#36
結局、二階に居た奴は窓を破って庭に降りると、馬車を攻撃していた二人とともに逃げてしまったそうだ。
伊達と真田から聞いた話だ。
原田だけでなく、島津も撃たれていたので、当然の事ながら追撃するわけにもいかなかった。
島津が撃たれてからは、本田が島津の銃を使って応戦していたらしい。
俺達は、原田と島津の手当てのため、銃撃戦をしたのとは別の家に避難した。馬車は穴だらけで使い物にならなかったからだ。もちろん、馬も撃たれていた。
神官達が二人を手当てしている間、俺と伊達は馬車の周囲を回って松永を探したが、どこにも見当たらなかった。
「回復魔法で傷は塞ぎましたが、出血が多かったので、まだ油断はできません。特に、ハラダさんは…」
二階の寝室で治療に当たっていた神官達が、俺達の居る一階の食堂へと降りてきた。
シャーリーが代表して、二人の容態を教えてくれたのだが、左肩と左腕に被弾した島津はともかく、腹を撃たれていた原田に関しては命の保障はできないという事だった。
「そうか…。ありがとう」
伊達がシャーリー達に労いの言葉をかけた。
「お疲れ様」
神官達にお茶を差し出す。
「ありがとうございます…」
いつも元気なエミリーも表情が曇っていた。
今、食堂に居るのは、俺達五人だけだ。
明智、真田、本田の三人は、二階から見張りをしている。
「今から車でぶっ飛ばして、医者の居る街か村までどのくらいかかる?」
伊達が苛立たしげに尋ねてきた。気が立っているのだろう。灰皿に吸い殻の山ができている。
「思いっきりぶっ飛ばしたとしても、丸一日はかかるだろうな…」
「それに、今、ハラダさんを移動させるのは危険です」
シャーリーが俺の答えを補足してくれた。
「医者の方を連れて来るか?」
「そんなの無理ですよ」
ユキが俺の提案を却下した。
「いや、それアリかもしれない。『勇者の一人が大ケガした』って神官が説明すれば、来てくれる医者も居るんじゃないの?」
伊達が食い下がる。
「そうだな。こっちの守りも必要だから、運転要員は最低の二人。速く走らせるのが得意な俺と伊達だな。神官は誰を連れて行く?」
「私が行きましょう。私なら詳しい容態を説明できますし」
シャーリーが立候補してくれた。
「決まりだな」
「明智達に伝えてくる」
伊達は吸いかけの煙草を揉み消して、二階へと向かった。
俺、伊達、シャーリーを乗せた車は、夜道を南へと向かっていた。
スピードが命のため、車はセルシオだ。
念のため、ショットガンと弾を本田に渡して来た。
「次の分かれ道を右です」
「了解」
助手席のシャーリーのナビに従って進む。スピードは百キロ近く出ている。さすがにそれ以上出すと、路面が悪いため危険だ。
「次は左側へ」
「分かった」
伊達は、運転の交代要員なので後部座席で休んでいる。このスピードでは眠れているか微妙だが。
車の時計で三時間程進んだところで、伊達と運転を交代した。
伊達もかなり飛ばしているが、俺は戦闘と運転の疲れで、すぐに眠ってしまった。
予定より早く、その日の深夜のうちに街へ辿り着いた。俺達は通っていない街だが、山岳地帯から最も近い街へシャーリーが案内してくれた。
村ではなく街を目指したのは、山岳地帯の近くには医者が居ない村が多いからだ。
「医者を探そう」
「待ってください!この時間に起きている医者は居ません!」
伊達にシャーリーが反論する。
たしかに、この世界には救急病院なんて無さそうだ。
「深夜に押し掛けても、診療になど来てはもらえません。朝になるのを待って訪ねましょう」
俺達はシャーリーの提案に従い、今夜は宿に泊まる事にした。明日も運転があるからだ。
翌朝、シャーリーの説得で医者を連れ出す事に成功した俺達は、昨日の半分程のスピードで引き返していた。車での移動になれているシャーリーはともかく、初めて車に乗る医者のためだ。八十キロも出せば騒ぎたてる。恰幅の良い中年で良い人なのだが、これには困った。
車もアルファードに替えていた。




