その壱拾四
「応ともさ!」
力強く相鎚を打ち、慶一郎はそれに続いた。
二人が消えた後、暗がりの中から有棹弦楽器を携えた男が爪弾きながら【門】へと近づいて、そのまま光の中へと歩み去った。
直後、【門】は再び光を失い、その場に何者かがいた証拠を何一つ残さず、再び部屋は闇に飲まれた。
魔導による転移特有の筆舌し難い水中を踠くかの様な感覚の後、二本の足で確りと地面を踏みしめた。
取り戻した感覚で手早く気を探り、直ぐさま闘わねばならない距離に敵が居ないことを確認する。
「そんなに気を張らなくても、師匠はこんな狭い場所で待ち構えないさ。あの爺は、馬に乗っているだろうから縦横無尽に駆け回れる場所で待ち構えているだろうよ」
何事もなかったかの様に、慶一郎は仁兵衛に声を掛けた。
「そうか」
「ああ。どうやら現世ではないようだな」
廊下の柱と柱から見える光景は、どこまでも真っ白な何もない空間が存在しており、居心地の悪さを感じさせた。
「リングラスハイムの迷宮に似ている気がするな」
「もしくは、魔王が作り出した疑似空間とやらに、だ」
二人は銘々今まで経験してきた中で似た感覚を持っていた場所を口にした。
「確かに、並みの使い手ならば、心が折れるやも知れんな、この場所は」
仁兵衛は纏わり付いてくる不思議な圧迫感を意志の力で撥ね除けながら観察する。「様式から見るに、初代様の頃の扶桑建築か。ただ、全くと云って良いほど劣化していないな」