一章・8-1
※'15.11/5 読みやすいように編集しました。
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「主力、通信信号が途絶えました」
「やっぱりな」
組織の極秘であるこの地下室は、今回の作戦の指令室になっていた。この部屋の中の人数は、連絡しに行った男が戻ってきたので、再び二人になった。その二人が見つめる先にあるモニターから、ほんの今赤のマークが消えたところだった。
「だが死んではいないんだろ?」
「はい。絶命の信号は入っていません」
「ならいいじゃないか」
途絶えたのは車から発される信号のみ。死亡時に発せられる電波は受信していなかった。
「ですが、外されたようです」
「捕虜になった、か……」
この発信機にはGPS機能がない。それは、相手に探知された時に居場所がばれるからだ。そのため、必要な時にメッセージを送る役目はあるが、その発信源がどこにあるかはわからないのだ。これは、外すと電源が切れる仕組みになっているので、付けているかはわかる。絶命の信号発信の仕組みは、外されていないのに脈を感じなくなった場合、そして機械そのものが壊された場合である。壊された時は、乱れた信号が流れるためそれが起こったと分かる。
「でも、外してから殺された可能性も……」
「奴らはそういうことをしない。だから詰めが甘いんだ」
「はあ……。そうですか」
やっと落ち着きを取り戻した男は、次について聞いた。
「このまま作戦を実行するんですか?」
「ああ。少しは成果があるだろう」
「さらに被害が出るかもしれないんですよ⁉」
「主力二人は痛かったが、あの3人は別にどうしたこともない。たとえ成長するのが早くても今強くないんじゃ同じだ」
「…………」
「どっちにしろこっちには被害はないんだ。あとは向こうにどれだけ被害を与えられるか、だろ?」
「そう、ですね……」
「それに、なかなかの見ものになりそうだからな」
男は言い返す気を失せていた。それくらいリーダーの言っていることは正しく、だがあきれるものだったのだ。
「補助と追跡が合流したそうです」
「よし、準備でき次第攻撃に移れと言っとけ。それと、待っても主力が来ないこともな」
「わかりました」
男の表情は戻っていた。いつもこの繰り返しなので慣れていたのだった。
「正哉に……真奈美⁉」
「根木先輩!」
サカたちが襲撃を開始したころ、根木と正哉たちは森の中にて合流していた。
「思ったより早かったな」
「ありがとうございます。先輩のためですもの」
「それに真奈美も、そんな荷物で疲れるだろうに」
「そんなのもう慣れたわ。それより、どうなの? 状、況っ」
「今のところ動きなし……いや、カズたちがやられたらしいから、相手も動いてはいると思うけど見たところ変化はないよ」
「そう。じゃあ、もしかしたらまだ見つかってないのかもね、私たち」
「『もしかして』じゃないだろ。見つかってたらとっくに攻撃受けてるって」
「それもそうね」
根木と正哉、真奈美の関係は深かった。
まず、正哉を組織に導いたのが根木である。正哉が捨てられていたところに、根木が声をかけたのだ。それもあって、正哉は根木を「先輩」と呼んでいる。
真奈美は、もともとは根木とコンビを組んで活動していた。ただ、真奈美はあくまで「サポート」であったため、根木が成長し、また正哉が組織に入ったのを機会にコンビを解消した。それ以降、お互い忙しくなったので、こうして会うのは正哉が入って以来、一ヵ月ぶりだった。
「にしても、サポートを送るとは聞いたけど、まさか二人だとは思わなかったよ」
「僕もそうです。まさか先輩のサポートができる日が来るとは思いませんでした」
「私だって。この子の面倒を見ている間はあなたに会えるとは思わなかったわ」
「あっ、それと……」
そういうと、正哉は自分の背負ったカバンの中を探し始めた。
「にしても、荷物多すぎないか?」
「仕方のないことよ。私たちは銃もろくに扱えないのだから」
「いや、それは俺も同じだが……」
「ありました」
そういって正哉が見せてきたのは〔M16 A2〕だった。
「おいおい、そんなものまで入ってんのかよ、そのかばん……」
「これは先輩の分です」
そういって、差し出されたそれを、根木は受け取った。
「おまえらは?」
「僕はこれがあります」
そういって見せてきたのは〔トカレフ〕だった。
「真奈美は?」
「私は援護専門なので、これを使います」
そういって、カバンの中身を見せてきた。
「なかなか面白いこと考えるじゃないか」
「それに、今から行くのはお店なんですよね? 一般の方には迷惑かけたくないので」
「それもそうだな。だが、そんなこと言ってたら何もできないぞ?」
「そんなこと分かってるわ。でも……」
「真奈美さんの言いたいことは分かります。では、一般の方はできるだけ傷つけないように頑張りましょう」
