その九
「まさか……」
ある推測に至り、若い男は絶句する。
「一度だけ、慶一郎から聞いたことがあっての。原の当主に代々課せられた使命があるらしい。雷文公の親友である原宗一郎の血を引く者に自らが課した使命が、な」
感慨深げに長谷川はそう呟く。「全く以て、羨ましき限りよ」
「それが、綺堂仁兵衛、だと?」
「身を立てる証が太刀一振りしかなけれども、儂は懸けるに値すると見た。なればこそ、為すべきを為す」
長谷川はそう言い残すと、その場を離れた。
男は扉と長谷川を交互に見た後、慌てて長谷川の後を追った。
「……あっさり通して貰えたな」
不思議そうな表情を浮かべ、仁兵衛はぽつりと呟く。
「何、これも日頃の人徳ってものさね」
愉快そうに慶一郎は笑うと、ばんばんと仁兵衛の肩を叩く。
「素直に信じて良いのか分からん」
正直な感想を仁兵衛は述べた。
「ま、良いってことさ。それよりも、今は【奥之院】について調べねばな。ここが【奥之院】でないことは間違いないようだからなあ」
左右を見渡し、「少なくとも、あのクソ爺が現状一番頼りになる高弟を見張りに置いていたのだから、【奥之院】絡みの場所なのは間違いないんだが、さてはて。どこに【奥之院】への道筋が隠れているやら」と、探り始める。
仁兵衛も辺りを軽く見渡した後、素直に部屋の一番突き当たりへと足を進めた。
仁兵衛の経験上、何かあるとすれば入り口から一番離れたところか、思わず虚を突かれたと思える場所に何かあるものである。それを鑑みて、素直にまずは一番奥から調べることにしたのだ。




