10話
長らくお待たせして棲みませんでした。これからもすこしずづ書いていきますのでよろしくお願いします。
2018年5月4日
PM10:10
エーレ大平原
フェデロークは驚きと共にまたかと思った。フェデロークつまり慎司はあまり人付き合いが得意ではない。勤や大輔の前ではつっこみ役なところはあるが、あまり人と話すのが上手くないのだ。それだけではない。慎司は、人と仲良くなるとあまりその人のことを省みなくなることが多少ある。仲がいいのだからこれくらいはいいだろう、と思ってしまうのだ。それを悪い癖だと慎司自身が思っている。しかし、癖というものは中々直せない。だから癖なのだ。
今回の「ペンドラゴンがクエストをやめよう」と言ってきたのも自分が何か悪いことを言ったせいではないかと慎司は勘ぐった。こういう場合、慎司はカッとなりやすいが深呼吸して冷静に対応することにした。
『……とりあえず、理由を聞かせてもらえないかな』
ペンドラゴンも他の3人も黙ったままだ。PCの行動だけでは分かりづらいが4人組のプレイヤー自身もバツが悪いのだろう。
こういう時、エーラーが一番冷静だと思うのだが、エーラーも黙っている。ペンドラゴンだけが一歩前に出ているのでペンドラゴンが何かを言いたいのだとフェデロークは思った。
『……僕の名前、ペンドラゴンの意味分かりますか?』
不意にペンドラゴンが話した。
『いや、分からないけど。今回のことに関係あるのか?』
『……かなり関係があります。フェデローク先輩はアーサー王物語を読んだことがありますか?』
『アーサー王物語?いや、聞いたことはあるけど内容までは分からない』
『アーサーという人物がある国の王様になり数々の冒険をする話です。僕の名前、ペンドラゴンはそのアーサー王のファミリーネーム。つまり姓です』
『……それで?』
まだフェデロークにはペンドラゴンが考えていることが分からなかった。
『僕は小さい頃から両親にこの物語を何回も何回も読んでもらいました。僕はアーサー王に憧れました。アーサー王は魔法使いの軍師はいたけど魔法は使わなかった。だから僕もこのゲームで魔法を使いたくないんです』
それか、とフェデロークは思った。ペンドラゴンには召還魔法スキルを上げるように指示していた。
『つまり、召還魔法を使いたくないということだな』
『はい』
フェデロークは熟考した。
フェデロークは今受けているクエストを続けたかった。ペンドラゴンたちが受けたおつかいクエストはともかく火吹きの竜亭のクエストには思い入れがあった。このままでは、火吹きの竜亭がつぶれてしまうかもしれない。それだけは嫌だった。何故嫌なのかそれはフェデロークにも分からなかった。
『わがままなのは分かっています。でもこの世界で自分のスタイルを貫きたいんです。先輩に何を言われてもそれだけは変わりません』
ペンドラゴンはこんなに頑なだったのかというほどに頑なだった。ペンドラゴンを説得するのは無理だろう。このままペンドラゴンたちとクエストを続けるには、ペンドラゴンを納得させるしかない。しかしあのミノタウロスと戦うためには、もっと戦力が必要だった。
フェデロークが考えていたその時、
『なあ、俺が召還魔法を覚えようか?』
ヴァイザルが声を上げた。フェデロークには思いもよらないことだった。
『そうか!ヴァイザルはメインクラスは《隠者》!召還魔法スキルに適性があるとは言えないけど無難には使える!……けど、やっぱ駄目だ。ヴァイザルは攻撃魔法と闇魔法を覚えた方がいい』
『じゃあ、どうしたらいいんだよ!』
ヴァイザルが思わず苛つきを口にした。
『ペンドラゴン、魔法系統じゃなきゃいいか?』
『え?』
『指揮スキル。パーティ内のメンバーに指示を出して、強制的に移動させたり攻撃させたりするんだけどその代わり回避力や攻撃力が一時的に上がるスキルだ。お前の《皇帝》はそれにも適性がある。それならどうだ』
『……僕のわがままに付き合ってくれるんですか?』
『むしろ俺のわがままだ。どうしてもクエストをキャンセルしたくないんだ。それから嫌な思いをさせてすまない』
『いえ、僕の方こそすみませんでした。』
『おーい!お待たせー!…あれ?どうしたの?』
