その弐
「原! 貴様、一体どの面目晒してここに来た!」
年配の男が慶一郎に食って掛かった。
「いやいや、御諚御尤も。ですが、俺の顔に免じて話ぐらいは聞いてくれませんかね」
にやにやと笑いながら、慶一郎は無防備の儘どんどん近づいていった。
「待て、流石にそこから動くな! 話は聞いてやる。貴様の間合いの外から話せ!」
男は慌てて慶一郎を制す。
「それでこそ。身を晒した甲斐があるってもんですよ」
軽口を叩きながら、慶一郎は制止した。
「して、何様だ。いや、用は分かる、通しはせんぞ?」
男は先に牽制を掛けた。
「ははは、御尤も御尤も。ですが、俺の話を聞いてもそうしていられますかね?」
人の悪い笑みを浮かべ、慶一郎は男に問いかける。
「ならば聞かぬぞ?」
「まあまあ。お聞きなさい、長谷川殿。あんた、一体何しているんですか? 流派を割るつもりですか?」
いきなり真顔で慶一郎は弾劾した。
「貴様、何を云い出すかと思えばッ! 割っているのは貴様の方だろうが!」
「まあ、今はそうなんですがね。近い将来もそうだと思いますかね、あんたほどの人が?」
激昂する長谷川を静かに諭す。「あのクソ爺が反旗を翻したからと云って、兄者が味方しますかね、この場合?」
「ムッ?」
初めてそれに考え至ったとばかりに長谷川は言葉を詰まらす。
「そりゃ無いでしょう。あの人、上様と父親どちらを取ると訊かれたら、上様を取りますよ。その上、自分の父親が上様を弑虐したと知ったら、家の不名誉を雪辱するために、あの爺を自らの手で殺しますよ」




