一章・6-3
※'15.11/5 読みやすいように編集しました。
「ターゲットが目的地に着いたとの連絡が入った」
とある国道の上、男二人の乗った黒いワンボックスは《美空》に向かっている最中、渋滞に巻き込まれていた。
「ネキはどこにいる?」
運転席にいるサカはイラつきながらもカズに問う。
「ネキは、目的地――《美空》から数キロ離れたところに潜んでいる。途中から諦めて双眼鏡を使いながらの追尾にしたそうだ」
「まだ若いのに上出来だな」
口調は優しくなったものの、顔は険しいままだ。
「……にしてもこの渋滞は何なんだ⁉」
「さあ。今日は特別何かある日ではなかったと思うが……」
そういって、カズは何かあるのかと調べ始めた。
「さっきからほとんど動いてないじゃないか。これじゃターゲットに逃げられる」
「その件に関しては、基地として疑わしい場所が分かっただけいいと思うが?」
「それもそうだな」
カズは検索結果をひとつずつ見ていく。だが、予想通りこれとして特別なことはなかった。
「やっぱり、何もないぞ?」
「そうか……」
その時だった。あまり聞き覚えのないブザーのような音が車の中に響き渡った。
「なんだ⁉」
「大丈夫だ。……いや、そうでもないな。これは本部からの緊急連絡の合図だ」
「っ! 緊急連絡……。内容は?」
「…………! やばい、この先に検問が敷かれたらしい」
「なぜだ! 俺らの作戦がばれていたというのか⁉」
「いや、そうではない。この先で事件があったらしく、その犯人を捜しているようだ」
「だとしてもこのままそこに行くわけにはいかない」
カズが言う通り、この車には大量の火器や武器が乗っている。足止めされるだけならともかく、捕まってしまう可能性すらあったのだ。
「どうする⁉」
「それに関しても、本部から抜け道の地図が送られてきている」
「よし、すぐ移動だ!」
「カズ、俺の方が長いってわかってるよな?」
「っ⁉ ……すいません」
「わかってればいい」
そういって、サカは渋滞から抜け出し住宅路に入っていった。
「送信完了っと」
そのころ根木は、《美空》から少し離れたところで木の上からターゲットの姿を追っていた。
「さすがに建物に入られちゃ追うことはできないな」
根木の右手には双眼鏡が、左手には手ごろなナイフが握られている。
「でも、それは向こうにも言えること。しばらくは建物から出ないだろうし、それにこっちから姿が見えないと言うことは向こうからも姿が見えないということ。こっちにとっても好都合だ」
根木はターゲットが建物――《美空》に入ったことを確認すると、上ってきたときと同じようにし【アフリカンサバイバルナイフ】を木に刺し、そのまま滑るようにして木から降りた。
「よし、追うか」
木を降りるのに使っても刃こぼれしなかったナイフを腰に隠すと、根木は森をその森の中を駆け出した。
☬
《美空》に入ると、そこには一般客に紛れローレンスとディオがいた。
「おっ、ロッテルじゃねえか。」
「メリオダス君もいるようだな」
二人は、俺らが声をかける前に声をかけてきた。
「ディオ、調子はどうだ?」
「上々さっ」
「格好つけなくてもいいと思うが」
「………………」
明るかった顔が一転、ディオは顔をしかめた。
「ディオさん、それにローレンスさんも。二人ともどうしてここに?」
俺はワンテンポ遅れて二人に話しかける。
「俺らはただ昼食を食べに来ただけだ」
「食堂で食べないんですか?」
「休日のこの時間……とその前の日の夜は忙しいからって注文しても届かないんだ」
「そうなんですか」
基地にある食堂は基地専用であっても、《美空》自体は基地専用ではない。それどころかそれで稼ごうとしているぐらいなので、基地の人間より一般客のほうを優先しているのだった。
「それで、お前らは何の用だ?」
「いや、こいつが前迷惑かけたからそのお礼をしたいって」
