北の大罪人
本当にすいません。やっと7話投稿です。もし読んでくださる方がまだ残っていましたら感謝感激です。
誓歴2305年十月十五日
既にそこでは戦争が始まっていた。
「出て行け!ここはお前らの来て良い場所じゃねぇ!」
既に八個の村を回ったが全てこうだ。追い出され、いい加減兵士の士気も下がってきている。
「・・・仕方ない。全員殺せ。だが女子供は殺さず、俺の元に集めろ。死体もだ。」
一方的な虐殺だった。当然だ。こちらは武装しているが農民に武器など無い。次々と男どもが殺され、村は悲鳴に満ちた。兵士は血と悲鳴に興奮して、人殺しを楽しんでいる。これでしばらく離反者も出ないだろう。
虐殺は直ぐに終わった。もともと大きな村ではなかったのもあるが、男は皆俺達を帰らせるために集まっていたのだ。
村の広場に女や子供そして男の死体を集め、それを兵士が取り囲んでいる。
「よし、子供は縄で手と首を縛れ、女はお前らで楽しんだ後殺せ。」
「人でなし!」
少女が俺に叫んだ。直ぐに兵士に蹴り飛ばされたがそれでも尚言い続けた。
「人でなし!あんた達だって故郷があって家族があるんじゃないのか?」
「ガキが!うるせいんだよ。」
また蹴り飛ばされた。それなのにまだ続ける。
「おい!いい加減に」
「よせ、もう良い。お前も他の奴らもみたいに楽しんでこい。」
俺は少女に歩み寄り、その顔をこちらに向けた。
「俺が憎い。そうだな?」
「当たり前だ!お前ら帝国は」
「そうか、それは結構だ。だがな俺はバルセリナ人だ。」
それはこの小さな体には耐えられない真実かも知れない。だが世界は残酷で、正気でいられないような試練を何度もぶつけてくる。
「嘘だ!そんなの嘘だ!バルセリナ人はこんな」
「こんな事しない?どうしてそう言える?お前はバルセリナ軍が他国の村を訪れたところを見た事があるのか?無いだろう。ある訳が無い。」
「嘘だ。嘘だ。嘘だ!」
「残念だがそれが事実だ。見ろ、あの獣と化した男どもを。かつてはお前の父親とてああだった事がある。お前はその間で生まれた子供かも知れない?自分の出生なんか分からない物だぞ。」
「嫌だ。言うわないで、そんなの嫌、嫌だ。」
俺はそこで少女から興味を無くした。
やはり耐えられなかったか、俺は・・・
自分の頬を液体が流れている。
なんだ、まだ人らしい感情なんか残っていたんだな。悲しい。そうだな、それよりも虚しいよ。
誓歴2305年十月十五日、既に北の地では冬に入りつつあった。
誓歴2305年十月二十日
俺達の隊は遂に北の大都市サルマトレに着いた。だが既に城門は固く閉ざされ、外壁には兵士が並んでいる。隊長が読んだ通りだ。
「予想通りですね隊長。」
「ああ、そうだな。・・・よし、バルス、お前の隊は東門に向かえ。」
「了解です。」
俺達は今まで通ってきた村をいくつか焼き払ってきたが、ただ焼き払った訳では無い。男は殺して首のみを運び、女は犯してから殺した。子供は大半を奴隷商人に売り、残りは雑用を強要させている。
俺は部下十人と子供一人、それに物資を運ぶための荷車を連れて東門から続く街道の茂みに身を潜めた。もちろん子供は両手両足を縛り猿ぐつわを噛ませている。これから行う都市攻略に必要な事なのだ。
しばらくしてこれも隊長の予想通り、商人の荷馬車が街道を進んで都市へ向かってきた。戦争となれば物資は不足しがちになる。だがそこにつけ込んで、危険な都市に足を運び、通常より高い値段で売りつける商人というのが居るのだ。もちろん危険地帯に向かうのだから護衛も雇っている。だが豪商でも無い限り雇えるのは十人程度が限界だ。武器の質が良く、奇襲できる場所を知っていれば簡単に護衛を蹴散らせる。前者については帝国軍が帝国の威信をかけた組織だと知ってもらえれば良い。問題は後者だが、隊長はここ周辺の出身らしく、最適な場所を指示してくれた。
「全員気を引き締めろ。最初の奇襲が肝心なんだからな。」
さぁて以上の点から護衛七人のうち、三人が奇襲で死亡、二名が重傷。次の瞬間には七つの死体と細身の商人だけが残った。
「い、いぃ、命だけは!命だけは!」
そんな命乞いをしている間に、積み込まれていた食料を荷車に移し、代わりにある品物を荷馬車に積み込んだ。
「おい!商人」
「はぁ、はぃ」
俺は連れてきた子供を商人に押し倒した。
「そいつを連れてさっさと都市に行け。命は助けてやる。」
「あ、ありがとうございます。」
商人は直ぐに荷馬車を全速力で走らせて都市に入った。警戒中というだけで、商人ならば都市には入れるだろう。
「よし、撤収する。急げ!」
準備をする部下を見ながらバルスは悪人面で笑いを抑え続けた。商人が都市に入り、荷馬車の中身を確認した時の顔を想像すると笑いが抑えられない。
ふふふ、これであの都市は落ちたも同然・・・
数十分後、サルマトレ東検問所で検問された荷馬車の積み荷は帝国旗だった。だが何かに被せられており、帝国旗を捲るとそこにはほとんどが腐り、所々白骨が見えているいくつもの生首が置かれていた。検問官の何人かが床を汚すほどの光景を何の感情も無く見ている者がいた。子供だ。その目には既に感情という物が無く。それこそが帝国の冷酷さをどんな語り手よりも生々しく物語っていた。この話しはたちまち都市中に広まり、市民は恐怖に怯え、その結果反戦が市民全員の意見となり、生首と共に運ばれてきた降伏勧告を都市は受け入れざるを得なかった。
本作も随分とグロドロしてきましたね。今後ともよろしくお願いします。