一章・7-2
長めです。
※'15.11/5 読みやすいように編集しました。
「それで何なんだ? 用って」
さかのぼること約十五分、ここは《美空》にある基地入口である。
「とりあえず、歩きながらね」
そういって、シュリンプは基地への扉を開けた。
「不審者よ」
「はあーっ! 俺らは警察じゃない。そんなの警察の仕事だろ?」
「そうじゃない。なんというか……今この基地が狙われているみたいなの」
「なんだと!」
ディオの驚きはローレンス以上だった。
「ここは安全じゃなかったのか?」
「そのはずだわ。いや、正しくはそのはずだった、ね」
「どういうことだ」
「これは最近入った情報なんだけど、どこかの組織が軍を狙っているらしいの」
「っ‼」
その驚きは、先ほどのと比べ物にならない、絶句するほどの物だった。
「それで、その組織は日本で活動していたんだけど……」
「待ってくれ、俺らがここで活動し始めたのはつい最近だぞ。どういうことだ」
「確かに私たちが来たのはつい最近ね。でも、それは『ここに』でしょう?」
「まあ、日本にはいたな」
「その時に情報が漏れたらしいの」
「そういうことか……」
「その情報が私たち軍に対して不満を覚えている人たちに伝わったの」
「その情報とは何だ?」
「基地を作ることよ。それも、ここらへんにと言うことまで漏れてたみたい」
「マジか……」
この基地建設は極秘で行われた。今もなお、隊員以外の軍員の出入りは禁止されているほど厳重だった。
「それで、その組織が最近活発化し始めたの」
「と言うと?」
「追跡や情報収集が主なのだけれど、お金を集めていたり、また組織の大元から武器が送られてきているようなの」
「それで、今この基地が狙われているっていうのはどういうことだ?」
「それなんだけどね、追跡されてこの《美空》がばれちゃったらしいの」
「なっ」
「それで、襲撃部隊がこの基地向かって移動してるんだって」
「それ、かなり危険じゃないか」
「でもね、それはトカレフが何とかしてくれたわ」
トカレフはその車をハッキングして通信をブロック。そしてニセの情報を送った。
「それで、私たちの仕事は……」
階段の途中のある扉の前で、シュリンプは足を止めた。
「その襲撃犯を捕まえることよ」
「そういうことか」
その扉を開くと、中には二人分の武装品があった。
「場所は?」
「例の追い詰め専用の森よ」
「やっとあの機能が見られるのか」
「ほら、早くしないと敵がついちゃうわよっ」
「わかってるって!」
二人はその武装品を持つと、その先にあったトロッコのようなものに乗り込む。
「行くわよ」
シュリンプはボタンを押した。
すると、そのトロッコはゆっくり動き出し、そして電車並みのスピードになった。
「早く装備してね」
「もちろんだ」
かなりの速さで動くトロッコの上で、二人は反撃の準備を始めた。
同じくそのころ、ローレンスはトカレフのもとに向かっていた。
「こっちだ」
階段を降り終わったところに、トカレフはいた。
ローレンスはトカレフについていく。だが、向かう先は基地の入り口ではなく、違う土壁だった。
「いよいよここを使う時が来たか」
「ああ。思ったより早かったがな」
組織に関しての情報が入った時、追い詰めようの森に罠を仕掛けた。その罠を動かすための部屋が、この壁の中にあるのだ。
「ここだな」
トカレフがその場所を少し掘ると、そこに二十センチ四方の鉄の扉が現れ、ダイヤルを回し鍵を外すと中から一つのボタンが出てきた。
「よし」
トカレフはそれを押す。
すると、目の前の壁がへこみ、先への道が現れた。
「やはりもう少し楽に開けられるようにした方がいいのではないか?」
「そうはしたいのはやまやまだ。でも他の人に見られる訳には行けない。特にメリたちは要注意だ」
「それもそうだな」
トカレフがそのボタンをもとの状態に戻すと、二人は現れた道の中へ入っていった。
「それで、敵は例の?」
「ああ。スカルたちだ」
「またか。こちらは忙しいというのに、どれだけ邪魔をしたらすむんだか」
