5話
2018年4月28日
PM2:00
エーレ大平原
フェデロークが『ヴェアリアス・フィーリング』を始めてから1週間が経った。初めの3日間はエレジアとバランドと共に行動していたが、ここ4日間は、バランドと二人で狩りをすることが多くなった。
バランドのことは常に一緒に行動しているわけではないので分からないが、フェデロークは積極的に授業も受けている。素早さ向上Ⅰを中心に他は魔力向上Ⅰや器用度向上Ⅰなどもやっている。これは全部《正義》と《魔術師》の得意分野である。フェデロークは授業は1日に1回しか出来ないので(LV2の試験クエストをクリアすれば1日に授業が受けられる回数は増えるらしい)ログインしては授業を受け、バランドと待ち合わせをしてエーレ大平原に行きヴィシャスウルフを狩る。そんな毎日だ。本当は、授業の素早さ向上Ⅰをもっとやりたいが同じ授業は1日1回しか受けられないためにあまり受けることが出来ない。それがフェデロークには歯がゆい。
ただ、色んな授業をとりあえず受けてみようと思い色々な授業を1回は受ける様にしたところ、色々な種類のカードは増えた。今は、愚者のカードで素早さスキルを、正義のカードで器用度スキルを、魔術師のカードで攻撃魔法スキルを上昇させている。
フェデロークは当面の目標として、ライザ(この世界の通過)を貯蓄することと攻撃型のアクティブアビリティの習得に力を注いでいた。
フェデロークのサブクラス《魔術師》は生産系スキルの適性が高い。それをフェデロークが知ったのは、ゲームを始める直前だったが、このゲームを始めてみて、生産系スキルの必要性を改めて感じた。
このゲームを始めた日、オーガというMobと戦った。エレジアは、こう言った。
『オーガは初心者ではまず勝てません。オーガを見かけたら必ず逃げるように。いいですわね』
エレジアの話によるとオーガはエーレ大平原には生息していないらしい。しかも攻撃もしていないのに初心者を攻撃を仕掛けるのもおかしいと言っていた。
とにかくフェデロークはオーガとの戦闘でショックを受けた。もちろん初心者なのだから、歯が立たないMobもたくさんいるだろう。しかし、エーレ大平原は初心者がかなりの確率で行く場所だ。ガーランド学園都市の出入り口は、北門、西門、東門、南門の4つだ。東門の先はザンサの森という場所でそこのMobは初心者では歯が立たないものも結構いるらしい。北門と西門から行けるエディガ山脈はザンサの森以上に強いMobが現れるらしい。
そうなると、必然的に初心者はエーレ大平原に行くしかなくなる。そんなところに初心者が太刀打ちできないMobが現れると、初心者は、どうすることも出来ないで死んでいくしかない。もちろんこのゲームは死んだだけではゲームオーバーにはならない。生き返ることも出来る。ペナルティはあるが。
しかし、それではあまりにも理不尽だ。フェデロークは理不尽なことが嫌いだ。世の中は公平でなければいけない。フェデロークはそう思っている。
そのため、フェデロークはエーレ大平原のオーガを出来るだけ駆逐しようと思った。もちろんゲームなのだから無限にMobは湧いてくる。しかしフェデロークの頭にはそんなことは考えてない。いつかエーレ大平原のオーガを駆逐できると思っている。
そこで考えたのがフェデローク自身の成長と武器の調達である。
しかし、NPCが売っている武器と防具は、耐久度が低いということがフェデロークは武器を買ったあとに知ったのである。しかも売っているライザの額が少し高い。初心者ではすぐにライザが尽きてしまうほどだ。
耐久度とは、武器もしくは防具にあるパラメータで武器は使用すればするほど、防具は攻撃を受ければ受けるほど、減っていく。そして、耐久度が0になると壊れた武具(防具)というアイテムになり、修理しなければ使うことが出来なくなってしまう。修理をすればまた使えるのだが、ガーランド学園都市には修理を出来るNPCはいないし、修理スキルを上げているPCもあまりいない。
では、自分で武器を作ればいいではないか。そうフェデロークは思った。PCが作った武器は耐久度が高いし、材料は、街の外から調達してくればいい。
