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#41

「一人倒したからって、いい気になるんじゃねぇぞ!」


 ユキを捜して村を歩いていた俺とアリスの前に、迷彩服を着た男が立ち塞がってた。西の勇者の一人だ。その瞳は、深紅に輝いている。


「別にいい気にはなってない。元は同じ世界から来た仲間なんだから」

「仲間?笑わせるな。俺達はお前らとは違う!自分の意思で吸血鬼になったんだ!」

「何だと?自分から人間を捨てたのか…」


 男の言葉には驚いた。

 自らヴァンパイアになったという事は、西の勇者達は夜の王の側に寝返ったという意味だ。


「人間なんて弱っちい。吸血鬼の方が遥かに優れている存在だ!」


 男は両手を広げて、誇らしげに言った。

 こいつは、ヴァンパイアの力に魅せられて寝返ったのか。


「そうかな?ヴァンパイアは太陽の下を歩けないだろう?…いや、そういえば、お前達は昼間に俺達と撃ち合ってたな」

「そうさ。力の強い吸血鬼には日光も効かない!お前らより劣っている部分など無い!」


 こいつらが大天使の説明にあった一部の例外の下僕なら、かなり手強い相手だ。。

 できれば、一対一での戦闘は避けたい。


「ここで死ね!」


 迷彩服の男が、大型のサバイバルナイフを引き抜いた。


「アリス、走れ!」


 俺は叫びながら振り返ってアリスの手を取り、走り出す。

 残念ながら、宿は男を向こう側なので、仲間と合流はできそうにない。しかし、一人で相手をするにしても、ここではマズイ。村人に被害が出る可能性がある。


「逃がさねぇぞ!」


 外へと向かって走ると、村を囲んでいる木製の柵を越えたところで、頭上を飛び越され、前方に回られた。


「やれやれ」


 仕方なく、アリスを背に庇い、腰に差している刀を抜く。

 ここまで来れば、戦っても被害は少ないはずだし、塀に設置されている松明の明かりも届く。


「やっぱり、いい気になってるな?一人で吸血鬼に勝てるつもりか?しかも、刀で。良い事を教えてやる。お前らが倒した奴はな、俺達の中でも一番弱かったんだよ。あいつは素人だったからな」


 日光が効かないレベルの下僕というだけでも厄介なのに、言葉通りなら、こいつは戦闘か殺しのプロだ。


(あれをやるしかないか…)


 俺は霊力を体中に満たすイメージをしながら、アリスの方へ振り向いて言う。


「クラスのみんなには内緒だよってね」

「え…?」


 アリスは戸惑っているが、気にせず集中する。

 体を白い光が覆う。

 右手から刀にも力が流すと、刀身も白い光を纏った。

 前に訓練をしていた時、みんなには内緒で練習していた戦い方だ。

 身体能力、攻撃力、防御力が上がるが、消耗が激しいので長時間は使えない。

 戦闘準備が完了したので、数歩、前へ出る。


「何だ、それは!?」


 男は叫びながら、恐ろしい速さで突っ込んでくる。普通の人間が対応するのは難しい速度だろう。しかし、今の俺には可能だ。

 喉を狙ってナイフを突き出してきた右手を、半身になって避けると同時に、斜め下から斬り上げる。

 斬り飛ばした右手首から先は灰になり、ナイフは地面に刺さった。


「何なんだ、お前は!?」


 男はバックステップで後退すると、左手で腿の鞘から新たなナイフを抜いた。先程の物より一回り小さい両刃のものだ。右手も少しずつ再生している。

 右手の再生を待ってやる義理は無いので、一足跳びに斬りかかる。

 袈裟斬りの一撃は、ナイフで受け止められた。パワーは互角のようだ。

 しかし、刀身に霊力を纏っている刀は、ナイフを刃こぼれさせる。

 間髪入れずに、次々と斬撃を繰り出す。

 二人の間に幾筋もの光の軌跡が残像を残す。

 防ぐので精一杯になっている相手のナイフが、段々とボロボロになっていく。

 ついにはナイフが折れ、俺の刀が男の胴を薙いだ。


「ぐわぁ!」


 男に大きな隙ができた。

 刀を上段に構え、さらに霊力を込める。刀の纏った光が金色になり、輝きを増す。

 気合いと共に一気に降り下ろす。

 男は頭から真っ二つになった。

 刀身から放たれた光は、そのまま前方へと駆け抜けていく。

 男を斬り裂いた光が消えると、地面には直線に十メートル近く焼け焦げ、ブスブスと黒煙を上げていた。


「最期まで、うるさい奴だったな」


 深呼吸をして集中を解くと、体と刀に纏った光が消える。

 刀を鞘に戻し、十字を切った。

 それから、アリスの方を振り返ろうとして、止める。

 こんな戦いを見せてしまった後だ。きっと、彼女は怯えているだろう。ヴァンパイアよりも恐ろしい化け物と思われても仕方がない。


「不思議な力を使うんですね」


 アリスの声が聞こえた。意外にも、その声に怯えた様子は無い。


「怖く、ないのか…?」


 俺は振り返って、アリスの方を向く。

 彼女は首を左右に振った。


「そうか…」


 コートの内ポケットから葉巻を取り出して、火を着ける。


「戻りましょう」


 アリスはそう言うと、村の中へと向かって歩き出す。

 俺は葉巻をくわえたまま、彼女に続いた。

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