「向こうはこっちを潰しにきている。邪魔するなんて考えはないだろう」
二人はその道の先の一番奥でたちどまり、ある部屋に入った。
☬
「うぐっ……」
カズの予想通り、サカは生きていた。ただ、前と違って無傷ではない。動けないほどの重症ではないものの、今から襲撃することを考えると、かなりつらいものだった。
「よしっ!」
気を引き締めたサカは、すぐに〔P90〕を構え、突撃しようとした。
「させないよっ」
だが、走りだした瞬間、足元に出てきた誰かの足につまづき、転んだ。
「はぁっ」
そして、サカが起き上がるよりも早く、体を固められてしまった。
「ふっ、弱いわね」
「誰だっ!」
「ふーん。まだしゃべれるんだ」
そういうと、その人物はさらに強く力をかけてきた。
「わかりました! わかりましたから‼ もうやめてください」
「これは練習じゃないんだよ? まあでも、降参した敵を痛めつける理由はないか」
そういうと、サカは解放された。
「身は自由にしてあげるわ。でも、くれぐれも変な真似しないようにね」
「もししたら……?」
「そうね……。どうなると思う?」
「えっと……」
サカは考える。
だが、その間にもその人は武器になりそうなものをとっていく。
「まあ、何を考えてるかわからないけど、必ずそれ以上のことをしてあげるわ」
「っ!」
サカは殺されると思った。だが、それ以上とはどういうことだろうか。
「さて……。あなた、名前は?」
「榮留陽人です」
「素直なのね」
「ええ、まあ……」
「それで、何のためにこんなことをしたの?」
「わかりません。ただ、上からの命令で……」
「上からって、誰のこと?」
「俺らのような下っ端には名前もわかりません。いつもリーダーと呼んでます」
「何の?」
「RPO、《Résistance People Organ》のです」
「それはなんだ」
「俺らの組織の名前です」
「そうか……」
「どうだ?」
近くに来たディオが聞いてくる。
「やはりスカルのとこみたい。話を聞く限り、かなり勢力が高まっているみたいね」
榮留の話の中に、「下っ端には」ということがあった。それが示すのは、それだけの人がいるということだ。
「さて、今はそれぐらいでいいだろう。もう一人行くぞ」
「わかったわ」
ディオはすぐに駆け出した。
「どうするっ……」
カズは考えていた。
まず、仲間に連絡が取れないということ。仲間と言うのはサカもそうだが、組織の人間のことも含んでいる。通信機器は持ってきていなかった。そして、その通信機器がある車もほんの今失ったところだ。また、先ほど叫んで返事が返ってこなかったということ言うことは、サカとも連絡が取れない状況にあるということだった。
次に、行動のこと。「襲撃」との命令で、とりあえず基地は破壊したものの、迎撃の様子がないどころか誰も見当たらない。つまりは襲撃対象を見失った状況にある。仮に基地に人がいたとして、その基地が地下にあったとして、今は埋もれているのか基地があったと思われるところには人工物は見当たらなかった。よく探すと、プラスティックかガラスかはわからないが、何やら透明なものの破片が散らばっていたが、それ以外は普通の地面だった。
「なぜ何もない……⁉」
「それは、ここが基地じゃないからだ」
「っ‼」
突然、後ろから声がした。だが、男声ではあるが、サカの物ではなかった。
「誰だっ⁉」
カズは振り返ろうとして……だが、体を抑えられ、身動きが取れなかった。
「何をする⁉」
「抵抗するな、カズ」
「サカ⁉」
カズの目の前に、サカが現れた。
「どうして!」
サカの武装はすべてなくなっていた。だが、先ほどの爆発でしたのであろうけがは処置されていた。
「もしやっ……」
「カズ……と言ったわね、何を言おうとしたかは知らないけど、この子が裏切ったわけじゃないからね」
サカの後ろから一人の女性――シュリンプが現れた。
「今回の作戦は失敗だ。諦めよう、カズ」
「……………………」
カズは無言を貫いた。
