その参
「……確かに」
慶一郎の指摘に長谷川は渋々認めざるを得なかった。
「そしたら、うちの流派二つに割れますなあ。少なくとも俺は兄者に付きますが」
「だろうな」
その将来が見えたのか、長谷川は非常に渋い表情を作る。
「その上、こちらの総大将は間違えなく平崎先生だ。正直の処、勝てると思っているんですか?」
「……まず勝てまいな。平崎右近、東大公家随一の名将よ」
立て続けに間違いなく起こり得る未来を提起され、長谷川の顔は苦渋に満ちた。
「まあ、先生自体は恨んでないでしょうが、うちのクソ爺様があの人を【旗幟八流】の当主にさせなかったという実績がありますからねえ。これ幸いと爺を破滅させた上、先生の信奉者が紫を求めても俺は驚きを覚えませんよ。まあ、先生は断るでしょうが、上様のことだ。その代わりにあっちの流派を第二位に昇格させることは大いに有り得る。史上初めて、我らが流派は第二位から転落ですよ。その上、当主が謀反人。例え、兄者が汚名を雪げても【旗幟八流】に残れるかどうか……」
懸河の流れのように慶一郎の弁は勢いと説得力があった。
それに押されたのか、長谷川は黙り込む。
「まあ、これはうちの流派に有り得る未来を話しただけですがね。余り面白い状況じゃありませんよね」
にやにや笑いながら慶一郎は続ける。「正直云えば、どうでも良いことなんですけどね」
「どうでも良いとは何事だ、若造!」
流石の言い様に、長谷川は再び激昂した。
「まあまあ。これから話すことに比べれば、実は大したことないんですよ。刺身のつま程度の話題でしてね。ああ、ところで、近寄っても宜しいですか? これから話す内容は、今はまだ秘密にしておきたいものでしてね。お耳を拝借したいのですが」
慶一郎は珍しく控えめな口調で懇願した。