バランドがやってきた。
フェデローク、慎司はバランドののんきなメッセージにふきだしてしまった。おそらく残りの4人もパソコン越しに笑っているに違いないと慎司は思った。
*****
2018年5月9日
PM10:00
ザンサの森
フェデロークたち6人は生い茂る樹海の中で奇妙な紋様の蛾の姿をしたクウィアモス3体と対峙していた。森に入った直後から様々なMobに襲われる。どうやらここでは初心者がMobに襲われないというルールは通じないようだった。
フェデロークは今クウィアモスの1体と戦っていると言っても《正義》は筋力スキルが伸びないのが弱点なのであまりダメージは与えられない。そこでヴァイザルに援護してもらっている。
クウィアモスたちがこちらに近づいてきた時、フェデロークはすぐさま最近習得した広範囲に攻撃できる剣スキルのアビリティ【ワイドカット】を使った。そのため、クウィアモスたちはすでにそれなりのダメージはある。しかし相手はザンサの森では弱いレベルでも、初心者ならギリギリの戦いをさせられる相手なのだ。
こちらの布陣としては前衛はフェデロークが左側。バランドが中心で、ペンドラゴンが右側。後衛はヴァイザルが左側でエーラーが中心。そしてビトはエーラーの後ろだ。この様な奇妙な隊列には意味がある。
まず前衛はバランドが一番体力があるため、中心にいれば他のメンバーを援護しやすいため中心にいる。ヴァイザルは前衛で一番ダメージを与えられないフェデロークを援護するため左側にいる。エーラーは誰が致命傷になってもすぐ回復できる様に中心にいる。そして中心にビトがいるのは色々な意味がある。
ビトは付与魔法をメインに習得している。それと同時に通信魔法スキルと分析スキルを上げている。
分析スキルとはMobの技や体力の数値が分かる様になるスキルである。
『ヴェアリアス・フィーリング』では少しでもPCと離れると、チャットが出来なくなってしまうというルールがある。そこで通信魔法が必要である。ビトは通信魔法の初期魔法【コミュニケート】を習得した。ビトのクラスである《女教皇》や《節制》は他のPCをサポートするのに適している面がある。例えばMobの情報が分かる分析スキルやMobの位置が分かる感知スキルなどを習得するのに適している。そこでMobの情報をパーティに逐一報告できる様に中心にいるのだ。
フェデロークと対峙しているクウィアモスが【麻痺の燐粉】を出した。これは少しの間行動停止状態にする状態異常だ。フェデロークは一時的に行動停止状態になった。
『フェデローク!今回復する!』
エーラーが即座にフェデロークの状態異常を回復した。
そこにビトが【コミュニケート】を使って
『フェデロークさん、すみません。フェデロークさんと戦っているクウィアモスが体力が半分過ぎました!』
【麻痺の燐粉】を使うということはそういうことだろうとは思ったが、どうやらもう少しで倒せるようだ。ふと横を見ると、ペンドラゴンがクウィアモス1体を倒したところだった。
『ヴァイザル!一気に行く!【ファイアボール】を使ってくれ!』
『おっしゃあ!分かったぁ!!』
ヴァイザルに指示した後、すかさず【スラストインパクト】を発動した。更に数秒後【ファイアボール】がクウィアモスを直撃した。クウィアモスは耐え切れず倒れていった。
一番倒すのが遅かったのはバランドだ。その理由は、アビリティを使わないで通常攻撃しかしてないためだろう。バランドは魔力をあまり上げていない。アビリティを使うのには魔力が必要なので、バランドは節約しているのだろう。
『バランドさん、すみません。クウィアモスの体力があともう少しです。アビリティを使った方がいいと思います』
ビトが指示した。
『了解!』
バランドは上段に構え振り下ろした。大剣スキルのアビリティ【フィアスダウン】を使ったのだ。
クウィアモスは全滅した。
『よし!先に進もう!』
フェデロークは皆に言った。
この5日間フェデロークたちは、出来る限り『ヴェアリアス・フィーリング』にログインしてPCの成長に努めた。基本的には、授業を受けて、簡単なクエストをこなして、ライザ通貨を蓄えた。
