その壱拾壱
「リングラスハイムのは起動しているものしか使えなかったからな。起動していない状態の【門】など、予測も付かん」
仁兵衛は金属柱に手を当てながら、何らかの力の流れがないものかと探るがうんともすんとも反応が無い。
「聞いた話に拠れば、何か所定の合言葉で活性化するものもあるとの話だが、心当たりあるかい?」
金属柱をグルグルと回りながら、慶一郎は仁兵衛に尋ねた。
「……多すぎて絞り込めん。親父様から聞き及んだ初代様絡みの昔話の中に答えがありそうなんだが……」
困り果てた顔で仁兵衛は首を傾げる。「この場でぴたりと当て嵌まる物が思い当たらない。そっちは?」
「俺の方も、口伝にそれっぽいものはあるんだが、確かにどれだか分からんなあ。それに、合言葉だけで起動するかも怪しいか。とりあえず、柱を調べてみるか?」
「ああ、そうだな。軽く調べてみよう。何かありそうなら、灯りを灯してじっくりと観察するとしようか。まあ、当主にのみ与えられる何かが起動の鍵だとしたら、お手上げだがなあ」
慶一郎の提案に賛成すると、仁兵衛は柱に何らかの細工が無いか手触りと月明かりで探り始めた。
「全くだ。しかし、それだと援軍の期待が出来ない籠城となるから、上様なら他の手を考えると思うがね」
「同感だ。親父様のことだ、何らかの方法で俺達が【奥之院】に到達出来ることを計算していなければ、他の手を打っているだろうさ」
ふと何かを思いついたのか、慶一郎の方を見て、「ここが囮という可能性は?」と、問い糾す。