これは……
すみません。あんまり長くないです。
椎名さんが経営している美容院から歩いて5分の所にある地下の小さなコンサート会場。そこに私と椎名さんがいた。
「ちょっとギターの腕落ちちゃったね。気にするほどじゃないけど」
「個人的にはしばらく練習をしたいです」
「嬉しいことを言ってくれるじゃない」
現在8時30分
速足で帰れば9時には家に着くだろう。
「1年ぶりに復活するので枠をくれますか?」
「オッケーに決まってるじゃない。元々薫ちゃんがいたからここまで有名になったのよ」
「そうだったら嬉しいです」
1年ほど前、色々な伝手をたどってなるべく早くお金が稼げるところを紹介してもらったのがここだ。ここは椎名さんが半分趣味、半分副業で運営していて当時は本当に椎名さんの趣味のためだけにあった場所だった。
当時の私は中3の後半に無駄にある道場の維持費を稼ぐために駅前で宣伝したり、路上ライブをしてみたりとひたすらバイトをしていた。
そのおかげで毎日のようにお客さんが来てたし、たまにレコーディング会社の人も来ていた。12曲入っているアルバムを出させてもらうことになったりもした。売り上げはそこそこ。やっぱり名が売れてないらしい。
弟はサッカーで全国まで行くような将来の可能性あふれる奴だったので弟にばれないようにやっていた。ギターは椎名さんの所に置かせてもらいっていたのでいまだに弟にばれてはいないが帰ってくるのが遅いとかでよく怪しまれた。
努力の効果があったのか忙しくも充実していた毎日だった。
私にも中学生活があったので歌ったのは約半年間だろう。
高校受験は前世の記憶でカバー出来た。主席ではなかったけど。
「この頃生活も安定してますし、椎名さんへ恩を返すためにもまた歌わせていただきますよ」
「恩はすでに返してもらってるけど、私的には薫ちゃんの歌が生で聞けるっているのは嬉しいことだからいいんだけどね」
「半分私の趣味、半分生活費稼ぎで頑張りますよ」
「3週間後にはあるからそこでいいかな?まだ薫ちゃんはうちの看板なんだから」
「ありがとうございます、椎名さん。我が儘な『夜夏』の復活ですよ」
『夜夏』単純に苗字と名前の頭文字を取った名前。
ちょっとだけ有名なんだぞ?本当どうか知らないけど。
翌日屋上。
今日も結衣は新堂とご飯らしい。メールではライバル出現とか言ってた。本気でハーレムになっていきそうだ。
そして一哉と一緒に飯を食べているのだがどこか浮かれているような顔をしている。
「どうしたんだ?周りの女子からはいつも以上にキモイと言われている一哉君」
「昨日お袋から嬉しいことを聞いてさ。三週間後が楽しみ過ぎんだよ」
…………なにか聞いてはいけないことを聞いた気が………
「まさかとは思うがお前の母親の名前は椎名と言う名前で40代なのに20代にしか見えなかったりしないよな?」
「ん?お袋の知り合いか?髪型が変わってるし」
「嗚呼、中3の頃にバイトを紹介してもらって親しくなった人だ」
うん、これは嘘じゃない。
「じゃあこの曲って知ってるか?」
一哉がポケットから出した小型のMP3プレイヤーを出して大きめの音量で流す。
……確か、アルバムに入ってた曲。
「俺、これ歌ってる人に憧れててさ、中3の時親父が死んですっげー荒れててさ、この人の曲で励まされたってってゆうの?とにかく、いい歌うたう人でその人が1年ぶりにまた歌うって言うんだよ。CDだけじゃ物足りなかったからな。あ、歌ってる人は――」
「『夜夏』」
不思議と私の口から何故か出てきた言葉。
何故出てきたのかは分からない。
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