさせてもらいます。
次回更新は11/1予定です。




