一章・9-2
長めです。
※'15.11/5 読みやすいように編集しました。
その少し前のこと。
「着いたわ」
ディオとシュリンプに連れられ、根木、正哉、真奈美の三人はとある部屋に来ていた。
「ここは?」
先程の火事のこともあり、この五人に敵対心も警戒心もない。いや、少なくても3人にはない。
「今日あなたたちが泊まる部屋よ」
「……ってことはここが基地なの?」
「まあな」
「すごいですね」
「まあな」
「全部の施設がここにあるのか?」
「まあな」
「ディオさんたちもここに住んでるんですか?」
「まあな」
「どこに住んでんだ?」
「まあな」
「……って、さっきから『まあな』、しか言ってないじゃないですか! それに、今の場合は答えにもなってません。これだとどこまで信じていいかわからないじゃないですか⁉」
「二つ目まではほんとだぞ」
「では、三つ目以降は?」
「…………」
「適当なんですか⁉ っ! もしかして、聞いてなかったんですか⁉」
「……まあ、な」
「もうそれはいいです。シュリンプさん、どうなんですか?」
「――あ、ごめんね正哉君。いま真奈美さんと話してて聞いてなかったわ」
「(まったくこの人たちは……素なのかわざとなのかわからない)」
「それで、何か用?」
「もういいです。部屋入りましょうっ、先輩」
「あっ、ああ」
そういって、根木と正哉は部屋の中に入ろうとして……
「あれ? この扉鍵かかってますよ?」
「ああ、すまん。お前らはまだ未登録だったな。俺が開ける」
そういってディオがドアノブをひねると簡単に扉があいた。
「おお!」
「簡単に、開いた……!」
「指紋認証よ。別に驚くことでもないわ」
「こんな目立たないセキュリティは初めてなので」
「そんなもん、この基地にはゴロゴロあるぜ」
「そうね。逆にセキュリティの無い扉なんてないかも」
「そうなんですか?」
「一応、な。そもそも誰でも入れるところには扉なんてないし」
「そういえばそうね。何もないところもあるけど、のれんだったり店にあるような腰くらいまでの扉が在ったりするところがほとんどだわ。それと、引き戸には鍵はないの」
「そうなんですか」
「ほら、入るぞ」
そう言って、五人は部屋に入っていく。
「シュリンプ」
前の四人が部屋に入っていく中、一番後ろにいたシュリンプに向かって声がかけられた。
「ローレンスじゃない。用は済んだの?」
「まあな」
「それで、私に何か用?」
「ああ、トカレフから。今入っていった三人が《レンジャーズ》に入隊することが決まった」
「第三隊ね。伝えとく」
「それと、できるだけ早く集まってほしいと」
「トカレフが?」
「ああ。念のため今日のことについて話しておきたいそうだ」
「わかったわ。まあ、すぐは無理だろうけどできるだけ早く向かうわ。それで、集まるのは集会室?」
「いや、作戦室らしい」
「ずいぶん厳重なのね」
「できるだけ外に漏らしたくないと言っていた」
「ま、無理もないわね」
「用件は以上だ」
「前から思ってたんだけど、あなたって機械みたいよね」
「機械?」
「そう、機械。ほとんど感情が出てこないし、しゃべり方もそんな感じ」
「…………」
「っ……別にそこまで気にする必要はないわ。それもあなたの個性だもの」
「……ああ」
「シュリンプさん、来ないんですか?」
その時、部屋の中から顔をのぞかせている真奈美が声をかけてきた。
「今行くわ」
それを驚く様子もなく、シュリンプは返事をする。
「それじゃあまた」
そう言って、真奈美に手を引かれながらシュリンプは部屋に入っていく。
「…………」
ローレンスは何も言わずに、その場を後にするのだった。
「……と言うことで、襲撃もとは《RPO》という組織。人数は五人。敵意はなくなったとみて、第二、三隊に入隊させました」
「わかりました。報告しておきます」
そう言って、基事務の事務員は奥の部屋に入っていく。
それとすれ違うように、ある人物が部屋から出てきた。
「大変だったみたいだな、トカレフ」
「基長! どうして⁉」
「少し余裕ができてな。それより、あいつなんだろ?」
「ああ、スカルだ」
「いいのか? ほっといて」
「今はまだ情報が少なすぎる。それに、力もつけたみたいだしな」
「自力で組織を組みあげた奴だ、あり得ることだろう」
「あいつがつくったのは組織の新部隊だが……。まあ、そうだろうな」
「それで、これからどうするんだ?」
「とりあえずは監視の強化だな、そっちにも世話になるだろう」
「それはお互い様だ。それに、お前に任せてこの基地がやられたんじゃこっちも迷惑かかるからな」
「それもそうだな」
基長は、受付の外側に出てきた。
「それより、CapREX不在でよくやったな」
「基長も知ってのとおりCapREXは部外者だ。それに《OF》の《スペツナツズ》、要は第一隊だが、その中のリーダーにすぎない。それだって一時的なものだ。しばらくはいるだろうが向こうから指示が来たらもどることになる」
