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第一章 お題「宇宙人・潜水艦・竪穴式住居」


 宇宙人を研究するために行く場所が海だと言うと、いつも首をかしげられる。宇宙人を研究している、と言うだけでおかしな目で見られるのに、余計頭がおかしくなったのではと心配されることもしばしば。

 失敬な。

 僕がおかしなことを言っていると思うのなら、地球儀を買ってくることをお勧めする。僕らの住む地球という惑星は、七対三の圧倒的な割合で海が存在する。要は、陸を探すより、海を探した方が宇宙人の痕跡を発見できる可能性は高いということだ。

 他に現実的な問題もある。陸はほとんど調べ尽くされているが、海は手付かずだ。宇宙に行った人間より、深海に行った人間のほうが少ないと言うほどだ。未開の秘境とはまさしく深海なのではないかと、僕は思っている。

 偉そうなことを言っているが、結果は出ていない。宇宙人を真剣に研究するなんてことに理解を示す人はまれで、研究費は微々たるもの。そう何度も出かけられないのが現実だ。

 僕が教授として今の大学にいられるのは、いくつかの講義を持っているからで、宇宙人研究が認められているからというわけではない。与えられている研究室は、もちろん宇宙人研究のためではない。僕の講義内容である地学の研究のためである。

 しかし、中には宇宙人に興味を持ってくれる学生もいる。現在唯一の助手である彼女「海吉」。以前聞いたときは、「星に興味があって教授の研究室に来て話を聞いたら、宇宙人の研究をしたいと思っちゃったんです」と言っていた。貴重な人材である。



 「教授、外に行きたいです」

 「飯か?いいぞ、行って来い」

 時計を見ると一時だった。海吉が行くなら僕も一緒に行こうかと席を立つ。海吉はムスッとした顔で僕を睨んでいた。

 「あれ、僕なんかしたか」

 心当たりはないが、聞いてみる。すると、溜息をつかれた。

 「……はあ。なにもやってません。そうじゃなくて、研究室に籠ってないで野外調査がしたいって意味です」

 そのことか。確かに海吉が来てから、一度も海に出ていない。

 意地悪して海吉を連れて行っていないのではなく、行けないのだ、という説明は延々した記憶は新しい。ならば、そういう説明がほしいのではないのだろう。だがそれ以外の説明はできない。原因はすべてそこに収束するのだから。

 「費用の説明はこの間したよな。他になにが知りたい」

 「なにが知りたいか、ですか。そうですね……。教授はなぜ研究費を得るための努力をしないんですか」

 海吉の言った言葉を一瞬理解できなかった。

 僕が研究費を得るための努力をしていないと?

 「していないように見えるか。なら、君が思い描く努力とはどんなものなんだ」

 喧嘩になると厄介だが、威厳を保つのも教授の仕事。こちらに非はないから、なだめる程度で終わらせよう。

 「私の思う努力……。学会で発表するとかです。もっと積極的に行くべきではないでしょうか」

 「学会ね。あると思うか?宇宙人の研究に、そんなものが」

 自分でも「そんなもの」呼ばわりはどうかと思うが、今はスルーだ。

 「ないんですか。一度も外出に付き合ったことがないので知りませんでした」

 そっけなく引き下がるな。少し刺を感じるが、それもスルーだ。

 「他には」

 「他というか、方向性としては、もっとアピールが必要ではないかということです。私が見てきた限りでは、教授は一度も自分から動いたことがない。だから、資金提供の話も入ってこない。間違ってますか」

 確かに、海吉の前で能動的に動いたことはないかもしれない。だがそれは世間を舐めている。まあ、成人前の学生なら仕方がないかもしれない。

 「間違ってないよ。ただし、理由だけ。結論は訂正させてもらう」

 続きを口にしようとしたタイミングで、部屋のドアがガタガタと鳴り始めた。目を向けると、慌ただしく助手の端山が入ってきた。

 「空閑教授、出資の件で話があるって電話が!」

 打ち合わせをしたかのようなタイミング。海吉は驚いた表情で端山を見ている。

 「分かった。日取りは適当に頼む」

 端山は頷いてすぐに部屋を出て行った。

 海吉に向き直って、肩をすくめてみせる。

 「続きを話そう。資金提供の話は提供者側の問題が大きい。つまり、どんなに頼んでも駄目なときは駄目だ」

 「そうですね。でも、だからって積極的に動かない理由にはなりません」

 「それだ。僕が否定したのは結論だけだが、理由には条件がついていただろう。その条件がなければ、君の答えは0点だ」

 「私の前では、ですか。……裏ではきちんと働いていたと」

 言葉の刺が抜けないな。

 「屁理屈だが、君からすれば裏でも、僕にとっては表だ」

 海吉の顔が元の不機嫌なものに戻った。

 そんな顔をされても、こっちにだって事情がある。それも今日までで済みそうでよかった。

 「あの電話は、出資の確約を承認した、と言ってもいいようなものだ」

 僕は海吉に手を差し出して言った。

 「君の裏を、僕らの表にしたくないか」



 一番驚いているのは海吉だろう。はじめての経験だ。それに負けないほどの驚きを持って、僕と端山もそれの前に立っている。

 今回出資をしてくれた企業は、世界に名高い機械製造会社。多国籍企業で、いろいろな機械を造っている。自動車はもちろんのこと、ヘリや飛行機、船舶など、全く別の分野が共存しているユニークさが売りだ。

