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#8

 北の神殿までは特にトラブルも無く、ヴァンパイアと遭遇する事も無く、順調な旅だった。

 アリシアの予測通りに東の神殿を出て三日目の夜には、北の神殿がある街へ到着した。


「ヤツは、この街に居るのか?」


 アリシアに問いかける。


「そう聞いてるんですが、反応が無いですね…」

「反応?GPSでも付いてるのか?」

「いえ、そういうわけではなく、勇者に随伴している天使の反応です。この近くには天使の気配がありませんし、念話にも応答しません…」


 アリシアが不安そうな顔で、そう答えた。


(何かトラブルって事か…?)


「どうする?」


 真田がポケットからアメリカンスピリッツを取り出しながら、尋ねてくる。

 伊達は、まだ火の着いていないラッキーストライクをくわえたまま、肩をすくめるジェスチャーをしている。


「とりあえず宿をとってから、情報収集するしかないかな」


 俺の提案で、いったんの行動方針が決まったので、宿へと向かう。




 宿の部屋を取った俺達は、二班に分かれて情報を収集する事にした。

 車を持ってる俺と伊達は別々の班に分かれた。何か起きた時に機動力が必要になるかもしれないからだ。

 結果、組み合わせは、俺とアリシアの班、伊達、真田、エミリーの班に分かれた。

 酒場等の人が集まる場所での情報収集は伊達達の班に任せて、俺とアリシアは街の壁に沿って歩き回る事にした。

 この世界の人間であるエミリーが居た方が、人の集まる場所での情報収集は有利だろうし、天使の気配を感じられるアリシアが街の外周に沿って歩けば、気配を感じられるかもしれないからだ。


「どう?」


 俺の問いかけに、アリシアは力無く首を左右に振る。

 街を一周したが、何も感じられなかったらしい。


「この街には居ないって事かねぇ…」


 短くなったクラブマスター スマトラを足元に落とす。


「あの…」


 アリシアが何かを訴えかけるように、声をかけてきた。

 シガリロを地面に捨てた事を咎めたいのだろうか?


「葉巻は葉っぱだけで出来てるからフィルターとか無いし、土に還るから大丈夫だよ」


 とりあえず、ありきたりな言い訳をしてみる。


「違います。この辺の魔力の気配が、少しだけ濃いような気がするんです」

「どういう事だ?」

「この世界はマナに満ちていて、魔法が一般的ですから、魔力の気配がそこらじゅうでするのはおかしくないんです。でも、この辺は少しだけ濃いような気がするんです」


 たしかに、この世界はマナが濃い。

 一般人も魔法を使う。

 それ故に、俺程度の感覚では、よく分からない。

 しかし、天使である彼女は違う。


「何か居るって事か?」

「ハッキリは言えませんが」


 左のホルスターから拳銃を抜いておく。

 拳銃を構えた右手を向けながら周囲を警戒するが、何も居ないように見える。


「上です!」


 アリシアの声に上を見上げると、右斜め前方の家の屋根の上に人影が見えた。

 暗くてよく見えないが、そいつの紅く輝く瞳と目が合った気がした。

 その瞬間、そいつは屋根から飛び降りた。


「そんなに警戒しなくてもいいですよ。あなた達は死ぬんだから」


 言いながら、そいつはこちらへ歩いて来る。

 街に設置されている街灯のおかげで、そいつが男で、黒いマントとタキシードを着ているのが分かった。

 こちらの世界の街灯の光は、元の世界の物と比べると、とても弱い。

 神殿のある街だというのに、田舎の村の夜道の様に暗い。


「ヴァンパイアか?」


 銃口をそいつの心臓辺りへ向けて、尋ねる。


「ヴァンパイア?何です、それは?私は夜の王の僕…」

「ヴァンパイアって事だな!」


 パァン!


 そいつの言葉を遮って、発砲した。

 この世界では、ヴァンパイアは夜の王と呼ばれていた。

 加えて、紅い瞳と屋根から飛び降りた身体能力。

 俺は、そいつをヴァンパイアと断定した。


「いきなり危ないですね。人が話してる時に」


 そいつは上半身を捻って、銃弾を避けたようだ。

 

(目視で弾を避けるかよ…)


 銃口の向きとトリガーを引くタイミングを見切って、銃弾を避ける技術が無いわけではない。

 しかし、それは銃の溢れた元の世界の技術だ。

 そして、仮にこの世界にも銃が存在していたとしても、暗がりで銃口の向きを正確に見切って、最小限の動きで避けるなんて、人間業では無い。


「天使の血は、実に美味だと聞く。楽しみですね」


 そいつはニヤッと笑うと、さらに近付いて来た。


「チッ」


 俺は舌打ちして、右のホルスターからも拳銃を抜いた。

 二丁拳銃は、再装填の隙が大きいため弾切れしたらアウトだが、弾幕を張るのには使える。

 目視で銃弾を避ける相手を一発一発狙って撃ってるわけにもいかない。

 両手の拳銃をそいつに向けて、撃ちまくる。


ガチャ!


 連続していた発砲音が止まり、拳銃のスライドがオープンして止まった。

 弾切れだ。

 そいつには一発も当たった様子は無かったが、さすがに後退して距離を取ってくれた。

 弾幕を張った甲斐がある。


「アリシア、乗れ!」


 俺は、右手の拳銃のスライドを戻してホルスターに収め、スマホを取り出し、アイテム一覧からセルシオを出した。

 パールホワイトのセルシオが実体化する。

 アリシアがセルシオに乗り込んでいる間に、腰のベルトのポーチから取り出した予備マガジンを左手の拳銃に装填する。


「逃がしませんよ」


 そいつが再びこちらに近付いて来ようとする。

 俺は、左手の拳銃をそいつに向けて適当に撃ちまくりながら、セルシオの運転席へ向かう。

 そいつが弾を避けている隙に運転席へ乗り込み、エンジンをかける。

 銃を撃っていない今、そいつは確実に近付いて来ているだろうが、確認せず車を発進させ、一気にアクセルを踏み込む。


 車がスピードに乗ってきたところで、バックミラーに視線をやるが、ミラーも何も調整せずに発進させたので、後ろは中途半端にしか見えない。


「アリシア、あいつは?」

「大丈夫です。だいぶ距離が離れました」


 吸血鬼と言えども、車に追い付ける程のスピードでは移動できないという事か。

 安心はできないが、当面の危機は回避できた。

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