新たな力
レイネルドが新たな臣下を手に入れた頃、西の大国では・・・
「ドゥラーデン議長、主だった将校の招集完了しました。」
「ありがとう。今行く」
ラングート最高議会会堂の会議室に四人の男が招集されていた。
エーテ代表、ファナム・バルセス大将
ガマルゲネフ代表、バイダン・サーデ少将
ハルース代表、アイオス・ディック准将
サミニオン代表、カタス・レムデール少将
彼らはそれぞれ軍閥の代表である。この国には軍隊が四つあると言うことだ。もちろん言葉通りの意味では無く、正確に言うとエーテは魔獣や歩兵を大量に要するいわゆる陸軍であり、ガマルゲネフは国境の警備等、主に防衛を行う軍であり、同時に敵国に最初に乗り込む騎兵主体の軍で、海兵隊などと呼ばれる。ハルースは完全な海軍。サミニオンは正確には軍と言うよりも諜報部という方が良いかもしれない。少数精鋭の四人一組ほどで構成される部隊をいくつか要している。
「それで、議長殿が我々に何のようですか?」
最初に口を開いたのは最年長五十歳で一番体格の良い男、ファナムだ。
「諸君に集まって貰ったのは他でも無い。ラインペッツとの戦争についてだ。」
私の口調が既に戦争を決定事項としている点に将校達は驚いたがけっして怯えてはいない。
「それならば我々サミニオンにお任せください。宣戦布告するにしても敵国の内情を知る必要があります。」
「いや、帝国は強い。特にバルセリナ戦役中期に投入されたギガースのガーゴイルシリーズは予想された帝国の被害を五分の一にしてしまった程の代物だからな。下手に密偵を送って工作をするよりも早期に攻め込んで敵の意表を突く方が良いと思われるが」
血の気の多いガマルゲネフらしい意見だ。だが実際のところギガースに対抗できる兵器がこちらにないのは確かだ。魔導砲の一撃はチャージに時間が掛かるために容易に防御術式を発動されてしまう。兵士が何千人と群がってなんとか一体倒せるかどうか、しかもそれでとりついた兵士の八割は死ぬと思わなければならない。
「正直バルセリナでギガースを単独で倒したという男が欲しいですね。」
「まったくだ。今の我々に講じれる策はせいぜい魔導砲のチャージを短くすることくらいだからな。」
どうやらカタスもファナムも乗り気では無いようだ。
「議長、一つ提案があります。我が軍内で大艦巨砲の思想を主軸とした艦隊を編成する計画が進められていたのですが、それに使われた技術を転用して魔獣に巨大な魔導砲を搭載してギガースに対抗するというのはどうでしょうか?」
「なるほど、確かにそれは有効かもしれないな。君たちはどうだ。」
他の将校を見ると一様に賛成のようだ。
「では決まりだな。よろしい我が国の技術を結集したその巨大魔導砲による重火力戦法でこの戦争を始める事とする。」
全員が立ち上がり
「我らに平和を!」
名目上の儀式を終わらせた。
さらに同時刻
遂にここまで来た。これから戦争が始まる。
「レイ、あぁ私の愛しい人。あなたとの約束守れそうよ。フフフ」
与えられた一室で一人微笑む少女にいつもの可憐さはなく、ただ妖艶な雰囲気を醸し出す女が居るだけだった。
彼女はレイとあったことがあるのだ。
「とりあえず、第一段階は終了という所ね。」
そこでドアがノックされた。
「は、はいどうぞ」
見事な豹変ぶりである。
客人は見知らぬメイドだった。いやメイドの服を着ているが帯刀している上に身のこなしがただ者ではない。
「何のようかしら」
「ガーデリス様より、あなた様の護衛に付くように命じられたベリオットです。」
ガーデリスの奴、私に監視を付ける気?
