2話
見てくださりありがとうございます。初めての投稿なので嬉しかったです。不定期に投稿することになると思います。すみません。
2018年4月20日
PM09: 30
慎司の部屋
慎司は悩んでいた。
何故悩んでいたかと言うと勤に勧められた『ヴェアリアス・フィーリング』のクラスのことである。
クラスとは、『ヴェアリアス・フィーリング』において職業のようなものである。
クラスはタロットカードの大アルカナ22枚から2枚をメインクラスとサブクラスに選択することによって、上昇しやすいスキル(能力)や必殺技と特殊な能力のアビリティの取得に関係してくる。
今、慎司は机に向かって腰掛けているが、その机には沢山の雑誌と1台のパソコンがある。
慎司は何かを始める時、まず情報を集める。そして情報を分析した上で判断を下す。慎司もわかっているが、慎司自身失敗を恐れる癖がある。そのため、何をやる時は準備を怠らない。しかもそんな慎重な性格なのに金に糸目をつけないところがある。
慎司は、勤から『ヴェアリアス・フィーリング』を説明を聞いた瞬間にまず思ったのは、「関連の本を買おう」である。
興味のあることは調べなければ気が済まないのが慎司だ。
そして色んな情報を集めた結果、思ったのは「あまりにもやれることが多くてどんなキャラクターにしたらいいのか分からん」だった。
もちろん、慎司にも理想はある。勤から話を聞いた《正義》のことだ。
調べたところ、正義は『ヴェアリアス・フィーリング』の中では軽戦士に属するような役割を担っていることが分かった。
軽戦士とはRPGにおいて敵の攻撃を回避しながら、地道に手数で攻撃するという役割をする職業だ。
短所としては、体力が少ないため攻撃を回避しなければならないのと、攻撃力が低いため、単独で交戦をすると長期戦になるか最悪敗北する可能性がある。
慎司は何でもじっくりやることを好む。だから、正義のスタイルは合っていると言える。
そもそも慎司は正義という言葉が好きだ。
慎司の父親は警察のキャリアで兄は検事をしている。
父親は、慎司ら息子たちに正義の素晴らしさを子供の頃から教えていた。
正しいことをし、弱い者を助ける。
慎司は、子供の頃から正義に憧れた。そして自分も法律関係の仕事に就きたいと思った。むしろ両親は、それが当然だと思っている節がある。
桜丘高校は桜丘市有数の進学校である。桜丘市は30万人ほどの市民が住んいて、高校は6校ある。その中でも桜丘高校は、「桜丘高校に通ってる?すごいですねぇ!」と言われる程の高校なのだ。
その桜丘高校の2年生の中で30位以内をキープしているということはさすがとも言える。
しかし、慎司はその内容に納得していない。なぜなら、勤の存在だ。
慎司は、塾に行っているが、勤は行っていない。それなのに試験で3位以内にいるのはむしろ天才の域と意っていいと慎司は思う。
一度、勉強の仕方を聞いたところ、「勉強?先生に教わったことだけをやっているだけだよ」との返答が来た。慎司は、怒りを通り越し、呆れてしまった。それ以来、勤のことは事あるごとにからかうようにしている。
しかし、慎司は勤のことが嫌いではない。むしろ友達で良かったと思っている。
勤は、友達思いのいいやつだ。あまり自分のことは言わないが、それでもいいと慎司は思っている。
……ただ、ただ一つだけ気になると言うか、気に障るのは勤の勝に対する接し方である。
離れていった友達を思う。それは当然のことであり、しょうがないと思う。
しかし、最近では勝は問題を起こし続け、退学するかしないかという瀬戸際だ。
正義感の強い慎司は、勝のやっている事が許せない。それは、どんな事情があろうともだ。
それなのに、勤は事あるごとに勝を助けようとしている。勤が何を考えているか分からないのはいつもの事だが、それにしても度が過ぎてると思う。何か理由があるのだろうか。
……ちょっと脱線してしまった。少し、落ち着こう。慎司が、そう思っているとドアのノックの音がした。
