#37
街を出発した日の内には、明智達の待つ村まで戻る事はできなかった。医者を連れているため、夜通し走るわけにはいかないからだ。
「今日は、この村に泊まりましょう」
原田の容態は良くはなっていないが、悪化もしていない事は、メッセージで確認してある。
冒険者用の宿がある村をシャーリーが教えてくれたので、今晩はここに泊まる事にした。
もちろん、容態が悪化するような事があれば、すぐに出発するつもりだ。
「ちょっと散歩に行ってくるよ」
夕飯の後、伊達は散歩に出て行った。
「俺も少し出てくる」
部屋に一人で居ても仕方ないので、シャーリーに一声かけて、出かける。
冒険者用の宿があると言っても、宿に併設された酒場以外に娯楽施設も無いので、村と外を区切る塀の辺りまで歩く。
木でできた大人の腰くらいまでの高さがある塀に腰かけ、葉巻に火を着けた。
(やれやれだな…)
明智を連れ戻す目的で、この世界へ来た。しかし、ヴァンパイアとの戦いは、想像以上に過酷だった。
現状、北の勇者には負傷者二名、行方不明者一名が出ている。南の勇者は全滅。全員行方不明と思われていた西の勇者にいたってはヴァンパイアになっていた。
健在なのは、自分達だけだ。
(ん…?)
突然、塀の外側で布が擦れるような物音がした。
葉巻を捨て、塀から下りて後ろを振り向く。
目を凝らすと、そう遠くない場所に人が倒れているようだ。
「大丈夫か?」
駆け寄って声をかけてみるが、反応が無い。
仕方なく抱き起こすと、倒れていたのは女の子だった。黒いロングヘアのツインテールで、高校生くらいに見える。
どうやら、気を失っているようだ。
放って置くわけにもいかないので、宿まで背負って帰る事にした。幸い、医者を連れているので、診てもらう事ができる。
「体力を消耗して眠っているだけだ。回復魔法でもかけておけば、じきに目覚めるよ」
俺の運んで来た少女を診察してくれた医者は、そう言って自分の部屋へと戻って行った。
少女を寝かしているのは、俺のベッドだ。本当は、女性であるシャーリーと同じ部屋に寝かせたいところだが、シャーリーの部屋にはベッドが一つしかない。
「おやすみなさい」
人助けは神官の務めだからと、快く少女に回復魔法をかけてくれたシャーリーも、自室へと戻って行った。
「この子、どうするの?」
治療が終わるまで黙っていた伊達が口を開いた。
「目が覚めたら帰るでしょ」
少女の方に目を向けながら答える。
目が覚めたら、家へ帰るなりするはずだ。
「俺は車で寝るから、何かあったら起こして」
そう言うと、伊達が部屋から出て行こうとした。
「いや、俺が車で寝るよ。この子は俺が連れて来たんだから」
「お前が連れて来たんだから、お前が部屋に居て面倒を見ろよ。じゃあね」
俺の反論に面倒臭そうに返すと、伊達は出て行ってしまった。
仕方なく、伊達が寝るはずだったベッドに横になる。
万が一の時、すぐに動けるように、照明の蝋燭は消さないままで。