「霧野っ! まあ、間違いじゃないけど……」
お礼……と言うかお詫びをしに来たのは本当のことである。だがそれをそのまま口にされると恥ずかしいものがある。
「迷惑ってなんのことだ?」
「ディオ、知らないのか? こいつが先週倒れたこと」
「あっ、誰かが倒れたってことは知ってたが、あれメリオダスのことだったのか」
「ディオ。お前はもう少し他人に興味を持った方がいいと思うぞ」
「わりぃ、わりぃ。あいにくその日は珍しく出かけてたんだ」
「おおっ! ディオにしちゃ珍しいじゃないか」
「霧野、ディオさんのことそんなに詳しいの?」
「詳しいっつうか……ほら、あのとき。俺とコンビ組むって話になる少し前俺とディオとで話してただろ? あの時色々と話したんだ」
「このことも?」
「ああ。ほかにもお前のあんなことやこんなことを……」
「霧野っ⁉ 勝手に何しゃべってるの‼!」
「いいじゃんか。減るもんじゃないし」
「俺の心がすり減ってくよ!」
「擦れる程度じゃないか。そんなの誤差の範囲だな」
「……えぐられてくよ!」
「それなら何も減らないんじゃないか?」
「うぅー!」
「まあまあメリオダス君。ここにはほかの人もいるんだし、そう怒らずに」
「ぷぅー」
「そういえばロッテル、あの話の続き教えてくれよ」
「あの話?」
「ああ、あの……メリオダスが小学校のときに……うゎ!」
「だめですディオさん、それをここで言っては……」
ディオが何を言おうとしているかわかった俺は、言われる前にディオの口をふさいだ。
「んあいをふう!」
「ディオさんは黙っててください! 霧野? 何であれはなしたのかなー?」
「っ⁉ メリ、落ち着くんだ。ローレンスが言う通りここは店の中だ。怒らず、周りに迷惑かけないよう静かに、落ち着いて……」
「誰のせいだと思ってる⁉」
「すいませんでしたー!」
「あの……、ご注文の品をお届けに参りました」
「ああ、すまない。見苦しいところを見せてしまったな。ここに置いてくれ」
「わかりました」
怯えていた《美空》の店員は、大丈夫か確認するとディオとローレンスの前に今日の【日替わり昼食セットB】であるカレーセットを置いて行った。
(ほ、本格的だ……)
そのカレーセットには、インド料理店さながらのナンがあった。「焼きたて」とも書いてある。一体この店はどんな店なのか、――――居酒屋である。
「すいません」
「はい」
俺が運ばれてきたカレーセットに驚いている間に、霧野は店員に声をかけた。
「俺もこれお願いします」
「えっと……【日替わり昼食セットB】ですか?」
「そうです」
「俺も同じのお願いします」
「はい。では、【日替わり昼食セットB】2つですね。かしこまりました。しばらくお待ちください」
店員に注文すると、その店員はメモを取らないまま厨房に戻っていった。
「それにしてもこの店、本当にすごいですね……」
「まあな。理由はここでは言えないが……まあ、大体はわかるだろ?」
「大体、は……」
最初はなぜかわからなかったのだが「ここでは言えない」ということから、基地関係だということはわかった。それがどういう風に関係してくるかはわからなかったが、いつか聞く機会があるだろう。
「俺らだからできることだよな」
「そう、ですね……」
「ご注文の品をお届けに参りました」
「(早っ!)」
その声がかかった時、俺はものすごく驚いた。なぜなら、まだ注文してから3分ほどしかたっていなかったからだ。すいているときでもこの速さはかなりのものだが、今は混んでいる。それも満席に近いほどに。それでもこの速さで届くというのは……やはりこの店はどうかしている。
「まあ、こう立っているのもなんだろう。ほら、カレーが冷めないうちに食べるぞ」
ローレンスに勧められ、俺たちはそれぞれローレンスたちの隣に座った。