しかし、これにも問題がある。設備の問題だ。
ガーランド学園都市には、生産系の道具が無料で使える場所がそこかしこにある。しかし、無料で使えるとあっていつもPCが使っていて中々空いていない。
だったら武器を作る設備を買ったらいい。
ガーランド学園も他に6つあるといわれている全ての学園も寮のシステムがある。つまり、自分の部屋がゲームが始まった時点であるということだ。そこは、自由にカスタマイズができて、自分なりのデザインにすることが出来るのだ。しかも、生産用の設備やアイテムを保存できるコンテナなどを部屋に置いておくことも出来る。
これを知った時、フェデロークは真っ先に武器や防具を作る施設、すなわち炉と金床を自分の部屋に置くことを決めた。
そのためにライザを貯めているのだが、一つ問題がある。《魔術師》は生産系スキルの適性が高い。しかし、鍛冶に必要な筋力スキルと体力スキルの適性が低いことだ。これでは武器や防具を作れても、いい武器や防具は作れないのではないか、そう思った。
しかし、どちらにせよライザはあった方がいいので、クエストを受けたりして、ライザを貯めているところだ。
そして、もう一つの目標が攻撃型のアクティブアビリティの習得である。
そもそもアビリティは画面の上にあるABILITYの画面からアビリティパレットにセットしないと使うことも出来ないし効果を受けることもできない。フェデロークのアビリティパレットは現在5個までしかセットできない。専用のクエストを受ければ最大10個までパレットにセットできるらしい。ただし、アビリティポイント(AP)というものがあり、アビリティそれぞれにポイントがついている。そして、APの合計がアビリティパレットの合計ポイントよりも少なくなければならない。もちろん、成長すればパレットのAPは増えていき、APが多いアビリティでも、セットできる様になる。
現在、フェデロークがセットしているアビリティは2つ。【リトルウインド】と【マイナスバランス】だ。パレットは5ポイントで、【リトルウインド】はAPが1、【マイナスバランス】もAPは1、つまりあと3ポイント空きがあるのだ。
アビリティは大きく分けて、パッシブアビリティとアクティブアビリティに分けられる。
パッシブアビリティは、パレットにセットしておくだけで自動的に効果が受けられるアビリティだ。バランドの【体力ボーナス】などがあげられる。
アクティブアビリティは攻撃や回復など行動を伴うアビリティである。アクティブアビリティはパレットにセットすると、画面の下にアイコンが表示され、使用できるようになる。
今、フェデロークが欲しいのは、剣スキルで使用できる攻撃用のアクティブアビリティだ。
フェデロークは、筋力スキルが低いため、一度に与えられるダメージが小さい。コンボは最大3回発生させられるが、それでもフェデロークが満足できるほどのダメージは出せない。
そこで、フェデロークが目を付けたのが、攻撃用のアクティブスキルだ。要するに必殺技である。もちろんアクティブスキルはフェデロークの筋力スキルに比例してダメージが増える。それでも、フェデロークの戦力は確実に向上するに違いない。
アビリティの開放条件は、大きく分けて3つある。
1つ目は、街でアビリティのテキストと言うアイテムを買い、それを使用すること。
2つ目は、専用のクエストを受けてそれをクリアすること。
3つ目は、「特殊な条件」をそろえることだ。例えば、Mobを何回倒したかとかスキルを一定値まで上昇させたかなどだ。
ただし、アビリティはアビリティの開放条件をそろえたあと授業で手に入るカードをアビリティごとに提示され、その数だけカードを使用しなければいけない。
1つ目は、はっきり言って初心者用のテキストでも払わなければならないライザが高い。
2つ目も検討したが、これも除外するしかない。
クエストにも難易度があり、初心者でも受けられるクエストもある。
しかしスキルには、分種スキルと言うものがある。例えば、剣スキルと言うものがある。しかし、それは更に分けられていて、大剣スキル、短剣スキル、曲刀スキルなどと分けられており、これを分種スキルと言う。分種スキルはあくまでも一つのスキルの派生なので、大剣スキルを10、短剣スキルを10上昇させれば、剣スキルは20になる。
