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#30

 翌々日、俺達は村人達に見送られながら山岳地帯へ向けて出発した。

 村長の娘は、伊達に何かを渡すと走り去ってしまったが。


「伊達さぁ、さっき、あの子から何を貰ったの?」


 真田がニヤニヤしながら、伊達に訊く。

 今はアルファードで移動中だ。真田は助手席、伊達は運転席、俺と明智は二列目のシート、三列目に神官達が座っている。


「お菓子を焼いてくれたんだって。あと、お守り」


 伊達は、左手首に巻いている革のブレスレットを見せた。


「良かったな!モテモテじゃん」


 明智が煙管をくわえたまま冷やかした。


「良いのかねぇ…。ヴァンパイアを退治したら俺達は元の世界へ帰るわけだし…」


 伊達は複雑そうだ。


「そういえば、原田チームは本当に追いかけて来てるの?」


 俺は、ビリガーエクスポート マデューロの包み紙を剥きながら、明智に尋ねた。


「来てるはずだよ」


 明智はちらっと窓の外を見てから答えた。

 原田達は、馬車で俺達を追って来ている。

 俺達が出発する事を昨日伝えたら、彼女達も同行すると言い出したのだ。


「敵の本拠地に乗り込むんだから、数は多い方が良いけどさ、彼らは大丈夫なの?」


 真田が心配そうに言うのももっともで、原田と本田はともかく、島津と松永は微妙だ。

 島津は射撃こそ良くなったが、格闘戦はダメだ。明智が教えた空手も人間相手の護身用に使えるかどうかというところ。

 松永は訓練には参加していなかったので未知数だが、前回の戦闘を考えると島津より期待できないだろう。


「ま、自分の身は、自分で守ってもらうしかないよねぇ」


 伊達の言う通りだ。


「ええ~!そんなぁ~…」


 後ろからエミリーの嘆きが聞こえてくる。


「何言ってるの?神官が勇者様に守ってもらうつもり?」


 シャーリーがエミリーを叱っている。


「まぁ、エミリーちゃんはできるだけ守るから」


 真田が宥めるように言う。


「ホントですか!ありがとうございます!」


 喜ぶエミリーを溜め息を吐きながら見ているシャーリーが、バックミラーに写っていた。


「シャーリーの事も守るから、大丈夫だよ」


 俺が葉巻に火を着けながらかけた言葉に、返答は無かった。




 村から半日走ったところで日が暮れたので、今日は野営する事にした。

 俺達は車だからまだ進めるが、馬車はそうもいかないだろう。

 明智のバンも呼び出し、そちらを女性陣の寝床にする。

 俺達はアルファード、本田達は馬車だ。


「荒野で焚き火してると、西部劇のガンマンになった気分だな」

「お前だけな」


 俺が葉巻に火を着けながら言った言葉に、伊達のツッコミが入った。


「俺は帝国陸軍の気分だな」


 明智がニコニコしながら言う。


「それは軍服着てるからだろう」


 真田が明智にツッコむ。


「夜の王の居城へ向かっているというのに、随分と楽しそうですね」


 シャーリーはご機嫌斜めな感じだ。


「これでも飲みなよ」


 シャーリーに紅茶を勧める。


「いただきます」


 一口飲んだ彼女の表情が僅かに弛んだ。

 彼女は俺達の世界の紅茶が気に入っているらしく、勧めれば必ず受け取る。

 自分から欲しがってこないのは、彼女の固い性格故だろう。


「僕にもください!」


 エミリーが出してきた手に紅茶が入ったカップを渡す。

 シャーリーとは対照的だ。


「夕飯はどうしますか?」


 こちらに近付いて来た原田が声をかけてくる。


「そりゃあ、KOBが居るんだから、バーベキューでしょ」

「何だそれ?」


 俺の発言に、真田が疑問を投げ掛ける。明智と原田も首を傾げている。


「キングオブバーベキューの略だよ。伊達の称号」

「称号じゃねぇし!」


 伊達からツッコまれた。

 キングオブバーベキューというのは、伊達がレゲエバンドでベースを弾いていた頃に、バンドメンバーから付けられたあだ名だ。

 よくバンドメンバーでバーベキューをやっていたと聞いている。

 バーベキューの火にジッポーオイルをかけようとして、火だるまになったメンバーも居たとか。彼のあだ名はファイアマン。

 演奏のプレイスタイルではなく、バーベキュー中の行動からあだ名が付くバンドだ。

 俺もライブを聴きに行った事があるが、演奏のレベルは高かった。

 伊達に頼まれて機材の運搬とか手伝った事もあるので、バンドメンバーとは顔見知りだ。


「という訳で、キングオブバーベキューがバーベキューを用意してくれます」


 俺がそう言うと、伊達は溜め息を吐きながらバーベキューの準備を始めた。

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