「それもそうだが、今のリーダーはあいつだろ?」
「……だから余計に迷惑かけたくなかったんだ。この件はほとんど俺のせいだしな」
「そんなことはない。敵を逃がしたわれら全員の責任だ」
「だがっ」
「それに、今となってはその原因を追究する必要もないだろ? 時間の無駄だ」
「…………」
言い負けたトカレフは口を閉じてしまう。
「まあいい。そろそろ戻らないとだ。またな」
そう言って、基長はトカレフが何かを話す前に部屋に戻っていってしまった。
『♪~』
その時、トカレフの【飛燕】が鳴った。
『ディオとシュリンプは連れてきた。今は作戦室で待っている』
「急げってことか」
そう言って、トカレフは走って第一派遣隊基地の作戦室を目指すのだった。
そのころ、根木、正哉、真奈美の部屋では、反省会もとい真奈美を責める会が行われていた。内容は簡単、なぜ花火をあのように使ったのかについて。二人……根木と正哉は、今でもあの戦いは勝てたと思っている。それはあまりにも平和的解決を求めてきた相手と、火事のせいで中断しなければいけない状態になり結果的に自分が降伏した状態になったからだ。ここにいる三人とも、今はそれが悪い結果だとは思っていないが、負けず嫌いな男どもはそう思っていても負けた原因を責めていた。
とはいえ、半分以上冗談というか遊んでいるような状態なので、平常心を取り戻した三人はどんなことを話したか覚えていなかった。
そのあと三人は、お腹がすいたとディオに教わったモニターで料理を頼んだ。真奈美はシュリンプと話していたためそれを知らなかった。それを知った男二人は優越感を楽しんでいたようだが、真奈美はどうでもいいと思っていた。
「遅いぞ、トカレフ」
トカレフが作戦室の扉を開けると、待ちくたびれた様子のディオ、呆れた顔をしたシュリンプ、そして相変わらずあまり感情が現れないローレンスがトカレフの方を向いていた。
「すまない、基長にあってな」
「あの基長か⁉」
ディオが驚きの声を上げた。驚くのも無理はない。この《関東派遣基地》をすべて管理しているのがこの基長のため、寝る時間すらあまり取れないのである。ちなみに、副基長が二人いて、基長が休みの日はこの二人が管理する。となっているが、実際これが行われたことはない。
そんな基長と話せたのである。昔の関係上トカレフたちと仲は良いのだが、だからと言って時間が取れるわけではない。その基長が余裕のある時にたまたま基事務にいることはなかなか起きない出来事である。
「たまたま手が空いてたらしい。それも3分となかったがな」
「3分あれば十分だ」
「それで、話って何話すの?」
早く本題に入りたいシュリンプが話を切る。
「今日の襲撃の件ってのは言うまでもないと思う。問題はその組織だ」
「《RPO》ね。あのスカルのところなんでしょ?」
「ああ。それもあいつの部員だ」
「やっぱりか」
「メリオダス君のところから情報が漏れたようだ」
「メリか……」
「まあ、それは敵が仕向けた罠というか、メリは発信機に気付かなかったということだけだがな」
「だとしても注意不足はまずいんじゃない?」
「だからあいつにはそこを鍛える訓練をしてもらう」
「それで、これからどうするの?」
「とりあえずは状況を見る。こっちも情報不足だ。今回わかったことといえば、奴が力を手に入れたってことぐらいだろう」
「それでも十分な気もするがな」
「そうか? ほとんど何もわかんないじゃないか」
「警戒する必要があるってことが分かった分、重要なことだ。不意打ちや奇襲が一番怖い」
「それもそうだな」
「私たちに用ってそれだけ? 疲れてるから早く休みたいんだけど」
「おまえたち二人には様子を聞きたくてな。俺らも電波妨害や遠隔操作で攻撃を行ったが、実際どんな感じだったのかを聞きたい」
「そういうことね」
「あれだな、あいつらは俺らのこと全くわかってなかったみたいだぜ」
「そうね。『敵』としか見てない感じ。こっちも戦力隠してるからどれぐらい強いのかはわからないにしても、どんな組織かすらわかってないみたいだったわ」
「確かにな。私が二人を部屋に誘導して説明していく中で、そのほとんどが初耳だったようだ。あとは、教えられてないのはこっちの情報だけでなく、相手は自分たちのことも教えてないようだ」
「そうみたいだな。だから本当のこと教えたらすぐ敵意がなくなった感じだった」
「ほんと。すっごく優しそうな子たちだっただけになんで襲ってきたかわからないくらいだったわ」
「なるほどな。それで奴らは勢力を増せたのか」
「それよりトカレフ、あの仕組み教えてくれよ」
「仕組み?」
突然ディオに聞かれたトカレフは、何のことかわからない様子だった。
「最初のほうの森の基地のことだ。なんで壊れなかったんだ?」
