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英雄決主

誓歴2305年9月30日

夜風が俺の気分を落ち着かせてくれる。

今、俺の配属された部隊は本隊から離れ、要塞の跡地に野営していた。

「バルスさ~ん。百兵長が呼んでるで」

「わかった直ぐ行く。」

俺の上司はかなり若いが覇気に漲っている。要塞の壊れかけの塔から、下にある大きめのテントに入ると既に他の十人が集まっていた。

「よし始めよう。まず今回、我々が本隊と別行動するわけを説明しておく」

そういってここ一帯の大まかな地図を中央にある縦九十センチ、横六十センチの机に広げた。

「我々はこれよりこの峡谷を越え、バルセリナ領北部に向かう。北部に駐屯し、反乱を抑制する役目を担うことになった。むろん危険な任務であり、最悪我々が反乱の鎮圧をおこなわなくてはならない。」

ゴクリと何人かが鍔を飲み込んだ。

この任務はあまりに無謀すぎる。まさかこの隊長、上層部に不興を買ったのか。

「だが、まぁ心配しなくて良い。俺がこの任務を託されたのは皇女殿下直々の命だからな」

「隊長、俺はあんたの能力が非凡だとは思うし、命を預けるに値する上司だ。だが、今のはいったいどういう事だ。」

全員が若い百兵長を見つめている。こちらは少したじろいでさえ居るのに、まったくもって揺らいでいない。ただしばらく俺達一人一人を見つめていた。

「良いだろう。この任務の成功のためにもお互い隠し事はなしだ。」

なんとも形容しがたい恐怖のような感覚が全身を襲い、体の自由を奪っていく

「俺はバルセリナ人だ。帝国軍に村を焼かれ、両親を殺された。難民となって逃げる途中に兄弟を盗賊に殺され、今や天涯孤独の身だ。」

強烈な自己嫌悪に襲われた。目の前にいる人一人の生涯をメチャクチャにしたのは自分の祖国なのだ。

「まぁ、だからといってお前達を責める気は無い。それに今の俺は皇女殿下の数少ない頼れる駒の一個だ。とりあえずは俺に付いてこい。この先の事は俺に付いてこれる奴だけに教えてやる。」

思えば、この時芽生えた感情が俺の人生を遙かに豊かにしたのだろう。彼に対する尊敬と敬愛、こんな男に認めて貰いたいという意地、そしてこんな所で終わりたくないという出世欲が俺に生涯、彼に付き従う事を運命づけたのだろう。




一人のラインペッツ人がレイに忠誠を決意したとき、他の部下達は大いに心を乱されていた。

幸か不幸か、この部隊の十兵長はバルス以外全員バルセリナ人だったのだ。二つの国の人種は非常に共通点が多く、本人が語らなければ判断はつかない。

そしてそんな部下達の一人、本名ラグス・ガーダス。苗字があることから彼が高貴な出であることが分かる。故に今彼はただのラグスと名乗っていた。

とはいえ没落した貴族であるガーダス家は平民同然の生活をしていた。もちろん最下層の生活では無いが。だから彼は王家への忠誠や貴族の誇りとは無縁の環境で育ったのだ。

それこそが彼をこの場に立たせている。普通の貴族ならとっくに何処かでのたれ死んでいただろう。そして彼の若さは彼に野心を持たせるのに十分だった。すなわち出世することで帝国貴族になり、居城をバルセリナに置こうと思ったのだ。これは他の八人も同じだろう。そしてその悩みも・・・

この隊長は既に自分より進んでいる。もしかしたら今後の出世の妨げになるのではないか?

と皆一様に悩んでいるのだ。

「ああ、一応言っておくが俺に忠誠を尽くし味方してくれるなら、俺はその恩賞を必ず返すぞ。」

この一言が彼に、いや彼らに決心をさせた。

こうしてレイは忠臣を十人手に入れ、部隊をまとめたのだ。




誓歴2305年10月1日

レイネルドは親衛隊を率いてザルデューン神殿に居た。

歴代の王はここである儀式を行うのだ。

「さぁ、殿下この剣にお触れください」

それは過去に統一王デニス・ラングートが自らの魔力や霊力を練り込んで造らせ、振るったと言われる神剣、覇皇刀ラングートに触れるというただそれだけの事だった。

確かに神剣と呼ばれるだけ会って(剣では無く刀だが)荘厳な雰囲気をこの華やかな神殿に作り上げている。

私は刀に触れた。そして・・・

《若き女王だな》

ぎくりとした。辛うじて刀から手を離さずに済んだのは声が優しかったからだろう。

《うら若き女王よ。汝の願いを言ってみろ。》

私の願い?

《野望でも良い。今最も欲することは何だ?》

私の、私の望みはこの国を民主主義にすることだ。

その時、確かに私にはこの剣の感情が伝わった。面白いと

《良いだろう。どうやら久しぶりに主が見つかったようだ。汝の願いが叶うその時まで力を貸そう。》

いつの間にか刀に触れていただけの私の手が刀をしっかりと掴み、台座から抜き放とうとしている。

そしてあっさりと刀は台座から離れ、私の手に収まった。

《祝いだ。この神殿のフェリスという男神官を連れて行くと良い。頭の切れる若者だ。きっと役に立つだろう。》

しばらくの間、呆然と刀を抱えることしか出来なかった。













王者が乱立する時、各地の強者はそれぞれの主を求めて歩み出す。

主の為に幾万の屍を築きあげては乗り越えていく。

さぁさぁ、遂に加速し始める物語。次話で残り三人の臣下を書き上げて、さらに加速して参ろうと思います。

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