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operation flags  作者: k.はる
一章 ―新世界(new world)―
10/52

一章・5-2

※'15.11/5 一部説明を追加しました。

      読みやすいように編集しました。

「おっ、看板があった」

 俺が見たのは「食堂↑」という看板だった。

 食堂に入ると、そこにはローレンスがいた。

「おお、メリオダス君ではないか。昨日倒れたと聞いたが調子は大丈夫なのか?」

「っ! ……はい、おかげさまで。まだばっちりとまではいきませんがそれなりには治りました」

 まさか、いきなり話しかけられるとは思ってもいなかった。ローレンスとは、まだあまり話したことがない。いや、自己紹介をした時だけで面もって話すのは初めてかもしれない。それでもまあ、そこまで怖い人でもなさそうだし、恐れることもないと思う。

「それはよかった。それで、今は朝食を食べに来たのかい?」

「はい。まあ、そうです」

「ここの食堂は初めてだろ? どんなメニューがあるかわからんだろうし、何なら私が頼んでやろうか?」

「いえ、僕は最初から食べるものが決まって……と言うか、食券を渡されていて……」

「そうだったのか。なら、私が選ぶまではないな」

 トカレフに渡された食券を食堂に移動中見ていたら、『朝食A』と書かれていた。その時はなんのことかわからなかったけど、食堂に入って一番のところに

『本日の日替わりメニュー

朝食A:ご飯・温泉卵・シューニオンサラダ~青じそドレッシングとツナを添えて~・竹の子汁・海苔

朝食B:トースト・ベーコンエッグ・人参と玉ねぎとトマトのロールキャベツ風蒸し野菜・コンソメスープ

朝食C……』

と書かれていたのを覚えている。『朝食A』とは、日替わり朝食のAセットなのだろう。

 そんなことを考えているとお腹が鳴った。朝言われた通り、俺は昨日の昼から何一つ口にしていない。かなりお腹がすいていた。早く何かを食べたい! メニューも決まっていいるし、この食堂スペツナツズの基地内にあり、混んでいるはずもなく今ローレンスと二人きりである。早く注文するためにカウンターを探しているとき、自分の考えの中から一つの疑問が浮かび上がった。

(今、食堂にローレンスと二人きり……!?)

 どこを探しても店員――スタッフの姿がない。それもそのはずである。基地内には《美空》の店員であっても入ってくることができないはずだ。それに、仮に《美空》の店員がいなくても、この基地にはスタッフがたくさんいることを昨日いろいろ基地内を見てわかっている。ただ、そのスタッフも食堂にはいないのである。

「ローレンスさん。あの……」

「『ローレンス』で結構だ。ついでに、敬語でなくてもかまわん」

「ローレンスさ……ローレンス、どこで注文すればいい……ですか?」

「注文か。お前初めてだったもんな……。注文は、そこの壁にあるオーダー機でやる。お前は食券持ってるからあのお札を入れるような隙間に食券を入れるだけだ。しばらくすれば注文したのが隣の扉から出てくる」

「わかりました!」

 そういって、俺はオーダー機に向かって走り出す。別に走る必要のある距離ではないが、空腹がオーダー機に向かう足を速めた。

 オーダー機には『注文する』のボタンがあり、それを押すと『食券、またはカードを入れてください』と表示された。すかさず食券を入れる。すると『読み込み中』という画面に変わり『日替わり朝食セットA でよろしいですか?』という質問が。俺はすぐにこの文字の下にあった『はい』のボタンを押す。画面が『送信中』にかわり、しばらくして『送信完了 5分ほどお待ちください』と表示された。

「ふぅー……」

 注文しただけなのに何でこんなにも疲れているのだろうか。きっと空腹のせいだ。

「注文終わったか?」

 動きを止めた僕の様子を見てローレンスが声をかけてきた。

「……とりあえず、終わったみたいです」

 返事をすると同時に、俺はローレンスのほうを向く。

「ならこっちへ来い。どうせ待ち時間よりも前に届くことはない」

 本当はずっと扉の前で待っているつもりだったが、こう言われては仕方がない。俺はしぶしぶと(もちろん顔には出さない)ローレンスのもとへと向かう。

「まあここに座れ」

 ローレンスは自分の座っているテーブルの反対側の席を指していった。

「……」

 俺は何も言わずに腰を下ろす。

「それで、この部隊はそんなに大変だったのか?」

「えっ?」

「なんのこと?」と言おうとしたが、その前に何を言っているかがわかった。きっと倒れたことに関してだろう。ローレンスは部隊での出来事が大変だったからではないか、と思っているのだろう。