「どうぞ」
部屋に入ってきたのは、父だった。
「塾から帰って来たのか」
「はい。父さんは、いま仕事からお帰りですか」
少しぎこちない関係に見えるが、慎司は普通だと思っている。因みに父は、仕事が忙しいらしく、春休みが明けてから会うのは初めてである。
「春休み明けのテストはどうだったんだ。」
「はい。28位でした。母さんから聞いていませんか?」
「ああ。聞いていないと思う」
「そうですか。今度の試験では、もっといい成績を取ります。」
「そうか。頑張れ。あんまり遊び過ぎるなよ」
「はい」
父は、部屋を出て行った。
慎司は、ふうと息を吐いた。
父と話すのは、いつも緊張する。威圧感があるのだ。
さて、ともう一度机に向かった時、携帯端末が鳴った。メールだ。
『ごめん。ゲームの中のどこで待ち合わせるか言ってなかった。10時にロンバール広場の時計塔の下にしよう。ゲームの初めに出てくる場所から南に行けば分かると思う。よろしくね~♪ それと会員登録のあとアンケートがあるから始めようと思った理由に「エレジアに誘われた」って書いてね』
イラッとした。最後の『よろしくね~♪』は、いらないだろ。
とにかく、急がないと。とりあえず、ゲームをダウンロードするかと思い、パソコンで『ヴェアリアス・フィーリング』を検索してすばやく会員登録した。アンケートも適当に書き、始めようと思った理由の欄を勤のメールのとおりにした。
ダウンロードを始めると、ダウンロードが終わる時間が30分だと出ていた。いまは、午後9時45分。絶対に間に合わない。
携帯端末で勤にメールをした。
『ごめん。今ダウンロードしたからちょっと時間かかる。』
即座に返事が来た。
『こっちこそごめん。ダウンロードに時間かかるって言えばよかったな。10時30分にしよう。大輔には俺からメールしとく。それからチュートリアルは、移動とチャットだけやっといて。あとは俺が教えるから』
これには、返事せずダウンロードの時間をキャラクターの職業を考える時間にあてることにした。
《正義》をメインクラスにするとして、サブクラスはどうするか。純粋に軽戦士だけでやるのならサブクラスは、短剣が得意な《愚者》か隠密行動が得意な《隠者》か。それとも移動がテレポート移動が出来る《死神》か。
しかし、慎司は出来れば他の何かもやれるようにしたいと思った。
雑誌の『ヴェアリアス・フィーリング』の特集ページをぺらぺらめくっていると、『魔法戦士の真髄』という記事があった。
読むと、魔法戦士は、攻撃魔法でけん制しつつ、武器で攻撃が出来るし、いざという時は自分の能力を上げる付与魔法を使って、敵を翻弄する方法が書いてあった。
何より目を引かれたのは、《正義》が魔法を使いながら戦っている様子のスクリーンショットだった。どうやらサブは《魔術師》らしい。
更に記事を読むと、《正義》には、風魔法の適性があることが分かった。
よし、メインは《正義》でサブは《魔術師》にしよう。
ふと、パソコンのダウンロード画面をみるとちょうどダウンロードが終わるところだった。
アカウントを作成して、キャラクターメイキングに入った。キャラクターの名前はフェデロークにした。単なるおもいつきである。
キャラクターメイキングとは、キャラクターの職業などを決める時間である。
とりあえずメインクラスは《正義》にしてサブクラスは《魔術師》の場所までカーソルを持っていった。
『生粋の攻撃魔法のエキスパート。攻撃魔法スキルと魔力スキルに適性があります。また生産系スキル、特に調合スキルに適性があります。そのかわり体力スキル、筋力スキルはあまり伸びません』
《魔術師》の説明はこんな感じだった。生産系スキルとは、何かを作るスキルである。
鍛治スキル、料理スキルなどが代表的なものだが、その中でも調合スキルは薬、毒薬などを作るスキルだ。
慎司は、《魔術師》が生産系スキルに適性があるのが分からなかった。余裕があったら調合スキルも上げて見ようか。
