その五
「お初にお目にかかります。長谷川喜助と申します」
長谷川は丁寧に仁兵衛に挨拶する。「この男から聞き及びましたところ、珍しき太刀をお持ちとか。宜しければ拝見させて頂けませぬか?」
流石の仁兵衛も、この展開には面食らい、大刀と小刀を拾っている慶一郎を見た。
「悪いがそうしてやってくれないかね。それがここをただで通して貰う条件でな?」
真面目な顔付きで、慶一郎は仁兵衛に促す。
それを聞き、仁兵衛は悩むことなく太刀を腰から外すと長谷川に手渡した。
「御免」
長谷川は両手でそれを捧げ持とうとして思わず顔を歪めた。
その態度に不思議なものを感じた仁兵衛が声を掛けようとするよりも先に、
「綺堂殿。貴殿、この太刀を何時から使われていたので?」
と、長谷川が問い糾してきた。
「物心ついた頃から持っておりましたが、それが?」
「いえ……、それならば宜しいのです。抜いても宜しいか?」
答えを聞いた瞬間、顔を僅かに強張らせ、間を置いてからそう尋ねてきた。
「御随意に」
何がここまでこの歴戦の勇士を怖れさせているのか理解出来ないまま、仁兵衛は許可を出した。
「ありがたく」
長谷川は丁重に鞘より太刀を抜く。
刃を見た瞬間、その顔は驚愕に彩られ、そのままの姿勢で暫く長谷川は凍り付いた。
「……結構です。お通りを」
気を取り直した後、鞘に収めた太刀を仁兵衛に返し、道を空けて片膝を突いた。
急な展開にどうして良いのか分からず、仁兵衛は慶一郎の方に振り返る。