「ああ、あれか。あれはな、そもそもあそこに基地なんてなかったんだ」
「そうだったの⁉」
シュリンプが驚きの声を上げる。
「あそこにあったのはただのプレートだ。薄いガラスと強化プラスチックを重ねた半透明のプレートだ」
「あの破片はそれだったのか」
ディオは触ってこそいないが、和岡が基地のあったところから半透明の破片を拾っているところを見ていた。
「でも始めのあれは? 爆発はどうなってるのよ?」
「あれはそのプレートに着弾するのを見て爆弾を爆破しただけだ。そのあと地面に埋めてあった予備のプレートを出しただけだ」
「それにしても、よくそんなの準備できたな」
「いつ敵が来るかわからないからな。こういった仕掛けはいろんなところにあるぞ」
「他のも教えてほしいわね」
「それは今度な。逆にお前らが知らない方がうまくいく作戦だってあるし」
「つまり私達が知ってた方がうまくいく作戦もあるってことよね?」
「そういうことだな」
「とはいえ、そこまで種類あったか?」
ローレンスがトカレフに聞く。
「まだ仕掛けてないものがほとんどだが、仕組みだけなら教えられるだろ」
「あれを全部教えるのか⁉」
「さすがに無理だな。それだと覚えられない」
「そんなにあるのか?」
「まあ、三桁だな」
「…………」
「知りたいって言ったのはお前らだろ?」
「いや、覚えたいとは言ってないわ!」
「どっちらにしろ教えてやる。また機会あったらな」
「そんじゃ、もう用はないな?」
「ああ」
「ならもう部屋に戻っていいわね」
そういうと、シュリンプが立ち上がる。
「俺も。なんか眠いんだ」
「ディオはいつも眠そうではないか。まあいい、私も失礼しよう」
「おいおまえら、俺を一人にするなって!」
だが時すでに遅し。トカレフの叫びが空しく作戦室に響いた。
「まあいい。俺も戻るか」
そう言って全員が作戦室を後にした。扉のしまった作戦室に、再び静寂が訪れた。
☬
「ねええ霧野、やっぱり焦げ臭くなかった?」
「またその話か。何もなかったって言っただろ」
「そうかなー」
「そうだ。俺はもう行くぞ」
「もう行くの? 自分でついてきたくせに?」
「痛いとこついてきやがるな……。ああ、そうだ」
そう言って、霧野は自転車にまたがる。
「次って、来週の週末だよね?」
「ああ。土曜日、な」
「午後でいいんだっけ?」
「夜に前夜祭だとかなんとかすると言ってたが、まあ日のあるうちに行くだろうな」
「そもそも始まるのって次の日の8時なんでしょ? 何で前の日から集まるの?」
「日付が変わるときにログイン可能になるらしい。まあ、ゲームはできないがな」
「それに意味あるのかな? 8時にすぐ始めるためだったら6時とかでも十分間に合うと思うけど……」
「さあな。でも、きっと何かあるんだと思うぜ」
「そうだよね」
「そんじゃな。その日も迎え来るし」
「来るの⁉」
「別にいいだろ。じゃっ」
そう言うと、霧野は走り去っていった。
「いよいよ始まるのか……。夢、じゃないんだよね」
《OF》自体は知らなかったが、VRワールドに関しては興味があった。もちろんそんなものを買うお金なんてなかったからやる機会なんてないと思っていたのだ。その世界についに入ることができる。単純なことだがすごくうれしかった。
「よし、明日のバイトのためにも早く休むか」
まだ太陽は高いところにあるが、無理やりバイトを辞めさせてもらう分明日からの5日間は忙しくなる。それこそ家に帰れないかもしれない(休みがあっても、家まで帰る時間を惜しんでネットカフェなどで夜を過ごす可能性がある)。だから早く休もうと思ったのだ。
「許してくれたんだもんね。その分頑張らないと!」
やる気は十分だった。だからこそ休もうと思う。何もせずすぐに寝ようと思った。
そしてその思い通り、これから一時間もしないうちに俺は夢の世界へと入っていった。
襲撃のことは、外部どころかごくわずかな関係者以外に伝わらぬよう厳重に注意された。ぉのかいあって、その日以降にこの話を知る人はいなかった。勿論、この日には襲撃してきた五人とその指示元、そして対応した四人と報告で知った基事務の人間以外にこのことを知る人はいなかった。
それ以降、榮留や和岡、また根木、正哉、真奈美の正式入隊も済み、ことは順調に進んでいた。
一方《RPO》でも、《OF》開始に向けて準備が行われていた。突然出た欠員に一時は慌てたが、スカルの指名ですぐに落ち着いた。
俺たちのバイトもそこまで辛くなく、毎日しっかり寝れていた。
そしていよいよ、日本中が待ちわびる《OF》が始まろうとしている。
それには大きな期待が向けられている。
そして、そのあまりにも大きい期待からか、購入者のほぼ八割が日の変わると同時にログイン、1サーバーが危うく落ちそうになったことはごく一部の人間しか知らないこと。
俺たちの冒険は始まろうとしている。
でも、その前に前日の様子を見て欲しい。




