その壱拾
そして、目に入ってきたものは月明かりに照らされた一対の金属柱であった。
「相棒、何かあったか?」
「十中八九、【門】と思わしき柱が一対あるな」
至極冷静に仁兵衛は答えた。
「何だと?!」
流石にその展開は予測していなかったのか、慶一郎は慌てて駆け付ける。「ああ、確かにこりゃ【門】だわ。随分とぞんざいに置いてあるな」
「俺達にしろ、冒険者として迷宮やら遺跡やらを巡っていなかったならばただの金属柱にしか見えなかっただろうから、遣り方としては正しいのだろうが……ぞんざいにも程がある」
仁兵衛も又中半呆れ顔で溜息を付いた。
「それにしても【門】か。【奥之院】はこの先にあるとすると、現世には存在しないと云うことか」
「そうなるか。だからこそ、誰もその実在を知らなかった。故に、親父様は敵を限定する意味で【奥之院】に籠城することと決めた」
「まあ、雑兵無数より、【旗幟八流】の当主数人を相手にした方がその後の処置が楽になるわけだからなあ。上様らしい深慮遠謀と云えるが……」
慶一郎は金属柱を調べながら、「さて、この【門】を活性化させるにはどうしたらいいものか」と、首を傾げた。
【門】。
【転移門】とも呼ばれている太古の魔導技術の塊である。何らかの条件付けに従い、本来は繋がっていない空間を魔導の力により接続する失われた技術とされている。この時代、【門】の存在を知っているのはそれを研究している魔導師か【転移門】で各層が連結されているリングラスハイムの迷宮に潜っている冒険者ぐらいのものだった。