一章・5-3
※'15.11/5 読みやすいように編集しました。
「呼んでくれって言ったって……」
ローレンスを経由してもらった連絡には、どこに呼びに行くかという内容がなかった。
「トカレフさんの……部屋?」
トカレフがどこにいるかわからないが、とりあえず一番ありえそうなトカレフの部屋に行くことにした。
「トカレフさん、いますかー?」
俺はトカレフの部屋の前につくと、すぐに扉をたたき、声をかけた。
『………………』
反応がない。
「トカレフさーん」
念のため、もう一度声をかける。
『………………』
だが、反応はなかった。
「そういえば!」
今まで気づかなかったのだが、ローレンスに【飛燕】で連絡したのだから、今トカレフは【飛燕】を持っているはずだ。それなら、今俺がトカレフの【飛燕】に連絡すればどこに行けばいいかわかるのではないか。
そう思った俺は、すぐに自分の【飛燕】を取り出し、トカレフへの連絡に試みる。
『♪~~』
案の定、着信音は部屋の中から聞こえてきた。トカレフはこの部屋の中にいるのだろうか。でもそれなら俺が声をかけた時点で出てくるはず。
「……あっ」
俺がトカレフに【飛燕】を渡された時、これを基地外にもっていくなと言われた。俺を送っていくのなら部屋に置いていっても不自然ではない。
「ここにはいないのか……。それなら!」
俺はもう一つ浮かんでいたところへ向かって歩き出した。
目的地にたどり着いた。《集会室》である。
俺はすぐ扉を開ける。中には……
「あら、メリオダスじゃない。さっきトカレフが探してたわよ?」
「シュリンプさん……」
「どうしてそんな暗いの? ……そうか、あなた昨日倒れたんだったわね。どう? 隊長は」
「大丈夫です」
そう答えながらも俺は部屋を見渡す。だが、シュリンプ以外の人物はいなかった。
「それはよかった」
そういって、シュリンプはこちらに歩み寄ってきた。
「それで、何の用? さっきから慌てているようだけど……」
「あのっ、さっきトカレフさんが僕のこと探してたって言いましたよね?」
「ええ。 それがどうかしたの?」
「トカレフさんに家まで送ってもらうことになっていて、それで朝食終わったら呼んでくれって言われたんですけど、どこに呼びに行っていいかわからなくて……」
「だからトカレフはあなたを探していたのね……」
シュリンプは何かを察したようで、腕を組んでうんうんと頷いている。
「それで、どこに行ったか分かりませんか⁉」
「んーと……。確か上で待ってるからもしメリが来たら伝えてくれって言ってたような……」
「ありがとうございますっ」
俺はそれが《美空》にいるということを示していると分かった瞬間走り出していた。
基地の出口――最初この基地に来る時にトカレフが何やら操作をしていたあの洞窟の行き止まりのところへと向かおおとして、まだ準備をしていないことに気付き、いったん部屋に戻って準備を済ませてから、急いで《美空》へと向かった。もちろん【飛燕】はおいてきた。
☬
階段を駆け上がり【美空】に入ると、すぐにトカレフの姿が目に入った。
「メリ、遅いじゃないか」
「すいません……って、そもそもトカレフさんがどこか教えてくれないから俺ずっと探してたんですよ⁉」
「それはすまないことをしたな。ただ、たとえそうだとしても遅すぎはしないか?」
「そうですか?」
俺は柱についていた時計を見る。まだ起きて一時間ほどしかたっていない。そして、頭の中で計算する。まず起きてから食堂につくまで約20分、食堂で約15分だから、わせて35分。起きたのが大体8時10分だから食べ終わったときは8時45分になる。探すのには結構時間がかかったから……でも、そこまでではないと思う。
「そうは思いませんが……」
俺は頭の中で考えた結論をもとにして答える。
「何を言う。もう10時ではないか!」
「ほら」とでも言うように、トカレフは腕時計を見せてくる。
「えっ、でもあの時計だと……」
俺が指差した方向をトカレフが見る。そして驚いたような顔をして、腕時計を見直す。
「これは失礼、俺の腕時計がずれていたようだ」
そういいながらも、トカレフは慌てている。
「トカレフさん、行きましょう?」
「お、おお、そうだな」
そういって、俺はトカレフの前を歩いて《美空》から出る。
「この車だ」
トカレフは、昨日俺たちを駅からここまで運んだ車を指さした。
言われるがまま、俺は車に乗る。
「おまえの家でいいんだよな」
「…………」
俺は無言のままうなずく。
「大丈夫か?」
「…………はい」
「なら行くぞ」
そういって、トカレフは車を動かした。
「(うっ……)」
実のところ、俺は車酔いにめっぽう弱い。来るときは話を聞いていたから意識をそらせたが、今は何もない。車の中は揺れでがたごととなっている音しかない。《美空》は山の近くにあり、俺の家に直で行くにはこの山を越えるしかない。そのほうが近いし時間もかからないことは分かっているが、……ものすごく辛いのである。
「「……………………」」
二人とも終始無言のまま、いつの間にか俺の家の前に車は止まっていた。
「着いたぞ」
トカレフに言われる前に、俺は車から降りる。
「またな」
トカレフはそういうと、俺の返事を聞く前に車を出してしまい、そしてすぐにトカレフの乗った車は見えなくなった。
「うぅ…………」
酔いは治っていない。この後かなりつらい時を過ごすことになった。もうこの時のことは思い出したくもない。
☬
少しして、自分の携帯端末を見る。すると、霧野からのメッセージを知らせるアイコンがあった。それを見ると「今回のお礼を含めて次の土日どっちか《美空》で食事しに行かないか?」と書かれていた。
「それもそうか……」
俺はOKの返事を送る。そして、そのままベットに倒れこむようにして眠りに落ちていくのだった。
だが、この食事であんな事件に巻き込まれるとは、この時にはわかるはずもなかった。




