9話
遅れてすみません。
2018年5月3日
PM11:45
エーレ大平原
『とりあえず俺が指揮する。ビトは付与魔法何取った?』
フェデロークが言った。
フェデロークたちはボスMobのいるところから少し離れた丘で作戦会議をしている。
『【インクリースガード】です。すみません』
どうやらビトは『すみません』が口癖らしい。先程から謝ってばかりいる。
『じゃあ、前衛の3人、ペンドラゴンとバランドと俺に【インクリースガード】をかけてくれ。後衛の他のメンバーは戦闘中にかけてくれればいいから』
『はい。すみません』
ビトは【インクリースガード】の詠唱を始めた。
フェデロークも【インクリーススピード】をペンドラゴンとバランドと自分自身にかけた。
『俺がまず敵のスピードを下げるアビリティ【マイナスバランス】の射程圏内まで入って詠唱する。それが終わったらペンドラゴンとバランドは敵に近づいて攻撃してくれ。バランド挑発系のアビリティは持っているな?』
『うん、大丈夫。敵に近づいてから使えばいいんだよね』
Mobは自分に一番ダメージを与えてきた相手を襲うようにプログラミングされている。そこで挑発系のアビリティが役に立つ。アビリティを使うと100%と言うわけではないがアビリティを使ったPCを襲いやすいのだ。
『ペンドラゴンはひたすら攻撃をしてくれ』
『はい、分かりました』
『俺たちが交戦し始めたらヴァイザルは俺たちの後ろから魔法攻撃、ビトは付与魔法が消失したメンバーにもう一度【インクリースガード】。エーラーは……』
『分かってるわ。体力が低くなった相手から順番に回復すればいいのね?』
『ああ、そうだ。もし俺が死んだら指揮は頼む』
『大丈夫よ、私蘇生魔法も使えるのよ』
そうだった。エーラーのサブクラス《審判》は蘇生魔法が初期アビリティで取得できるのだ。
『分かった。でも魔力が出来るだけ尽きないようにしろよ』
『分かったわ』
それからフェデロークはみんなを見回して
『この戦いは負けていい。と言うか負けるの前提だ。出来るだけ相手の攻撃パターンを覚えるのに集中してくれ!じゃあ、行くぞ!』
『了解!』『行きましょう、先輩方!』『いくぞぉ!おらぁ!!』『分かったわ』『お役に立てなかったらすみません』
フェデロークは興奮していた。負けるのが当然とはいえ、ボスに挑戦するのだ。興奮しない方が間違っている。
ボスMobはミノタウロスだった。身体が大きくこのパーティで一番大柄なバランドよりも2倍以上あった。大きな斧を持っている。2本の柱があり、それに鎖でつながれている。柱のわきは大きな岩があって、やはりミノタウロスを倒さないとここを通ることが出来ないようだ。
フェデロークは先程自分が言ったとおりミノタウロスに近づいてすぐ【マイナスバランス】を使った。
【マイナスバランス】は敵の素早さを下げることが出来る。ミノタウロスは動きが鈍くなった。そこにバランドが近づいてきて【ウォークライ】を発動した。【ウォークライ】は交渉スキルに属する挑発型のアビリティだ。これで100%とは言わないが、バランドに攻撃を集中させて来るだろう。
ペンドラゴンとバランドが斬りかかる。しかし、ミノタウロスはあまりダメージを感じさせず、斧でバランドとペンドラゴンをなぎ払った。どうやらこのミノタウロスの攻撃はあまり単体に対する攻撃方法がないようだとフェデロークは判断した。バランドの【ウォークライ】は確かに効果があったが広範囲に攻撃してくるMobのためあまり挑発アビリティは意味を成さないのだ。
一撃でペンドラゴンは、一瞬にして死亡してしまった。
『フェデローク!ペンドラゴンを蘇生させる?』
エーラーが話しかけてきた。
『いや、今蘇生させても一撃で倒されてしまう。魔力の無駄になりやすいから俺たちの回復に専念してくれ』
『分かった』
フェデロークもバランドの隣に立ちミノタウロスを攻撃し始めた。
ヴァイザルも後ろから炎系の攻撃魔法で援護していた。しかし、あまりダメージは大きくない。
ミノタウロスの動きは、単調だった。
足で前衛の二人を踏みつけて、そのあと斧でなぎ払い。時々口からブレスを吐いて後衛にも攻撃してくる。それによってヴァイザルとビトも倒れてしまった。
それにしてもとフェデロークは思った。エーラーは冷静に誰を回復させたらいいかを見極めている。バランドとフェデロークしかパーティは残っていないがエーラーは善戦していた。
そんな事をフェデロークが考えていた時だった。
ミノタウロスが両手をクロスさせ、動かなくなった。フェデロークは不思議に思った。体力が半分以下になったのかと思ったが、バランドとフェデロークだけでそんな事を出来るほど甘いMobではない。となると
『大きな攻撃が来るかもしれない、各自ガード!』
フェデロークの予想は外れた。両腕のクロスを解除すると、フェデロークたち程のミノタウロス2体呼び出したのだ。
『増えた!?』
バランドが叫んだ。
そのすぐあとにエーラーにボスのミノタウロスがブレスを吐いてエーラーが死亡した。
『……俺たちは、倒れるまで続けるぞ』