 海吉が僕の手を取ってから二日後の研究室で、僕、端山、海吉の三人と、社長とが向き合って話をした。提示された金額は、今までのものより0が三つ多かった。それだけでなく、船、潜水艦、その他研究用の資材の提供まで受け合ってくれた。目を回さなかったのが奇跡ではないかと思える。

 スポンサーとして付いてくれる対価は、企業製品の優先的使用、また多数開発品の使用レポートだけ。疑いたくなるような破格の条件だった。

 そして、今僕らの目の前にあるのは、僕らが乗る潜水艦。声も出せないほど大きい。そもそも、機械には詳しくないが、この潜水艦が普通よりも大きいというのは何となく分かる。

 僕らが潜水艦を見上げていると、後ろから社長が声をかけてきた。

 「空閑教授、いかがですか、この船は」

 「社長、こんにちは。お恥ずかしながら、この手のものには詳しくないのですが、素晴らしい船だというのが一目でわかります。ありがとうございます」

 (下手なお世辞ですね)海吉が小声で僕に言う。

 嘘を言うよりは何倍もいいだろう、と心の中で反論しておいた。

 「ははは、お礼は早いですよ。それは、結果を出してからです」

 僕が頷くと社長は付いて来るようにと促した。

 企業所有の埠頭にある、巨大な建造物の中に入る。ここは海上事業の本部だそうだ。

 会議室に入ると、乗組員たちが待機していた。彼らは、僕らが海に出るために乗る船・潜水艦で僕らのサポートをしてくれる。この会議室で行われるのは、航海計画の確認だ。

 大方の計画は全員が承知している。最終確認として、深海に潜る地点、かかる日数、他機器の使用法など細かいことを詰めていき、最後に乾杯で締めようという、いわば団結式だ。

 団結式が終わると、二時間後には出港する。出港すれば、一月は地面を踏めない。それを強く意識したのか、端山は舟に乗る直前、地面を一歩一歩ゆっくり踏みしめていた。

 「それでは、ご武運を」

 船に乗る直前、社長が僕らに言った。

 「はい。きっと、世紀の大発見をしてみせます」

 最後に社長と握手を交わし、僕らは船に乗り込んだ。

 「教授、フラグって知ってますか」

 船が出港して陸が見えなくなる頃、自室に戻った僕に海吉が言った。

 「戦場で、『帰ったら結婚するんだ』とか言うことか」

 僕が返事をすると、海吉は呆れたようにため息を吐いた。

 「知ってるならいいです。本人はフラグを建てている事に気づかないことも学べたので、よしとします」

 ちっともよろしくなさそうに言って、海吉は部屋を出て行った。



 二度の潜水は虚しい結果で終わり、船員たちの疑うような表情が一層濃くなった。海吉もその一人で、日に日に端山にぶつける文句がきつくなっていた。

 僕と端山は慣れたもので、結果が出ないことを当然のこととして受け止めている。発掘調査などでは長期戦が基本だ。

 今日は三度目の潜水だが、船員たちの諦めのような雰囲気が拭えない。

 調査の過程は地味だ。潜水艦で深海に潜り、ソナーとカメラでひたすら何かがないかを見るだけ。潜る場所はあらかじめ僕らが目星をつけた場所だ。

 前の二回の結果から、ルーチンを消化するように、淡々と潜水艦を操作する乗組員たちは、望みを捨てたのだろう。最初は宇宙人に関することをしきりに聞いてきたが、今は口を開くことさえ億劫なようだ。

 「教授、これ見てください」

 カメラで外を見ていた端山が振り向いて、僕に言う。

 「お、なんかあったか」

 なんの反応も示さないソナーを回りこみ、カメラを覗きこむ。そこには、昔何かで見た、建造物とも言えないような粗末な家が建っていた。

 「潜水艦止めて!端山、海吉呼んできてくれ」

 僕らの会話を聞き流していた船員たちも、さすがに何かを感じたのか、先ほどとは打って変わって騒がしくなった。

 もう一度カメラを覗くと、やはり、家が立っている。しかし、ソナーはなんの反応も示さない。

 「教授、私になにかできるんですか」

 端山が連れてきた海吉は不機嫌さを隠さず、開口一番そう言った。

 「僕か端山が判ればよかったんだが、思い出せなくてね。とりあえず、これを見てくれ」

 海吉はこちらに来てカメラを覗いた。一度首を傾げ、顔を上げてから言った。

 「私、竪穴式住居って、実物始めてみましたよ」

 僕とほとんど同時に、端山も「あっ」と声を上げた。

 「小学校、あ、いや中学校かな、最後に見たのは。理系だと、社会系の授業って疎かになっちゃうんですよね」

 三度カメラを覗き、納得する。十数年前に、日本史の教科書で見たそれだった。

 船員の一人がカメラの映像を船室に映し出してくれた。

 そこにいた全員が息を呑んだ。竪穴式住居の出口らしきところから、足が伸びた。現れたのは、全裸の人間だった。




第二章に続きます。

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