「分かったわ。これから中庭に行くけど一緒に行く?」
「いえ、この城内では護衛は必要ございませんから」
「そう、なら良いわ」
私は中庭に出て一人、花々を眺めた。
いやぁーねえ、一人の乙女に何人も監視を付けるなんて
バルセリナという国は元々弱小国家である。故に、他国の有力貴族と王族の娘が結ばれることでなんとか今日まで生き残ってきたのだ。それが変わったのはわずかに百年前、本来魔力を体内から表に出すためには相応の訓練が必要だった。その常識をバルセリナが生んだ天才鍛冶屋レイナード・ベリッチが打ち崩したのだ。
彼は刀剣に使われていた鉄に魔力を吸収して、帯びる鉱石レイベルライトを配合して刀剣を製造する方法を確立し、訓練をせずとも魔法と同等威力の斬撃を一般兵に使用できるようにしたのだ。この技術革新以降、バルセリナはわずか百年で大国にまでのし上がる事になる。
しかし元々、王女に身売りをさせることで生き延びた国故に王女への教育は他国と一線を介した。彼女が今のように豹変できるのもこの教育のたまものである。そしてその教育の中には諜報活動も存在する。だから彼女には監視を見抜くことも、逆に観察することも、暗殺することもできるのだ。
「とはいえ、困ったわね。これじゃまるで身動きが取れないわ。」
彼女は今信用できる部下を欲していた。
そのままいくらか思案していると一つの案が思い浮かんだ。
「よし思い立ったが吉日ね。」
それから数十分後、彼女は少数の信頼できる兵士を伴って城下町へと赴き、腕の立つ者が集まると噂の酒場に向かった。
「この中に将軍になりたい者はいない?」
酒場に入るなり彼女はそう叫んだ。
もちろん客達の注目が彼女に注がれる。そしてその後ろに控えている兵士達にも
しばらくして客の内何人かが立ち上がり、彼女に近づいてきた。
「ここの二階を借りるとしようかしら。」
二階に上がり、他の客が雰囲気を読んで下に下りると彼女は切り出した。
「貴方たちの中から優秀な者を二名選ぶから、まずは貴方たちの武勇を見せて頂戴」
一瞬後、乱闘が始まった。途中で諦めて下の階に下りる者、武器を捨てて部屋の隅に逃げ込む者、殴られて気を失う者。死者が出なかったのは奇跡と言える。
四人までに絞られた所で私が乱闘を終わらせた。
「良いわ、次に貴方たちがどれくらい切れるか教えて貰うわ。」
二階の奥にある空き部屋に入り、一人一人と会話をする事に私はした。
それで私の目にとまった二人は、驚くべき事に両方とも女性だったのだ。
金髪で灰色の目の方はエヴェリーナ、彼女はファルシオンと呼ばれる非常に頑丈な片刃の刀を得物としていた。
もう一人は茶髪に琥珀色の瞳でシビルと言う少女だ。武器はメイス、信じられないが彼女はそれを両手ではあるが軽々と振り回している。
そして彼女たちの共通点は傭兵として各地を回り、小規模ではあるが部隊長を務めたことがあるという事だ。さしあたり大軍を指揮する能力では無く個人の武勇が必要だが、先の事を考えると、彼女たちが手に入ったのは非常に幸運だった。
少し時間をさかのぼり、バルセリナ領総督府のギガース整備場
「ガーデリス陛下。陛下のMK.Ⅷの整備完了いたしました。既に魔導師十名も搭乗しております。試運転ですので武装は外しておりますのでお気をつけください」
ガーデリスは未だに皇子の身分だが部下達が誰とも無く陛下と呼び出し、勝てばどうせそう呼ぶことに成るならばと彼も特に咎めなかった。
「ああ、分かった。確か魔導師は新しく優れた者を選抜したのだったな。」
「はい。中にはバルセリナ人もおりますがここ数年の陛下の安定した治世に感銘したようで、忠誠心は十分かと」
「良し、直ぐに出る。新型の性能とやらを確認させて貰おう。」
ギガースのコクピットには十個のベッドと一つの椅子が置かれており、椅子の前にはチカチカと幾つものランプやボタンが点滅する操作盤が置かれている。
ベッドに魔力を供給する魔導師が寝転び、椅子に操縦者が座る。
俺は操作盤をいじり、機体を進ませた。城下町から出てしばらく進んだ場所で一気に跳躍し、衝撃吸収能力と跳躍力を確認する。
着地したのは約三キロの地点だった。衝撃はほとんど無い。ただ少しバランスを取るのが難しい。さらに走る。関節に問題は無い。
「すごい・・・」
思わず感嘆が出るほどにこの機体の性能は良かった。
三十分の試運転は期待以上の物をガーデリスに与えたのだ。
随分と間が開いてしまいましたがなんとか二週間掛からずにすみました。
これからも頑張ります。