並び立つ王
場所は移り、東のラインペッツ帝国と対をなす西のラングート国際連合国。
その最高議会で今まさに新たな指導者が誕生しようとしていた。
「皆さん!私バース・ドゥラーデンはこの選挙最後の演説で言っておきたいことがあります。」
わざと間を開ける。
「約三百年前。統一王と呼ばれ、大陸に覇を唱えた最初の人物、覇王デニス・ラングート。彼が行った民族融和により現在のように白人(エルフやセイレーンの血が濃い者)の隣に黒人(ドワーフやダークエルフ、オーガの血が濃い者)が座り、私の様な黄色人(ヒューマンの血が濃い者)が皆さんの前で話すことが出来るわけです。」
そこで一旦区切る。
「偉大なる覇王は、世が平和に、平等であることも望みました。ところが今再びこの世界は戦火に覆われようとしています。東の不平等な支配をする帝国がその邪気を全世界に広げようとしているのです。この未曾有の国難において、我々政治家の敵は他党では無く人類共通の敵である絶対王政でなければなりません。故に私が落選しようとしなかろうと皆さんを激励する言葉を贈ります。」
両手で机をバンと叩いて、意気込む。
「例えどれほど強大な敵であろうと正義は我らにあり、奴らがどんなに正当性を並べ立てたところでそれは保身からでた虚偽の塊です。この地に統一王の目指した世界を民衆の手で作り上げようではないですか。」
一部の熱狂的な信者が拍手をおこし、それが伝播してここに居る全ての人が彼に拍手喝采を送った。
ラインペッツ帝国、旧バルセリナ領
五年前ラインペッツに破れ、以降第二皇子の所領となったこの地には未だに大地の抉られた後が残っており、戦争の悲惨さを伝えている。
「アレシア!良く無事で」
そしてこの地の支配者が居るこの城に居てはならないはずの無い女性が帰還を歓迎されていた。女性の傍らには蒼と金の派手な服を着ている美男子が佇んでいる。
「あなたこそ・・・それよりごめんなさい。私達まんまと引っかけられたみたいね。」
彼女は道中に例の命令書と第三皇女の行動を知ったのだ。今まで民衆に露呈していなかった王家の亀裂が世間に知れた。
「良いさ、まだやりようはある。とりあえず襲撃は成功したんだ。ゆっくり休むと良い。」
アレシアが去った後、デュークのみが残った。
「デューク、お前ほどの戦士と対等に渡り合う者でも居たのか?」
「ああ、俺も驚いたよ。突然男が出てきて、斬りかかったら逆に殺されるところだった。」
「それほどまでの強者がいたとは・・・」
「まだ世界にはいくらでも強い者はいるさ、特にこんな時代はな」
やがてデュークも去ると、一人残された彼、ガーデリス・ラインペッツは窓から東を見つめた。帝都のある方角だ。
「レイネルド、お前が相当な切れ者であることは知っている。だがな所詮は子供だと言うことを肝に銘じておけ」
そして彼もそこから去った。
誓歴2305年9月20日
ラインペッツ帝国の帝都において皇帝が第三皇女レイネルドを正式に次期皇帝と定めた。
この時既に帝都に彼女に反対する者はおらず、最後まで反対した者は死んだか、帝都から逃げ出していた。また反対派の粛清と同時に反逆者を討伐するための軍も編成され、その中に百人を指揮する百兵長として新たにレイネルドのカードとなった男が居た。親衛隊に入っていないのは、彼が力量を見込まれ、軍内に味方をつくる為だ。
「とはいえ百人からか・・・道のりは遠いな」
彼、レイが祖国を滅ぼした敵国に味方するわけは簡単だった。
外から攻撃して手に入れるよりも内からの方が早く、残る物も多いと思ったからだ。
そもそも彼にとって祖国の姫は彼の村をめちゃくちゃにした疫病神に過ぎない。
そんな彼に預けられた百人は人種がバラバラで特にグループというものも出来ていないようだ。
「隊長、全員集まりました。」
帝都の外壁の外、現在討伐軍が集結している場所の一角だ。そこにレイと十名の十兵長が集まっていた。
皆若くレイとそう歳は変わらない。
「この中に実戦経験のある者は?」
誰も手を上げない。
「そうか分かった。俺もこんな大規模な戦闘は初めてだ。だがなこれは反逆者の討伐でしかない。戦争じゃ無いんだ。こんな所で死ねない。お互い生きて帰るぞ。」
「はい!」
誓歴2305年、統一王の目指した世界は今だ出来ていない。それどころか人は再び分裂し、世界に傷痕を残そうとしている。
後の世に第二次大戦と呼ばれる戦争は多くの人がそれぞれの野望を胸に、こうして始まったのだ。
第四話キターーーー
ええ、二話三話と後書きが書かれておらずすいません。
今回のタイトル、並び立つ王に合わせて今出ている王を紹介しようと思います。
西の民王、バース・ドゥラーデン
亡国の姫、アレシア・バルセリナ
帝国の鋼槍騎士、ガーデリス・ラインペッツ
賢美戦姫、レイネルド・ラインペッツ
そして最後に
英知蒼狼レイ
さて今後の彼らの動きに注目です。