「だな」
三人は、榮留や和岡同様、真の目的を知らない。だから、あくまで偵察のつもりで、戦力を調べるために襲撃しようとしていた。
「じゃ、そろそろ行くぞ」
「はい!」
「真奈美、準備はいいな」
「いつでもオッケーよ」
「よし、いつ敵が来るかわからない。いつでも応戦できるようにしとけっ‼」
「「了解っ」」
根木を先頭に、正哉、真奈美の順で陣形を組み、三人は《美空》目指して走り始めた。
「追跡、支援隊合流。行動を開始しました」
「そうか……」
「どうかしたんですか?」
「いや、なんでもない。それにしても、思ったより早く進んでるな」
「そうですね。あの二人がここまで力を発揮するとは思いませんでした」
《Résistance People Organ》本基地から少し離れた小屋の地下、今回の作戦の指令室は、先ほど主力が無力化されたというのに、いたって落ち着いていた。
「だが、あの三人も時期に捕まるだろう」
「そう……ですよね」
リーダーは途中で気づいていたようだが、補佐は主力がやられたと知って驚いていた。だが、そんな補佐も今となっては勝てると思っていない。
「あの三人に突撃させる意味なんてあったんですか?」
「ああ。何も無意味に攻撃を仕掛けたわけじゃない」
「何か作戦でも……?」
「いや、あの三人はどちらにせよ捕まる。だが、その様子をこうして偵察機で見ることで、敵の強さがわかるだろ? それに、まだあいつが顔を見せてないのが気になる」
リーダー――スカルの真の目的はそこにあった。相手の強さを知ること。そして、あいつ――トカレフの様子を知ること。スカルは、トカレフに恨みがあるわけではない。だが、怪しいと思っていたのだ。
スカルとトカレフは、PCゲーム時代の《OF》を一緒にプレイしていた仲だった。だがそれは表面上のこと。ゲームを一緒にやることにしたのも、ある疑いがあったからだった。
『トカレフは軍人ではないか』
この時代の軍はかなりの秘密主義で、誰が軍人であるかも公表しない。それは、一般生活の中で襲われる可能性があるからだった。
ただ、それもばれてしまうことはある。
たとえば、普段の生活の時に事件があった時、軍の人間は行動してしまう。いや、守るという命令がある。
十年前、スカルたちは事件を起こした。理由は定かではない。ただ、組織上層部からの命令だった。その事件の時、スカルはトカレフを見かけた。警官や、完全武装で識別できなくなった状態の軍の人間に交じり、一人私服で戦っていた。それを怪しいと思ったスカルは、すぐ隠れて武装を外すと、戦いの様子を見守った。結果は惨敗。死者はいないものの、組織の人間で無事だったのは隠れていたスカルだけだった。
そのあとスカルは、トカレフを追跡して、家を見つけ出した。スカルが定期的にトカレフの様子を監視していると、トカレフがあるゲームをしていることを知った。それが《OF》。そのとき同時に、〈トカレフ〉と言うコードネーム――プレイヤーネームを知った。
スカルはすぐ《OF》を開始。そしてある程度強くなったところでトカレフとの接触を図った。結果は成功。トカレフはスカルのことを信用し、一緒にやるようになった。もちろん、二人の関係はゲームの中だけであり、現実世界では何の関係もなかった。
その後、数年にわたって一緒にやってきたスカルだが、一向に軍の話を聞ける様子はなかった。だから、スカルは自分からその話題を持ち出した。すると、トカレフは黙り込み、その日はそのままログアウトしてしまった。
次の日には、何事もなかったように接していたが、それから一か月もしないうちに《OF》はシステム停止になった。
そのあとスカルはトカレフを探るのを諦めた。だが、先週トカレフの姿を見かけ、再び追跡を開始。だが、あいにくトカレフを追うことはできなかった。だが、その時話していた二人のうち一人を追跡したところ、ついに基地だろう《美空》にたどり着いたのだった。
「あいつがあそこにいるのは間違いない。様子を見れるだけで十分だ」
「それにしてもあの二人、一向に動く様子がありませんね」
「ああ、さっき話しかけていた連中がいたが、あいつではなかったからな」
スカルたち二人は、根木か設置した監視カメラの映像を見ていた。そのカメラは遠距離から操作が可能なため、今はターゲットの二人――向井と霧野が打つている。
「あの二人だって、軍と何らかの関係があるはずだ。襲撃すれば、反応を示すかもしれない」
「そうだな」
スカルは、ターゲットが一向に動かないことを不審に思っていたが、軍の関係者なら十分にあり得ることのため、待っていても無駄だと判断したのだ。もしそれがなかったら、たとえトカレフの様子を見たいとはいえ無謀な襲撃はさせなかっただろう。
「連絡はいりました。襲撃開始の許可を求めています」
「いいだろう。襲撃作戦開始だ」
「了解です」
補佐がこの連絡を送った時、根木達三人の襲撃は始まった。




