その壱拾五
「魔導の力か、この場所に何らかの力が働いているのか。興味深いところだが、今はどうでもいい話だな。特にそれが問題で何かが起こると云う事もなさそうだ」
さばさばとした表情で慶一郎は笑い飛ばした。
「そうか。ならば押し通るのみ」
「だな。相棒は上様の元に行くことだけ考えていてくれ。お前さんの背中は俺が何とかしよう」
自信に満ちた笑みを浮かべ、慶一郎は仁兵衛の肩を叩く。
「分かった。任せる」
短く返事を返し、仁兵衛は廊下を前へと進み出した。
慶一郎はその後に続き、いつでも矢を番える態勢を取った。
廊下は直ぐに終わり、慶一郎の予測通り騎乗した武者が待ち構えていた。
「初めてお目に掛かる。儂が星馳騎突流当主一色与次郎忠晴。そこの莫迦弟子共々お相手願おうか?」
「だが、断る」
仁兵衛が何か言う間もなく、口上が終わるや否や、慶一郎は神速としか形容出来ない動きで矢を射掛けた。
何の造作も無く、与次郎は片鎌槍を一閃して矢切をする。
「フン、莫迦弟子が。戦場の作法も知らぬと見える」
「ハッ、引き際を間違えているクソ爺に教わることなぞ無いよ。お迎えが近いんだ、さっさと去ね!」
瞬時に矢を番え、目に止まらぬ速さで二矢三矢と打ち込む。
当然のようにあっさりと矢切をするが、大きく動く前に牽制の矢を放たれ、与次郎は足止めされていた。
仁兵衛は加勢するべきか、それとも脇を抜けて先に進むべきか悩んだ。




