その八
「調べれば分かる事だがな、太刀は二代目竜武公の養父であった阿賀真一郎孝寿様に長年の忠勤を讃えて下賜された」
「すると、今は阿賀の本家に伝わっているので?」
話の流れからそう推測し、男は長谷川に聞き返した。
「否。儂も一時期そう思っていたのだが、どうも違うらしい。伝わっているのならば、阿賀本家当主の証として伝来されていてもおかしくないのだからの。今ではどこに伝わっているかも分からぬ秘法中の秘宝。……と、されている」
外聞を憚るかのように、長谷川は最後の部分を聞こえるか聞こえないかの囁き声で呟く。
「どういうことです?」
興味を引かれたのか、男は身を乗り出した。
「まあ、ここからは慶一郎の話の受け売りなのだが、金剛の太刀は当時孝寿公の手元で養育されていたとある貴人に譲り渡されたとの話だ」
長谷川は何気ない調子で、「まあ、原の家に伝わる口伝だがな」と、付け加えた。
「貴人、ですか?」
はたと何かに思い当たったのか、「その子孫があの男だと?」と、驚きの表情で問い返した。
「あの太刀の重さ、間違いなく金剛であった。その上、刃紋が見たこともない美しさで、古今東西如何なる扶桑の鍛冶師でも打ち出せそうにもなかった。付け加えるならば、既存のどの刀鍛冶門派でもあの刃紋は存在しない。秘宝、金剛丸に相違ない」
確信を持って長谷川は断言した。
「……して、その貴人の正体とは?」
恐る恐る若い男は長谷川に問い尋ねる。
「最初の虹の小太刀の持ち主たるあの孝寿公に預けられた貴人じゃぞ? 少なくとも養子であった竜武公由来ではないだろうな。竜武公からの預かり物ならば、別段隠す理由がないからの」