《魔術師》をサブクラスにして決定をした。すると、初期アビリティの選択とあった。【リトルファイア】、【リトルアクア】、【リトルクエイク】、【リトルウインド】とアビリティが並んでいる。「※このアビリティの取得で得意属性が分かれます。」と書いてあった。
ファイアは炎属性、アクアは水属性、クエイクは地属性、ウインドは風属性である。
少し、悩んで【リトルウインド】にした。《正義》は、風属性が得意と書いてあったからだ。
クラスの決定が終わると顔のパーツの選択になった。といっても髪の形と髪の色と目の形と目の色しか選択出来なかった。どうやら衣装などはクラスで決まるようだ。
慎司は髪の色を青にして長髪にした。
目の色は灰色にして横長のアーモンドの様な形にした。決定ボタンをクリックすると
やっとゲームのプロローグが始まった。
慎司は、大きく息を吐いた。こういう作業は疲れる。慎司はあまりRPGはやらない。スポーツゲームがほとんどだ。だからこういうのは勝手が違うし、こういう選択の多いのは少し疲れる。
*****
2018年4月20日
PM10:30
ロンバール広場時計塔前
プロローグは、3分程で終わった。フェデローク(慎司)はチュートリアルも簡単に済まし、ロンバール広場とやらにむかった。かなりグラフィックは素晴らしい。案内板があったのでそれを見てロンバール広場を目指した。
時計塔はロンバール広場の中心にあった。かなり大きな時計塔らしい。その時計塔の前に大きな男がいた。男の上には白文字で『バランド』と表示されている。
あれは勤?それとも大輔?とフェデロークは思った。どちらにしても似つかわしくない。
時計塔に近づき先程のチュートリアルで教えてもらったチャットを使った。
『勤?それとも大輔?』
まだチャットに慣れない。
『大輔だよ。慎司?これからはバランドって呼んで』
『慎司だ。了解。俺はフェデロークと呼んでくれ』
応えて、これが大輔!?と思った。慎司や勤はそれなりに背が高いが、大輔は背が低い。
バランドは髪がボサボサで目まで髪に隠れていた。白い頑丈そうな鎧を着ていかにも重戦士という感じだ。
『お前身長気にしていたんだな』
すぐ返事がきた。
『違うよ‼︎たまたま選んだクラスがでかいやつだっただけ‼︎』
反応からして身長を気にしているのは明白だった。これ以上詮索しない方が良さそうだ。
『分かった、分かった。ところでクラスは何にしたんだ?』
『メインクラスは《太陽》、サブクラスは《塔》だよ。フェデロークは?』
フェデロークは《太陽》は体力スキルが上昇しやすく、《塔》は初期アビリティの【ファイタースタイル】と【マジシャンスタイル】によって戦士タイプか魔法使いタイプになるかが分かれると雑誌にあったのを思い出した。
『メインクラスは《正義》、サブクラス《魔術師》だ』
『フェデロークは正義って言葉好きだもんね』
『うるさい。それより、勤はまだか?』
『うん。そうだよね。どうしたのかなぁ?』
その時、周囲の人が騒いだ。
『エレジー様だ‼︎』『やーん、私初めてお顔拝見したー』『今日は運がいいぜ‼︎』
フェデロークとバランドはロンバール広場の入り口から水色のドレスを着た女性が来たのを見た。
『何だろうな、あれ』
『さあ?』
キャラクター名はエレジアとなっている。
フェデロークは先程の勤のメールにエレジアとあったのを思い出した。
フェデロークはまさかと思った。
水色のドレスの女はこちらに向かって来た。
チャット画面が開いた。しかし、文字は通常の白ではなくて青だった。
『ご機嫌よう』
『えーと、どちら様ですか?』
一応聞いてみた。
フェデロークが答えた。
『勤でーす!』
それを聞いた瞬間、フェデロークは呆然とした。バランドが、
『……えっ。勤?えっ…』
次の瞬間、二つのメッセージが響いた。
『『女ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』』