まずペンドラゴンは、フェデロークに言われた通り筋力向上Ⅰ、防御力向上Ⅰ、体力向上Ⅰを中心に、次いで器用度向上Ⅰの授業を受けた。そのおかげでバランドとは違い、防御も出来るバランスのいいPCになった。その代わり、器用度が少し、低いために攻撃があたりにくいという短所もある。アビリティは【スラッシュペイン】のレベルを2に上げたのと指揮スキルのアビリティ【後衛後退】をおぼえた。【後衛後退】は後衛に控えているパーティのメンバーを強制的に後退させるが、その代わり魔法や射撃などの遠距離攻撃の届く距離を上げるアビリティだ。
このアビリティは後衛にMobの遠距離攻撃が届くのを防ぐことが出来る。
次にヴァイザルだ。彼は知力向上Ⅰ、精神力向上Ⅰ、魔力向上Ⅰを積極的に受けた。アビリティは【ファイアボール】のレベルを2に上げ、NPCの書店でアビリティ【ポイズンポンド】のテキストを買って習得した。【ポイズンポンド】は毒の沼を生み出し、そこにいる敵を毒状態にする。毒状態は、体力が少しずつ減っていく状態異常だ。【ポイズンポンド】はランクを上げていくと効果範囲が広がるので今後に期待したい。
エーラーは、ヴァイザルと同じ様に知力向上Ⅰ、精神力向上Ⅰ、魔力向上Ⅰを中心に受けた。アビリティは味方を回復させる【ヒーリング】をランク2にした。味方を蘇生させる【リヴァイヴァル】のランクは上げられなかった。必要なカードを揃えられなかったからだ。その代わり、《魔術士》の初期アビリティ【リトルアクア】のランクを2に上げ、攻撃魔法スキルの数値を上げた。これでエーラーは回復をベースに攻撃もアシストできるようになった。
一番頑張ったのはビトだ。授業は、ヴァイザルやエーラーと同じ様に知力向上Ⅰ、精神力向上Ⅰ、魔力向上1を受けた。アビリティは知力向上Ⅰを5回以上受けたことによって【インクリースアタック】を開放したので、習得し更にランクを2に上げた。もちろん【インクリースガード】もランクを2に上げた。
ビトのクラス《女教皇》と《節制》は情報支援にむいている。そこで敵や味方の体力が見られる【ライフウォッチ】と敵の能力を見られる【アナライズ】の習得をフェデロークは指示していたが、それも習得したあと、【ファインドトラップ】と【ファインドエネミー】、通信魔法の【コミュニケート】を習得した。【ファインドトラップ】は、特定範囲内に罠が仕掛けられているかを発見するアビリティだ。これにより前半部分にはトラップがないエーレ大平原はともかくトラップに引っかかりやすいザンサの森にも行けるようになった。【ファインドエネミー】は近くにいる敵を発見できるようになるアビリティだ。この3つのアビリティによりビトの情報支援能力が高まった。彼女は今、情報を分析する分析スキルやトラップなどを感知できるようになる感知スキルを伸ばしている。
バランドは指示していないがエレジアに助言してもらった通り、体力向上Ⅰ、筋力向上Ⅰを中心に授業を受けている。アビリティは以前エーレ大平原のボスMobにも使った、【ウォークライ】のランクを2に上げ、先ほど使った【フィアスダウン】を習得した。これの他に大剣スキルのアビリティをもう一つ持っているらしい。更にパッシブアビリティの【体力ボーナス】のランクを2に上げ防御面を強化しつつある。
フェデローク自身は授業は、器用度向上Ⅰ、素早さ向上Ⅰ、知力向上Ⅰ、魔力向上Ⅰをまんべんなく、習得しているところだ。アビリティ面では、【リトルウインド】をMob相手にかなり行使したところ、新しいアビリティの開放が出来た。【ランツイスター】と言って、風の刃が3連続的に向かっていく攻撃魔法スキルのアビリティだ。もちろん分種スキルは風属性魔法スキルだ。フェデロークは【ランツイスター】が開放されてからすぐに習得した。それから先程使った【ワイドカット】も新しいアビリティの一つだ。このアビリティは剣スキルを地道に伸ばしたおかげらしい。
この様にフェデロークたちは見違えるほど成長した。そのおかげでザンサの森へも入れるようになったのだ。
『皆さん、Mobが2体こっちに向かっています!』
ビトが言った。
『よっしゃぁ!もういっちょやってやるかぁ!!』
ヴァイザルが威勢良く言った。