その壱拾六
「相棒! ここは俺に任せてさっさと先に進め! このクソ爺に二人がかりで勝ったところで、俺達にとっての勝ちが転がり込んでくるわけじゃない。見え見えの時間稼ぎに乗るな!」
慶一郎の叱咤激励を受け、瞬時に覚悟を決めた仁兵衛は行きがけの駄賃とばかりに右手で抜いた太刀を与次郎に叩き付け、そのまま脇を抜け居ていった。
当然、それを止めようと与次郎は動いたが、至極正確に急所に射込まれた矢を防ぐために行動がいくらか遅れたため、一撃防いだ後の反撃をする暇が無かった。
猶も仁兵衛を追おうと馬を返そうとするが、慶一郎の殺気に馬が気圧され、間を逸した。
「この莫迦弟子が。師匠の為す事の邪魔をするか!」
「間違っていることを止めるのも弟子の務めと云うがね、クソ爺」
与次郎を鼻で笑い、慶一郎は啖呵を切った。
「ほざけ、青二才が! 我らが世を纏めずして、誰がこの乱世を治めるというのだ!」
そう言うや否や、与次郎は片鎌槍を振るい慶一郎に襲いかかる。
「ハッ! 雷文公が我らに与えた本分を忘れ、戦に現を抜かす痴れ者が! あんたにとって戦が出来るのなら、大義名分なぞ何でも良いんだろうが!」
轟音撒き散らし、迫り来る片鎌槍を手にした弓で受け流し、必死に馬の進路から身を逃す。
「抜かしおるわ、若造が! 得意の得物も馬も無く、この儂に勝てると思っておるのか、増上慢めっ!」
「やってみなければ、分からんさ!」
慶一郎は目一杯虚勢を張り、縦横無尽に駆け巡る与次郎が放つ必殺の一撃を何とか避けて反撃の機会を探る。
「避けるだけで儂に勝てると思うなよ、若造」
容赦なく与次郎は避けるので精一杯の慶一郎は徐々に追い詰めていった。