「それで榮留、こいつの名は?」
「和岡俊です」
「よし。和岡、それと榮留。お前らの事情は分かった。とりあえず俺らの基地まで来てもらう」
「いいの? 敵を連れてって」
「トカレフから連絡があったんだ。敵が通信を復活しようとするのをやめたと。このまま放置するより連れて帰っていった方がいいだろう。それに、あまり事情が分かっていないようだ。本当のことを話せば、こっち側につくだろう。こいつら、それなりに戦力になるからな」
「わかったわ。そんなに言うのなら連れていきましょ」
「んじゃ二人とも、ついてこい」
「わかりました」
ディオたちが、自分たちに対して敵意がなくなったと分かった榮留は、すっかりディオを慕っていた。対する和岡は、いまいち状況が理解できていないようで、でも榮留が信用しているから自分も信用してみる、といった感じだった。
四人はトロッコに乗り、基地に戻った。すると、そこにはローレンスが待っていた。
「ここからは私がその役目を引き受けよう」
「わかったわ」
「二人は上へ。トカレフが待っている」
「了解」
「まだ終わってないのね」
ディオとシュリンプの二人は、そのまま階段を駆け上がっていった。
「まあ落ち着いてくれ。何も君たちに手出しするつもりはない。とりあえず、歩きながらな」
階段を上っていく二人を見送ったローレンスは、階段を下りていく。それを追うように、二人も歩き出した。
「私はローレンス。とりあえず今日のうちは君たちの面倒を見ることになっている」
「あの、これから俺たちどうなるんですか?」
口を開いたのは榮留だった。和岡はいまだに口を開こうとしない。
「まずは事情聴取だな。そのあとはこの基地で働いてもらう」
「いいんですか」
「どうせ帰る所がないのだろ? それに、ここから出なければ問題はないからな」
基地の情報が漏れるのは大問題だ。だが、それと同じくこちらの戦力の情報が漏れるのも問題があった。本当ならばその場で殺してしまってもよかったのだが、むやみな殺傷を好まないのが元日本第一派遣部隊の性質だった。
「それと、『《OF》をする』と言う選択肢もある」
「本当ですか⁉」
榮留は喜んだ。榮留にとって、捕まって後悔しているのは「《OF》ができない」と言うことだった。二人が所属する……していた組織も、《OF》をやる予定があり、榮留と和岡はそのメンバーに選ばれていた。それが、捕まったことによりできなくなったと思っていたのだ。それができると知り、榮留は感情を隠すことはできなかった。
「ああ。まだ第二派遣部隊に空きがある。埋めなくてもいい空きだが、二人がやりたいと言うのならばできないことはない」
「お願いします」
「うむ、わかった。それで、君はどうする」
ローレンスは和岡に問いかけた。
「……………………」
和岡は悩んでいるわけではない。戸惑って、混乱しているのだ。その混乱は、捕まった、負けたのに生きていられると分かった時から始まった。そして、基地に入れる。働ける。さらに願いが叶うとしって、だんだんその混乱は強くなった。
「一緒でお願いします」
ローレンスの問いに答えたのは榮留だった。榮留は和岡も《OF》をしたがっていたことを知っていた。だから、今は考えられないだけだと思い、代わりに言ったのだ。
「それでいいよな?」
「…………」
それでも返事はなかったが、榮留にはうなずいたのが分かった。
「よし、では第二派遣隊と連絡を取っておく。詳しくは落ち着いてからな」
違う部隊ではあるが、同じ「関東派遣隊」であるため、基地は同じだ。そのため、内戦で連絡することが可能だった。
「ほら、行くぞ」
そういうと、ローレンスは止まっていた足を再び動かし始めた。
しばらくして、ある部屋にたどり着き、ローレンスは二人をその部屋の中にいれた。
その部屋はただの空き室である。そして、《スペツナツズ》の基地内であった。
「それでは、またしばらくしたら呼びに来る。それまでは休んでいてくれ」
ローレンスはそう言い残すと、その部屋を後にした。




