起きてしまった
愚だ愚だ満載の14話目です。
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ありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
私の頭の中はさっきのキスのことでいっぱいだった。
ラップ越し、とはいえだ。
それに対して表面だけでも冷静でいるように見せないとなんだが今までの自分が壊れてしまいそうだったから。
自分の中で何かが渦巻いていた。
何かを求める様な、恋しい様な、何かも分からない気持ちが。
この気持ちも露天風呂でゆっくりしていれば晴れるだろうと思い、少し足早に向かった。
大浴場は男女で別れているのだが露天風呂は混浴。
だが、入るのは男女別に時間制で区切っているらしい。
まあ、そんなことを気にせず入れるのだ。
広いお風呂に自分一人。さらに言えばここは山の中で活火山が近くにあり、とても有名な地域だという。そこに外の風景を見ながらのんびりできるのだ。
ちょっと嬉しい気分になる。
脱衣所で服を脱ぎ、ハンドタオルを持ち、湯船の近くへ行き何度か桶を使い体を温める。
髪と体を洗い、ようやく湯船に向かう。
温泉に入るのに邪魔な長い髪を持ち上げ、首より上になるようにまとめる。
湯船に入ればゆったりとしたいい気持ちになる。
都会とは違う澄んだ空気で星も綺麗だ。
普通のお風呂より温度の高いのがさらに自分の好みを引き立てた。
そんな景色を堪能し、しばらくすると温泉と脱衣所をつなぐ扉が開いた。
「いい景色だな」
一糸纏わぬ、ではなく腰にタオルを巻いた一哉がいた。
こちらに視線を向けた一哉と目線があった。
……思わず体がフリーズした。
以上に恥ずかしかった。
なんでここにいるんだ!と声を大にして叫びたかった。
恥ずかしさのあまり顔から熱が出そうだ。
「……これは幻覚だ。俺の欲望を出した幻覚なのか。―――そうだこれは夢だ!」
ぶつぶつ言い始めたと思えば急に大声を出した。
大声の所しか分からなかったが。
「残念ながらこれは現実だ」
「はっはっは。そんなことでは騙されんぞ幻覚!」
「現実逃避はやめろ。そして向こう側を見ていてくれ。こっちにはハンドタオルと腕しかないんだ」
……一哉はこっちを凝視しながら頬をつねった。
私はタオルと腕で体を隠しながら一哉の元へ行き、
「見るなと言っていr――きゃぁぁぁ!」
「うおっ!?」
亡き父直伝の蹴りを放とうとするも失敗して転んでしまう。
一哉の頭を蹴って気絶させるつもりが失敗してしまい、自分で自分の足を蹴って自分で転んでしまう。
それと連動して一哉の胸に飛び込むように転んだ。
「いつつ、ってわぁ!?」
一哉が起き上がろうとするもその上には私。
「さっきの拍子でタオルを離してしまったようだ、す、すまない。目をつぶっててくれ」
「わわわわわわわわわ、わるい!」
頭の中がこんがらがりながらもなんとかちゃんとした言葉を言う。
それに一哉も従ってくれて目を閉じる。
「きゃっ!?」
起き上がろうとするのだが、力が入らない。
失敗して少し持ち上がった体がまた落ちてしまう。
「大丈夫か!?」
その声に反応して一哉が目を開けるも……数秒思いっきり見て目をつむった。
それから無言が少し続いた。
「すまないが起こしてくれ。体に力が入らないんだ」
「えっ!」
四苦八苦しながらも起こしてもらい、岩に背を預け体温を下げていた。
おそらくさっきのでのぼせた。
一哉は私に背を向けて湯船につかっていた。
「さっきは、わ、悪かったなその、見ちまって」
「………私もさすがに気にしないでくれとは言えない」
気まずい空気が流れる。
「だが、私が一方的に慌てて動いてしまった結果なんだ。変なものを見せてすまなかった」
「いや、綺麗だった!」
…一瞬何を言われたのが分からなかった。
目が点になるとはこのことなのだろう。
「なんというんだ、そのありがとう」
「へ、変なこと言ってすまん」
なんだかこいつも主人公みたいだ。
ちょっと人と混ざり合うのが苦手なだけの。
孤高の主人公。
妙にそのニュアンスが似合って笑ってしまう。
「な、なんだ急に笑って」
「すまない。ちょっとふとしたことを思ってしまってな。気にしないでくれ」
そしてまた沈黙が来る。
何分もこんな空気が流れる。
もうすぐ日が昇ってくるかもしれないとさえ思ってしまう。
ふと冷めてきた体を温めなおすようにもう一度温泉に入った。
「星、綺麗だな」
「そうだな。綺麗だ」
ふと一哉の方に視線を合わせてみれば大きな背中が見えた。
……自分の前世の姿はこんなに背中は広くなかっただろうと思う。
そんなことを思った数分後には一哉が先に風呂から出てった。「私の来ていた服があるからって興奮するなよ」とおふざけでいいつつも湯船に映る自分の顔が笑っていた。
感想、ありがとうございます。
こういう雰囲気を書くときが苦手でござる。
それでは次回も頑張ります。とうとう遊園地がかける……




