その七
「そのうちの一振りを原の家が代々継いでいることも知っておるか?」
「は? あの慶一郎が、ですか?」
意外な切り口に男は思わずぽかんとした。
「如何にも。これは彼奴から前に直接聞いた話だから間違いない。事実、如何なるものだったのかも聞いたことがある。一振りは太刀、一振りは槍、もう一振りは……まあ、鉄扇じゃから、一本と云うべきか、一面と云うべきか……」
「はぁ」
長谷川が何を言わんとしているのか全く見当も付かず、若い男は思わず気の抜けた相槌を打った。
「まあ良い。要は、山小人が雷文公様への友情と感謝の証として、扶桑伝来の鍛冶手法で優れた武具を打ったという事だ。ただし、玉鋼ではなく金剛であったらしいがの」
「はっ? 金剛? あの、鋼よりも重くて堅い、あの金剛ですか?」
想像の埒外としか言い様の無い話を聞き、男は素っ頓狂な声を上げる。「気の伝わりが悪い癖に莫大な量の気を溜め込めるという扶桑人の武芸者にとって致命的とも云える程、相性の悪いあの金剛?」
「然り。当時はまだ、金剛が気の通りが悪いとは知られておらなかったのでの。善意から硬くて強靱な金剛が材料として選ばれたらしい。結果として、最悪の選択になったという事じゃが、出来は良かったのでの。それぞれ功臣に褒美として授けられたそうじゃ。そのうち槍があの慶一郎の家に譲られたらしい」
「まあ、原の家は古い上、雷文公様の親友であったとされていますからね。それは有り得る話でしょう」
若い男も、長谷川の話に納得した。
原慶一郎は若輩者で奇矯な振る舞いはあるが、扶桑以来の武の名門の後継者である事までは否定できない。それこそ、彼の家に伝わる家宝は扶桑より持ち出した名品の一つや二つ処ではすまないであろう。