「いえ、そんな大変ではありません。むしろ、バイトに比べたらゆったりしていて楽なくらいです」

「ほう、メリオダス君は部隊に入る前はバイトをしていたのか……」

「はい、霧野と一緒に。あと、入る前っていうか、今もバイトはしています」

「そうか。部隊に入ってる以上、そんな時間の余裕は私の経験上ないと思うが……」

「ローレンスさんはいつからこの部隊に入っているんですか?」

「この部隊はできたのがつい最近だからそう長くはないな。まあ2、3か月くらい前からだ。軍には入ってからはもう十年以上になるな」

「軍?」

「っ……そうだ。説明があっただろ? この部隊は派遣隊で、派遣元は《タスクフォース》という軍だと」

「そういえば……」

 最初にトカレフに会ったときにそんな話をされた記憶が戻ってきた。

「ということは、ローレンスさんはOFがパソコンゲームだった時からしていたってことですか?」

「そうなるな。俺が始めた時には《タスクフォース141》が存在していた。その時はあまり大きくはなかったがな」

「そうなんですか」

 《タスクフォース141》。トカレフに初めて会ったあの日、俺は家に帰ってからこの軍について調べた。

すると、一番初めに表示されていた。始めは他のゲームやアニメなどが出てくると思ったのだが、そうではなかった。また、驚いたことに検索サイトの一ページ目がすべてこの派遣元の軍の名前だった。さらに、一番初めに出てきた《タスクフォース141》の検索結果は、なんとこの軍のオフィシャルサイトだった。ただ、それは《タスクフォース》のオフィシャルサイトで、『141』の数字はなかった。あとで聞いた話なのだが、『141』というのは、『《タスクフォース》の141隊』ということらしく、この《スペツナツズ》がその『141隊』らしい。

 さて、その《タスクフォース》のオフィシャルサイトだが、そこにはしっかり『日本サーバーオープンに伴っての派遣隊入隊者募集』の項目もあった。ただ、この項目には、第二派遣隊、第三派遣隊、そして第四派遣隊しか出ておらず、俺の所属している第一派遣隊の文字はどこにも――正確には、応募の欄には――なかった。よく探すと、端に「第一派遣隊は、ネットでの入隊希望者を募集していません」と書いてあった。これは昨日聞いたことなのだが、こんなに現実世界の待遇がいいのは第一派遣隊だけのようだ。例えば、第二派遣隊は家に住むのを禁じられる。もちろん、仕事も辞めなければいけなかった。その分生活費はすべて援助されるが、使用用途が制限されているため自由はない。また第三派遣隊は第二派遣隊のように自由が奪われることはないが、その分援助が少ない。第一派遣隊はポイント、第二派遣隊は無料であるご飯や、家具などの物はすべて買わなければいけない。第一派遣隊がポイント制で払われる基地内生活分として払われる分が第三派遣隊では現金で支払われているだけなのだが、その分一つ一つの料金設定が細かく、同じポイントでもらえるものでも、現金だと値段が違ったりするため買うもの、食べるものを決める時にもつい値段に目が行ってしまうそうだ。

 実際その人たちにはまだあっていないが、同じ基地内で生活しているのだからいつかは会うことがあるだろう。

『日替わり朝食セットA が、届きました』

 そんな機械音が聞こえたのは思考がちょうど一区切りついたところだった。

「ほら、来たぞ」

 ローレンスにせかされ、俺は受け取り口に向かい、そこにある『開ける』のボタンを押した。

「おっと……」

 と同時に、基地内連絡手段である【飛燕】が着信を知らせる。

 【飛燕】とは、基地内通信機のことである。見た目はトランシーバーのようだが、性能は全然違う。まず、話すだけではなく文字を送ることができることである。【飛燕】での会話は、音質はいいものの電力消費が激しい。そのため、緊急時以外はこのメールのような機能を使っている。またこの機能があるため、【飛燕】には着信の合図がある。無線機と言えばそんなものがないのが普通だが、【飛燕】にはバイブレーションや音などで着信を知らせてくれる。また、会話をする時にかけても着信の合図はある。ただ、無線機との一番の違いは情報漏洩がないことだ。無線機は、周波数を合わせて暗号を解読すれば情報は筒抜けとなるのが一般的だ。それに比べて【飛燕】は、使用可能範囲を基地内のみにすることで電波を外に出すことを阻止したのだ。また、基地内の経由地を使っていて完全に孤立した通信網のため、外部からのアクセスも不可能である。そもそも基地の周りには多量のセキュリティシステムがあるため、電波を外に逃がすなんてことはありえないのだが、万が一基地に潜入されても簡単には情報が奪われないようにという感じで、要は念のための機能である。

 俺はこの【飛燕】を部隊集会の時にもらっていた。だから、今鳴っている【飛燕】は俺の物の可能性があった。

 だが、鳴っている【飛燕】は俺のではなく、どうやらローレンスの物のようだ。

「すまない、急用ができた。私はここで席を外す」

「わかりました」

「……それと、トカレフが。食べ終わったら家まで送ってくから呼んでくれ、と」

「了解です」

 今の着信はトカレフからだったのか、それとも履歴にあったのか……そんなことはどうでもいい。トカレフを待たせていることは確かだろう。早く食べなければ。

「またな」

 そういって、ローレンスは食堂を後にする。

 一人きりになった俺は、病み上がりだというのに10分というスピードで朝食を済ませた。


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