その壱拾九
当然ながら、弭槍と本式の槍ならばどう足掻いても槍の方が優勢である。こればかりは武器の構造上仕方の無い話だ。所詮弭槍とは一時しのぎの武器に過ぎない。
過ぎないはずなのだが、与次郎の直観が慶一郎の弭槍がただの弭槍で無い事を告げていた。
与次郎の片鎌槍とて、慶一郎の十文字槍に劣るとは言え、ただの片鎌槍では無い。気の伝わりが良い桃製の柄を当代随一と云われた魔力付与術者により強化させた物に、扶桑時代より伝わる伝説級の穂先を組み合わせた名槍である。これを越える槍など、東大公家広しと言えど存在し得ない。
(いや、あるとするならば、雷文公の三秘宝。原に伝わるとされる金剛の槍。だが、あれは我らにとって諸刃の剣。だからこそ、この場にこの莫迦弟子が持ち出していない。……だが、何だ、この違和感はッ!?)
先程からやけに引っ掛かる何かを無理矢理押し込め、膠着した場を無言で再び動かす。
慶一郎はそれに弓の両端に備え付けられた穂先で応じた。
(主様、近いですわ)
明火に誘導されながら、知らぬ道のりを最短で仁兵衛は駆けた。
流石の仁兵衛も慶一郎が完全武装した己の師匠を打倒できるとは考えていなかった。仁兵衛でさえ慶一郎の助力さえ在れば──時間を掛けることが許された場合──何とか下せるかどうかと言う達人である。同門、それも師匠筋に当たる上位者を相手に勝とうとなれば余程のことが無ければまず無理であろう。友を過大評価する事も、敵を過小評価する事も今この場に於いて自殺行為であった。
(……強いて云うならば、兵四郎殿ならば打破できる可能性を有していたか)
(あの方ならば勝てたやも知れませぬね。主様と盟を結んで以来、あれほどの使い手を見たことはありませんわ)
慶一郎の推測に明火は同意の相鎚を打つ。(主様も負けてはいないと思いますけど)