『分かった』
そのあと、ボスのミノタウロスと小さいミノタウロスに囲まれ袋叩きにされたのは言うまでもない。
*****
2018年5月3日
PM12:00
ガーランド学園ホール
フェデロークは死んで学園のホールに戻ってきた。どうやらペンドラゴンたちもフェデロークを待っていたらしくホールの中心に4人組とバランドがいた。
『……これで分かっただろ。いくら俺たちと一緒でもいきなり初心者がボスと戦うのは無理なんだ』
『…………』
ペンドラゴンたちは無言だ。自分達の無謀さを思い知ったのだろう。
『だけど成長させればあのボスとも戦えるようになる。乗りかかった舟だ。それにパーティ組んじゃったからな。俺もお前らのクエストを完了させなければ妖魔値が増えてしまう』
『フェデローク先輩!』
このゲームでは、クエストはクエストを受けたPCが完了させなければならないがそのPCがパーティを組んでしまった場合、パーティのメンバーもクエストに参加しなければならない。
『その代わり俺のクエストも協力してくれよ』
『もちろんです!これから俺たちはどうしたらいいですか?』
『授業を毎日受けるんだ。ペンドラゴンは筋力向上Ⅰと防御力向上Ⅰをメインに体力向上Ⅰと器用度向上Ⅰも受けてくれ。授業は3回しか受けられないからバランスよく受けてくれよ。それから《皇帝》の初期アビリティで攻撃系アビリティがあっただろ。それのランクを上げてくれ。出来ればランク3は欲しいけど無理だったら2でいい』
《皇帝》は戦士タイプで剣スキルと打撃スキルに適性があるが、《皇帝》をクラスに選ぶと初期アビリティとして剣スキルの分種スキル、大剣スキルの攻撃系アビリティ【スラッシュペイン】を習得できる。
『分かりました!』
『あと《戦車》は召還魔法スキルも扱えるだろ。一度クエストで召還術用の召還獣を得よう』
『召還魔法スキルですか……』
《戦車》は戦士タイプだが召還魔法スキルと使役スキルも適性がある。召還獣はクエストで手に入れることが出来る。
『ヴァイザルは攻撃魔法スキル【ファイアボール】のランクを上げて、【知力ボーナス】も習得してランクを上げといてくれ。授業は知力向上Ⅰと魔力向上Ⅰと精神力向上Ⅰを積極的に受けてくれ』
『おっしゃ!分かった!』
《悪魔》は初期アビリティで【マジシャンスタイル】にすると攻撃魔法系アビリティ【ファイアボール】を得られる。【リトルファイア】は敵の体が直接燃えるが、【ファイアボール】は火の弾が直線的に敵に当たる。
【知力ボーナス】は《隠者》のアビリティで知力スキルがボーナスで上昇する。
『エーラーは授業は知力向上Ⅰと精神力向上Ⅰと魔力向上Ⅰを中心にやってくれ。あと回復魔法スキルを上げるのと【ヒーリング】のレベルを上げて、出来れば【リヴァイヴァル】のランクを上げて蘇生魔法スキルを上げてくれ』
『難しいけどやってみるわ』
【ヒーリング】は回復魔法スキルでは一番難易度の低い回復魔法だ。
【リヴァイヴァル】は《審判》の初期アビリティで蘇生魔法スキル系統で死んだパーティメンバーを蘇らせることが出来る。
『ビトはやってもらうことが多い。【インクリースガード】以外の付与魔法を覚えてくれ。授業はヴァイザルやエーラーと同じ様に知力向上Ⅰ、魔力向上Ⅰ、精神力向上Ⅰを受けてくれ。それから出来れば【ライフウォッチ】と【アナライズ】のアビリティを習得してくれ』
『さっきはお役に立てなくてすみません。頑張ってみます!』
ビトのクラス、《女教皇》と《節制》はどちらも情報収集能力に長けている。【ライフウォッチ】は敵の体力が分かるし、【アナライズ】は敵の技と能力値が分かる。どちらもボス攻略には欠かせない。
ふと見ると、ペンドラゴンが黙ってたたずんでいた。
『どうした?ペンドラゴン』
『あ、いや、別に……』
*****
2018年5月4日
PM10:00
エーレ大平原
フェデロークたちはそれぞれに授業を受けてエーレ大平原で落ち合うことにしていた。授業を受けたあとは授業で上げられないスキルを上げるため、みんなで戦闘を繰り返すのだ。
フェデロークはみんなには言ってないが嬉しいことがあった。
剣スキルを5までのばしたことによりアクティブアビリティ【スラストインパクト】が開放したのだ。フェデロークはすぐさまカードを使って取得した。更にライザ通貨を使ってNPCが売っている細剣を買った。耐久力は少ないが、時々修理すれば大丈夫だろう。
フェデロークは今、広範囲に攻撃できるアビリティを習得しようとしている。ミノタウロスとの戦いはフェデロークにとって学ぶことが多い戦いだった。
囲まれるなら広範囲に攻撃すればいいだけのこと。フェデロークはこのゲームの中でやることが多くてしかも仲間も出来て楽しくてしょうがなかった。
ふと見ると、ペンドラゴンたち4人組がこちらに向かってきていた。
『おーい、バランドはまだかー?』
『…………』
なぜか4人とも黙っている。
『どうかしたか?』
『あの、先輩。相談があるんですけど』
ペンドラゴンが切り出した。
『クエストをキャンセルしませんか?』