その弐拾
(俺の力は人を相手に振るう物で非ず。この世界の森羅万象を害する外なるモノを断つ剣なり)
己の師より送られた座右の銘を宣言すると共に、心中に深く刻み込み、父を救う決意を新たにする。
(……その扉の先です)
明火は静かに主に告げる。
仁兵衛もここに至り、強大な気が満ちあふれていることに気が付く。
(やはり、気が探りにくいな、ここは)
これだけの気を至近距離まで察知できなかったことなど今まで無かった仁兵衛からしてみれば、まるで目隠し鬼をしている心境であった。
(かなり特異な空間のようですわ。気自体の力は変わっていないようですけど、ある程度の距離まで近寄らなければ察知しにくいようですわ)
(気の察知に頼りすぎると不覚を取る、か)
渋い表情を浮かべ、太刀を右太刀に構えた。
(左太刀では無いので?)
不思議そうな雰囲気を漂わせ、明火は仁兵衛に尋ねる。
(親父様に左太刀は右太刀を掴みきるまでなるべく使うなと云われていてな。どうも、癖が強いらしく、複数人と闘う場合は右太刀にしておけと云われた。左太刀は、親父様に習った物ではない我流だから、右太刀を極めてからそれを下敷きにしようと思っているんだが、未だに上手くいかない。慶一郎と遣り合えば何か見えてくると思ったんだが、達人相手の間の取り方は見えてきたが、足捌きの方がまだまだだな)
心中で溜息を付いて仁兵衛は、(まあ、今ある武器だけで闘っていくしかあるまい)と、覚悟を決めた。
深呼吸を一つし、そのまま扉に駆け寄り、容赦なく蹴破った。