アビリティは分種スキルごとにあるので、自分の納得した武器のアビリティを選ばなければならない。そのため、2つ目のクエストは分種スキルごとに違うのだ。
《正義》は、剣スキル、特に短剣スキル、細剣スキルに適性があるらしい。そこでフェデロークは命中力が高い細剣を装備したいと思っていた。細剣スキル用のアビリティの取得条件のクエストは、初心者のフェデロークには少し無理があった
しかも細剣を買うには、ライザが足りない。
そこで、クエストを受けて、報酬を得てライザを手に入れつつ、3つ目のアビリティの開放条件である「特殊な条件」を満たすことにしたのだ。
フェデローク(慎司)が雑誌やパソコンの攻略サイトで調べたところによると、細剣の比較的、開放条件が易しいのは【スラストインパクト】である。このアビリティは、コンボは発生せず1撃しか発生しないが、細剣の中では、かなりダメージを与えられ、しかものけぞらせたり、場合によっては転倒させることも出来る。初心者にはうってつけのアビリティだ。
このアビリティの開放条件は、『剣スキルを5以上、どの魔法スキルでもいいから分種スキルの風属性魔法スキルを5以上あげること』である。
魔法系スキルは、攻撃魔法スキル、防御魔法スキル、付与魔法スキル、闇魔法スキル、通信魔法スキル、無系統魔法スキルの6つである。この全てに、分種スキルとして、火属性魔法スキル、水属性魔法スキル、地属性魔法スキル、風属性魔法スキルが配分されている。ただし、通信魔法スキルだけは風属性魔法スキルだけが分種スキルとして存在している。
フェデロークの魔法アビリティは、攻撃魔法スキルで分種スキルが風属性魔法スキルの【リトルウインド】だけだ。【スラストインパクト】を手に入れるためには、【リトルウインド】を多用するしかない。
今フェデロークとバランドは、エーレ大平原でヴィシャスウルフと対峙している。
フェデロークたちは、『ヴィシャスウルフ討伐』のクエストを積極的に受けている。このクエストは、ヴィシャスウルフを10体討伐するとクリアとなる。
『フェデローク!回復する!少しの間お願い!』
『了解』
フェデロークとバランドの戦法は、基本的に1番初めにヴィシャスウルフを倒した時と同じ方法をとっている。バランドが前線に出てヴィシャスウルフを攻撃し、フェデロークは【リトルウインド】で援護する戦法だ。ただこの方法だと防御力が低いバランドのダメージが大きいのが欠点だ。そのため、時々バランドが後ろに下がり、フェデロークが武器攻撃をしてバランドが回復するというスタイルも取っている。
今回も、フェデロークが【リトルウインド】で攻撃してひきつけた。
すると、ポーンと音が鳴り、『アビリティ【インクリーススピード】が開放されました』とメッセージが現れた。
フェデロークはそのメッセージが気になったが、それよりもヴィシャスウルフを討伐することが先だと思い、素早く攻撃を開始した。
ヴィシャスウルフの長所は攻撃の素早さと回避力だ。素早い攻撃でフェデロークは、何度も攻撃をキャンセルされた。しかし、フェデロークも素早さでは負けていない。ヴィシャスウルフが攻撃を終わらせたところを狙い、一気に攻撃した。そこに、
『お待たせ』
と、バランドが回復を終えて、加勢してきた。最近では、二人とも戦いに慣れてきて素早くヴィシャスウルフを倒せるようになってきた。
二人で武器攻撃をしてすぐにヴィシャスウルフが倒れた。これで10匹目だ。クエスト完了のメッセージが鳴った。あとは、クエスト受付で報告するだけだ。
『やったね、フェデローク!』
『ああ、お疲れ』
フェデロークはさっきの【インクリーススピード】が気になりABILITYのボタンをクリックした。どうやら新しいアビリティの開放に成功したみたいだ。取得に必要なカードは……と見ていってゲッとフェデロークは思った。必要なカードは恋人のカードだった。このカードはフェデロークにとって手に入れるのが難しいカードの一つだった。
『恋人かぁ……』
フェデロークは一人呻いた。